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@IT > 第10回ESECレポート:NGN対応で一気に差を広げるウインドリバーの総合力 |
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今回のESECにおいて、ウインドリバーが特に力を入れたキーワードは「NGN(次世代ネットワーク)」である。100年かけて築かれてきた従来の通信網がNGNに向け、大きく変わり始めている。高信頼、高品位で多様な通信サービスを実現するNGNでは、そこへつながるネットワーク機器への要求も飛躍的に高まる。これに対し、ウインドリバーはどのような提案を用意しているのか。
多様な製品ポートフォリオを持つウインドリバーだが、その中でもVxWorks/Wind River Linuxが軸となるのは間違いないし、今回のESECでも話題を大いに喚起していた。 ブース展示では、VxWorks/Wind River Linuxを採用した最新デバイスが公開され、その中でも目を引いたのは、ワンセグ放送に対応したモバイル放送のポータブル衛星放送受信機「モバHO!」である。Wind River Linuxのコンシューマ機器版を搭載するという。ウインドリバーの手掛けるLinuxはカーネルこそ標準(プリンスティンソース)だが、スタック・ミドルウェアを独自に味付けしたプラットフォーム製品である。それが、ハードウェア制約が厳しい携帯メディアプレーヤにも通用する域に達していることがうかがえた。
6月中旬に登場する新バージョンのVxWorks Platform 3.5、Wind River Linux 2.6.xもなかなか興味深かった。セミナー発表では、両製品のネットワークスタック全般を従来の自社開発品から旧インターピーク(2006年3月にウインドリバーが買収)のものへ切り替え、共通化していることが明らかにされた。 「新しいスタックはフットプリント(メモリ使用量)が小さく、われわれの従来品より1〜2割、特にLinuxでは、オープンソースネイティブより3〜4割小さい」という。このほか、両Platformの新バージョンは、セキュリティ機能を拡張したり、VxWorksのデバイス管理用ミドルウェアをWind River Linuxでも使えるようにするなど見所が多い。製品リリース時に詳細な発表があるだろう。
さらに、早くも2007年末にリリース予定の次期バージョンの機能紹介もあった。VxWorks Platformの目玉はSMP(対称型マルチプロセッシング)対応である。VxWorksは現行、1つCPUコアに1つのOSを割り当てるSMPだが、次バージョンでは、1つのOSでマルチコアCPUに対応するSMP型も投入するという。 OSがSMP対応だと、アプリケーションをマルチスレッド(パラレル処理)化でき、コアの個数に正比例して性能を引き上げられる。「消費電力と性能の兼ね合いから、組み込み機器でも(動作周波数当たりの性能が高い)マルチコアCPUのニーズが高まっており、VxWorksのSMP対応も望まれていた」という。展示ブースでは実際、インテルのDual Xeonを2基搭載した評価ボード上で開発中のSMP型VxWorksを走らせていた。
SMP型OSではアプリケーション開発が難しくなるといわれるが、そこはマルチコアデバッグに対応したWorkbenchで支援していくという。展示ブースでは実際、「Wind River ICE」(WorkbenchのオプションとなるJTAGデバッグツール)において、1本のJTAG接続で複数のコア(単一CPU上、複数CPU上)を同時、あるいは特定コアを選んでデバッグするデモが行われていた。「マルチコアの同時デバッグができるJTAGデバッグツールは珍しい」という。すべての操作は、EclipseベースのWorkbench上で行えるので開発者もなじみやすいだろう。
一方、Wind River Linuxの次期バージョンは、ハードリアルタイム技術の実装が目玉になりそうだ。ウインドリバーが2007年2月に米FSMLabsから買い取ったハードリアルタイムLinuxの技術を組み込むという。展示ブースでは、同技術を搭載した独インフィニオン製“Linuxケータイ”も出品され、来場者に期待感を持たせていた(同製品は、ウインドリバーが技術を買い取る前に開発が進められていたもの)。 高品位なマルチメディアデータをQoS制御しながらやりとりするNGNでは、ネットワーク機器にもシビアなハードリアルタイム性が要求されるが、ウインドリバーは、それにLinuxでも応えようとしている。 以上のように、VxWorks/Wind River Linuxは新・次期バージョンとも、かなり魅力的な機能拡張が控えている。こうして一定間隔で確実に進化を続けていることが両製品の特徴である。NGN時代のネットワーク機器開発を支えるのにふさわしいプラットフォームといえるだろう。
今回のブース展示では、ウインドリバー製品を生かしたパートナ・エコシステムも目立った。まず、通信設備機器向けボード製品を複数展示していたが、いずれも、ATCA(Advanced Telecom Computing Architecture)に対応しながら、Wind River Linuxのネットワーク機器版(キャリアグレードLinux)を搭載するもの。ウインドリバーとATCA機器向けCOTS(独自開発を含まない既製商用品の組み合わせ)ソリューションを共同展開するラディシスの「PROMENTUM」などが目を引いた。 「通信機器設備でも標準的なボードを採用、開発期間を短縮しようという動きが目立つ。特に携帯電話基地局向けは、キャリアの意向でLinuxが標準OSになってゆく見通し。われわれもパートナとの協業でポスト3G需要を狙う」との意気込みが担当者からは聞かれた。 ホームゲートウェイに向けては、NTTエレクトロニクスが開発した専用LSI「RENA-CHIP®」とVxWorks Platformのコンシューマ機器版を搭載したリファレンスボードを展示していた。RENA-CHIP®は、スループット1Gbps(双方向で最大2Gbps)という家庭向けとは思えない性能を秘めたチップだが、そのパワーを生かすのがVxWorksである。 高いレベルの信頼性・性能からインフラ側の通信設備機器で多用されてきたVxWorksが、家庭の通信機器にも入り始めようとしているのだ。それこそ、NGN時代の到来を物語っている。「2010年でFTTH普及、3000万回線を計画するNTTグループとしては、音声・映像・データのトリプルプレイで新しいビジネス展開を考えているはず。本格的なNGN時代には、ホームゲートウェイでも、これぐらいの性能が求められる」。
ホームゲートウェイで受け取った各種データは、家庭内の各端末でやりとりすることになるが、それに向けては、ウインドリバーとフリースケール、デジオンの3社が協同開発したDLNA(Digital Living Network Alliance)対応ホームAVサーバ向けプラットフォームをアピールしていた。Wind River Linux(汎用版)に「PowerQUICC II Pro(MPC8349 E)」というフリースケールの強力な通信プロセッサ、デジオンの業界標準的なDLNAミドルウェア「DiXiM」を組み合わせたもの。この組み合わせは、昨年のESECでも披露されていたが、DLNA対応のデジタルAV機器が増えてきたので、より現実的なソリューションとなってきた。担当者によれば、「今年の展示では、(DLNA非対応の)テレビに接続し、DLANコンテンツを再生するメディアプレーヤ側に注目が集まっている」とのことだった。 そのほか、パートナとの協業により実現したエコシステムとしては、標準OSの1つとしてWind River Linuxを採用する、NECエレクトロニクスのソフトウェア開発基盤「platformOViA」も紹介されていた。platformOViAは、携帯電話、デジタルAV機器、車載システムと幅広いジャンルを狙った開発基盤だが、特にWind River Linuxは、「携帯電話向けソリューションのOSとして期待されている」という。これだけ幅広いパートナと協業し、ユーザーの機器開発を実践的に支援するソリューションを提供できるのは、ウインドリバーならではだろう。
ESEC会場内で同社が主催したセミナー『次世代ネットワーク(NGN)に向けた新ネットワークソリューション』で、同社マーケティング本部の若山朱美氏は「ウインドリバーの4つのレイヤにわたる製品は、NGNに対応したエンド・ツー・エンドのネットワーク機器の開発・実行・管理をトータルにカバーする」と力説した。 4つのレイヤとは、組み込みOSである「VxWorks/Wind River Linux」、両OSに対応する単一の開発スィート「Workbench」、独自に開発・選抜したスタック・ミドルウェア、数多くのパートナ・エコシステム(ボード製品やプラットフォーム製品)である。 一方、エンド・ツー・エンドのネットワーク機器とは、コアルータなど通信設備機器から各種ホームゲートウェイ、ユーザー端末となる携帯電話や情報家電までを指す。それらの機器の開発・実行だけでなく、出荷後の運用管理まで支援するというのだ。
今回のESECでウインドリバーは、同社が最近とみに力を入れる「デバイス管理」も随所でアピールしていた。「実行」のVxWorks/Wind River Linux、「開発」のWorkbenchに続く新しい製品領域だ。 開発中のバグを検出するテストツールは数多くあるが、同社の提供する動的診断ツール「Field Diagnostics」は、出荷済み機器に対し、ネットワーク経由で診断用パッチを実行中のプログラムへ動的に埋め込み、必要なデータを収集・解析。問題があればホットパッチ適用で対処できるというもの。
米ウインドリバー社から来日したデバイスマネジメント部門バイスプレジデントのNaren Nachiappan氏はセミナー『機器を止めずにパッチをあてる遠隔診断ツール』で、「出荷済み機器の問題解析に開発時間の3割を費やしている企業もある。Field Diagnosticsを使えば、機器を止めたり、人が現地に出向くことなく、素早く問題に対処でき、コストと時間を大幅に節約できるようになる。Field Diagnosticsはサーバ運用なので、たとえ品質検証チームと開発チームのロケーションが離れていても、共同作業が図れる」と利点を強調した。NGN時代は、多くの機器がネットワークに常時接続する。その条件のもとでField Diagnosticsをうまく使うなら、機器メーカーはユーザーへ新しい付加価値を提供できるのではないだろうか。 ◇ ESECでの展示・セミナーの内容から、ウインドリバーは組み込み機器の開発からOS・ミドルウェア、運用管理、そしてパートナーとの協業によるハードウェア開発までを提供できる、総合的なソリューション・カンパニーであることが強く印象に残った。これからNGN時代が到来すると、ネットワーク機能を持つあらゆる機器はより高いレベルの機能・性能が要求され、開発の難易度が高まる。その際は、同社が機器メーカーへ提供するエンド・ツー・エンドのソリューションはいっそう評価されそうだ。 提供:ウインドリバー
株式会社
企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT 編集部 掲載内容有効期限:2007年7月18日 |
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