2024年に30周年を迎えた統合システム運用管理「JP1」は、メインフレームからオープン化、サーバ仮想化、クラウド、クラウドネイティブとITインフラのトレンドが移り変わる中で多くの機能を追加し、ユーザー企業のニーズに応えてきた。近年はDevOps、SREなどの考え方も広まり、システム運用管理に求められる役割や責任が変化しつつある。そうした中、JP1の開発者は変化をどう捉え、どんな価値を作り出していこうとしているのか。日立製作所(以下、日立)でJP1の開発を担う吉町優氏と火物駿介氏に、過去から現在、そして未来への展望を聞いた。
経営とITが一体となる中で、安定性・安全性が大前提となるシステム運用にも一層のアジリティと変化対応力が求められている。現在、JP1の開発を担っている吉町氏、火物氏も運用部門の役割や責任の変化を感じているという。JP1の機能をSaaSで提供する「JP1 Cloud Service」の設計、開発を担う火物氏はこう話す。
「近年はニーズを素早くキャッチして、ITシステムとして迅速に提供することが求められています。クラウド利用は多くの企業に浸透しましたが、コストなどの観点からオンプレミスを選択するケースも多くあります。運用面においてはクラウドとの使い分け、ハイブリッド環境の統合管理に多くの企業が試行錯誤している状況です。システムが複雑化している中で属人化、人材不足の問題と向き合う必要もあります」
ハイブリッド環境の統合管理、運用自動化などの機能を提供するSaaS型の運用統合プラットフォーム「JP1 Cloud Service/Operations Integration」(以下、Ops I)の開発に携わる吉町氏は、「ニーズを反映した新たなシステムの導入においても、既存システムとの連携を踏まえた仕組み作りが安定運用のカギとなります」と話す。
「多くの企業では部門ごとに個別にシステムが構築されており、運用も属人化しているケースが一般的です。そうした複雑化したシステムの維持、運用にリソースを取られている中で、新たなシステムも導入していかなければなりません。乱立したシステムを統合管理し、限られたリソースでも柔軟に対応していける仕組みの整備が急務です」
属人化、人材不足、複雑化したシステムの統合管理――両氏はこれらのニーズに応える上で、単に製品機能を拡充するのではなく、「手法やノウハウ、プロセスを変えられるような開発」を重視しているという。
「運用課題を解決する上では属人性の排除がカギになります。人が注力すべきこととツールがやるべきことを切り分けるアプローチが重要です。具体的には、業務の一部を標準化・自動化する、生成AIに任せるといったアプローチです」(火物氏)
「特に自動化によって余力を生み出すことは、コスト制約がある中、本来やるべきことに投資を続ける上でも大切です。運用現場の現状を見直し、SREのアプローチを活用して、あるべき姿に近づけていくことが重要です」(吉町氏)
だが、SREの概念や自動化の効用は浸透していても、実際に適用する上ではハードルが高いのが現実だ。事実、「何から着手すべきか分からない」といった声も目立つ。火物氏は「運用改善の取り組みで重要なのは、現状の可視化と経営層の理解です」と話す。
「今日のITシステムは企業価値と言っても過言ではなく、運用が価値を生むという共通認識作りが運用改善の第一歩です。そのためには、まず現状を可視化し、改善の根拠となる情報を明確化することが必要です。その上で経営層に理解を促し、取り組みを組織としてリードしてもらう体制を整えることが大切です」(火物氏)
この点については、設計・開発の現場にも「SRE定着までのプロセスを含めて支援してほしい」といった企業の声が届いているという。日立ではコンサルティングサービスやパートナーを通じて、各企業に最適な手法からノウハウ、プロセス、手段まで、一気通貫で提案、実装できる体制を整えている。両氏はそうした支援をより有効なものとすべく、開発の側面でも新しい考え方、必要な技術を率先して取り入れている。
「例えば属人性を解消するためには、人材をリソースプールとして把握し、持っているスキルに応じて適材適所で業務に割り当てられるような仕組みが有効です。さまざまな作業や業務プロセスをコード化して標準化、自動化するOperations as Code(運用のコード化)の取り組みも求められます」(吉町氏)
「生成AIも運用改善に役立ちます。例えば障害対応は一定のスキルやノウハウを持つ人材がいるか否かで対応時間が大きく変わりがちですが、生成AIが対応をアシストすることで属人性を解消し、対応時間を大幅に短縮できます」(火物氏)
事実、これらの機能は前述したOps Iに既に実装されている。
Ops Iは「『運用の標準化』『運用要員の共有化』『運用の統制』をシステム横断で強化する統合プラットフォーム」というコンセプトの製品。ニーズに応じて新たなシステムを導入するなど、「進化し続けるシステム全体の運用効率向上と品質確保の両立」を実現する。
「Operations as Code」については、アプリケーション/インフラごとの自動化コード、ワークフロー、UIなどの各種運用コンテンツを、統一されたコードで管理、定義できる機能を搭載する。属人化の原因になりがちなドキュメントによる「運用手順書」を「運用コンテンツ」として集約管理する仕組みによって、各システムで運用手順、ノウハウを共有できる。
「人材のリソースプール化」は、運用スタッフのスキルを可視化し、管理対象ごとにグループを分けたり、各グループに必要なスキルを任意に定義できたりする機能で実現する。これにより、必要なスキルを持つスタッフを、システム横断で適切な作業に割り当てる、すなわち「運用要員の共有化」ができるという。
さらに、JP1 Cloud Serviceには、各システムから発生したアラートへの対処方法を提示する「生成AIアシスタント」も搭載。障害の対処手順を踏まえた回答をすることで、運用スタッフが適切な対処方法を判断する初動時間を短縮できる。日立グループの運用監視業務では、初動の判断時間を約3分の2に短縮できたという。
「生成AIアシスタントは『Azure OpenAI Service』などの生成AIサービスと、蓄積している障害の対処手順をRAG(検索拡張生成)として組み合わせて構築しています。今後もさまざまなイベント情報やトレンドデータを蓄積し、障害対応だけでなく、予兆検知や自動実行といった運用シーンに対応する予定です」(火物氏)
吉町氏は、「こうした継続的かつ迅速な機能の拡張、向上はJP1の特長です」と強調する。
「Ops Iは運用全体の効率と品質の継続的向上をめざしていますが、開発面でもマイクロサービスアーキテクチャを採用し、アジャイル開発を行っています。既存コンポーネントへの影響を最小限にしながら、新しい機能を柔軟、迅速に追加できるのです」(吉町氏)
両氏が語る「新しい技術を活用してユーザーニーズに応え続ける」ための数々の取り組みは、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という日立の経営ビジョンも想起させる。JP1もバージョン13を数えるが、既存ユーザーにとっての使いやすさを守りながら、時代に応じてアップデートし続けるスタンスが継続して支持される一つの理由なのだろう。
両氏は「ユーザーの声を基に機能を開発し、喜ばれたときがもっともやりがいを感じます」と語る。
「JP1は多くの企業のミッションクリティカルな事業/システムを支えてきたプロダクトだけに、開発者としての責任も感じています。ただ、日立は歴史と伝統がありながら、開発組織である自分たちのやり方も時代に合わせて変えていける柔軟性がある会社です。今後も必要な技術を進んで取り込み、製品/サービスの機能開発を通じてITシステムの運用最適化を支援していきたいと思います」(火物氏)
「30年の歴史があるJP1に携わり、お客さまの運用が改善されていくことにやりがいを感じています。運用者の役割が変化する中で、JP1自身も新技術を取り入れながら時代に合わせてアップデートし続けています。これからも運用をステップアップできる製品提供を通じて、多くの皆さまを支援していきたいですね」(吉町氏)
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年10月29日