高騰するITインフラコストを抑え、ビジネス価値を高めるインフラ戦略が企業に求められている。ITインフラコスト増加の要因はVMwareライセンス費用やハードウェアの老朽化、運用管理の複雑化などさまざま。既存のIT資産を有効活用し、最適なインフラを構築するにはどうすべきか。Google Cloudのエンジニア陣に聞いた。
インフラの選択肢として急速に普及したクラウド。多くの企業がその柔軟性とスケーラビリティを求めて移行を進めている。しかし、検討段階で止まり、本格的な導入に踏み切れない企業や、導入しても思ったほどの効果が得られずに悩んでいる企業もいる。その原因の多くは、クラウドに対する誤解や認識のズレにある。
クラウド移行の課題と、それを乗り越える方法について、Google Cloudのエンジニア陣に聞いた。
クラウド移行はここ10年で急速に進んだ。Google Cloudが実施した「2024年度版クラウド・インフラ最新動向」アンケート調査によると、全体の70%近くが主要なインフラの一つとしてクラウドを挙げた。従業員数1000人以上の大企業ではマルチクラウド環境が主流で、従業員数1000人未満の中小企業ではハイブリッドクラウドを採用しているとの回答が目立った。
では、クラウドに移行しない、あるいはできない理由は何だろうか。アンケート調査の結果から2つの課題があることが分かった。一つはクラウド人材の不足だ。特に従業員数1000人未満の企業の多数はクラウドに精通した人材が不足していると回答している。
もう一つはデータベースだ。アンケート結果では、オンプレミス環境でデータベースを動かしていると回答したのが43.5%。VMwareの仮想化基盤を利用している企業は、その78%が稼働環境をオンプレミスと回答した。
「ホスティング事業者を利用しているとの回答も多く、クラウドデータベースの導入も進んでいるが、オンプレミス環境を選ぶ企業が依然として多いのが現状だ」とグーグル・クラウド・ジャパンの長谷部光治氏(ソリューションズ アーキテクト)は述べる。
それ以上に気になるのは、「クラウド移行=オンプレミスからの脱却、と捉えて移行に失敗しているケースだ」と、グーグル・クラウド・ジャパンの栃沢直樹氏(パートナー エンジニア)は指摘する。
クラウド移行の原動力として多くの企業が挙げるのは、システムやソフトウェアライセンスの更新・更改や運用コストの負担増、そして特定の担当者に依存する属人化などの課題だ。こうした課題に対処するために、単にオンプレミスのシステムをクラウドの仮想マシンに移行するだけで「クラウド移行が完了した」と誤解する企業は後を絶たない。
「サーバのクラウド移行の場合、移行すればハードウェア基盤などの運用管理はクラウドサービス事業者が行うが、その上で稼働するOSやミドルウェアの運用管理は依然としてユーザー側の責任となる。そのため、ただ仮想マシンをクラウドに移行しただけでは、オンプレミスのデータセンターで仮想マシンを運用していた頃とコストや運用負荷があまり変わらないと感じるケースを耳にする」(栃沢氏)
移行の目的が明確でないことも問題だ。取りあえずクラウドに移行してみたものの、その後どう運用していくかというビジョンが描けておらず、結果としてオンプレミス環境と同様の運用が続き、解消したかった悩みをそのまま引きずってしまう。
オンプレミスとクラウドの設計思想の違いを認識していないことも足かせになっている。「例えばオンプレミス環境ではネットワークが階層化されるが、クラウド環境はサブネットを細分化する必要は必ずしもなく、よりフラットなネットワーク構成の方がクラウドのメリットをより享受しやすい。こうした設計思想の違いを意識しなかったために、クラウドのメリットを十分に引き出せていないケースが散見される」(栃沢氏)
では、クラウド移行を成功させるためには何をすればよいのか。一番のポイントは、クラウド移行の目的がただのシステム移行ではなく、ビジネスに対する付加価値を生み出すことにあると意識することだ。「アプリケーション開発は、提供するサービスが企業のビジネスに直結しているためビジネス価値を意識した設計・開発が進められる。一方、インフラ基盤の構築になるとその意識がされにくい」と述べる栃沢氏は、Google Cloudはビジネス価値の向上を目指した戦略的なアプローチとしてクラウド移行を推進する「Lift & Transform」を提唱していると紹介する。
これは「Lift & Shift」のように、ただアプリケーションやシステムをパブリッククラウドに載せ替えるのではなく、徐々にクラウド的なものに変えていこうという考え方だ。
Google Cloudは導入フレームワークを提供している。これは、運用体制やスキルセットなど自社の人材状況やクラウド運用における組織的な体力、技術面での成熟度などを多角的に評価してビジネスとITスキルの現状を理解し、クラウド移行を成功させるには何が必要かを確認するためのフレームワークだ。Lift & Transformと組み合わせることで、クラウド移行の現実解が見えてくる。
方向性が定まったら、移行パターンや移行期間、設計方針などを検討して移行プランを固めていく。
一般的な移行パターンには、リホスト(オンプレミスからクラウドの仮想マシンへの移行)、リプラットフォーム(クラウドのマネージドサービスへの移行)、リファクタリング(ソースコードレベルでのクラウドネイティブなアーキテクチャへの改修)などが挙げられる。どのパターンを選ぶかは、システムの規模や複雑さ、ビジネス要件、コストを総合的に考慮しつつ、最終的にどのようなITシステムを作りたいのか、移行後のビジョンに従って選択することになる。
「例えば、開発環境や季節変動によって利用の上限が大きく変わるようなケースでは、クラウドをオンデマンドで活用する方が効率的」と、堀地聡太朗氏(ソリューション事業開発部長<インフラストラクチャー担当>、ストラテジー&オペレーション ジャパン)は説明する。
オンプレミスの環境をそのままクラウドに移行する場合も、ミドルウェアに関してはクラウドのマネージドサービスを活用することで、コスト削減や運用効率の向上が期待できる。ビジネス価値と移行後のビジョンを明確に定めると、結果的に効率化やコスト削減といった効果も生まれるという。
移行期間はシステムに応じて設定する。例えば、開発・テスト環境など移行しやすいものやコスト削減効果が高いもの、クラウドのメリットをすぐに享受できるシステムであれば短期。重要度が高く、移行を検討する際にもスケジュールを入念に練る必要がある基幹システムは中長期といった具合だ。
「昨今はデータの統合と分析、そこでのAI(人工知能)活用が多くの企業にとって喫緊の課題として捉えられはじめており、中長期的にインフラストラクチャもそれに対応できる形にモダナイズすることが重要になってきている。こうした取り組みを起点にクラウド移行戦略を考えるのもよい」(栃沢氏)
後は、クラウドの特性を踏まえた設計ができれば万全だ。システムインテグレーターに依頼する場合でも、クラウドの仕組みやアーキテクチャを正しく理解していれば、クラウドに何を移行し、オンプレミスに何を残すべきかという適切な判断ができるようになる。「例えば、オンプレミスの『VMware vSphere』環境で動いているシステムがあるからといって、全てのシステムをクラウドのVMwareサービス(VMware as a Service)に移行する必要はない。システムの特性や要件によっては、クラウドベンダーが提供するネイティブなIaaSを選択していく、アプリケーションの改修が可能であれば必要に応じてコンテナ、サーバレスサービスを選択する方が適切な場合もある」(栃沢氏)
もう一つの課題は、オンプレミスに縛り付けられたデータベースだ。
Google Cloudは「Cloud SQL」「AlloyDB」「Spanner」など多様なデータベースサービスを提供している。利用するアプリケーションや目指すインフラの姿に合わせて、ユーザーが柔軟に選択できることが重要だと宇津木太志氏(データ・プラットフォーム事業開発部長、ストラテジー&オペレーション)は話す。
とはいえ、長年の利用実績やミッションクリティカル性、その他の事情からオンプレミスから離れられないのが現状と明かす。
そうした声に応えるGoogle Cloudの取り組みの一つが、Oracleとの戦略的クラウドパートナーシップの締結だ。
2024年9月には「Oracle Database@Google Cloud」の一般提供を発表した。これによりGoogle Cloudデータセンター内にあるOracle管理のインフラで、「Oracle Database」を動かせるようになった。オンプレミスで使ってきたOracle DatabaseのライセンスをGoogle Cloudに持ち込むことも可能だ。
ここまで説明しても、クラウド移行への不安が完全に払拭されることはないだろう。そこで栃沢氏は「まずは気軽に相談してほしい」と呼び掛ける。
Google Cloudは、インフラストラクチャのクラウド移行を伴走型で支援する重要性に賛同するパートナーを「Infrastructure Modernization 支援パートナープログラム」として公表している。パートナーと連携した伴走型支援を通してディスカッションを積み重ねながら、現状のリソースや既存システム環境で何ができるのか、どこまで新しい技術でチャレンジできるか、どのようなアーキテクチャがお客さまにとって最適かなどを具体化していくプロセスをぜひ体験してほしいとする。
長谷部氏は、Google Cloudのメンバーが提供する無償のアジャイル型ワークショップ「Tech Acceleration Program (TAP)」も利用してほしいと付け加える。3日間、アプリケーション目線でビジネス課題をどう解決できるのか、どんなクラウドネイティブなアーキテクチャが構築できるのかを議論する。
「クラウドネイティブと聞くと構えてしまうかもしれないが、実は難しくない。以前ある企業から、コーポレートサイトを仮想マシンで運用しているが負担が大きすぎるという相談を受けて、ワークショップを開催した。参加者はクラウドネイティブやGoogle Cloud製品に関する知識が乏しい状態から、実質2日でほぼ手のかからないサーバレスなアーキテクチャを設計できた。Google Cloudはとがったテクノロジーが多いため難しいという印象を抱かれがちだが、実際は誰もが使いこなせる」(長谷部氏)
この他、Google Cloudユーザーやパートナー企業の相互交流を深め、それぞれの企業が持つ経験やノウハウを共有し合う場として「Jagu’e’r」(Japan Google Cloud Usergroup for Enterprise)という法人ユーザー会も活用してほしいと栃沢氏は話す。同業他社がどんな取り組みをしているかを知り、実績豊富なパートナー企業からのアドバイスも受けられるという。
「Google Cloudのエンジニアもお客さまとのワークショップを楽しんでいる。新しいことに挑戦するワクワクとイメージが具体化する驚きをぜひ体験してほしい。まずは気軽に声を掛けてほしい」(栃沢氏)
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提供:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年11月8日