Broadcomによる販売施策の変更を機に、パブリッククラウドへの移行を検討するVMware製品ユーザー企業が増えつつある。移行方法や移行先を考える上で何が課題になるのか。中長期的な改革に向けて最適解を選ぶためのヒントは。
BroadcomがVMwareの買収後に、相次いで発表したライセンス体系などの変更により、VMwareのユーザー企業には「Google Cloud」を含むさまざまなITベンダーに相談を寄せる動きが見受けられる。現行ライセンスの更新までにVMware製品をこのままオンプレミスで使い続けるのか、それとも別の選択肢を選ぶのか、その判断のために本格的な検討を始めたことが背景として挙げられる。
そうした中で、パブリッククラウドへの移行を検討する企業が増えつつある。
前提として、過去10年近くにわたり、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みを進めており、有効なインフラとしてクラウドを選択するケースが増えてきた。
既存システムはオンプレミスの「VMware vSphere」(以下、vSphere)で稼働し、新規で構築するシステムの基盤にはパブリッククラウドを選択するといったハイブリッドクラウド構成を採用する企業は多数存在する。今回目立つようになってきたのは、vSphereで動いているシステムをクラウドへ移行する動きだ。
その背景には、オンプレミス環境の老朽化やvSphere環境の運用、維持コストの増加などの課題がある。つまり、vSphereを使い続けてきたが、現状のシステムインフラ運用には必ずしも満足していないのだ。
では、オンプレミスのvSphere環境からクラウドへ移行することで、どのようなメリットが得られるのか。どのような課題を解決すべきなのか、そしてどのような“視点”で移行方法、移行先を選ぶべきなのか。こうした疑問の解決策を探ってみた。
DXは企業にとって重要な取り組みの一つとなっている。それにはさまざまな方法やツールがあるが、ベースとなるITインフラの柔軟性、可用性、効率性などを無視することはできない。だからこそ、多くの企業がDXの要としてクラウドを選択している。
Broadcomによる発表以降、2023年後半から2024年にかけてグーグル・クラウド・ジャパンへの既存システムのクラウド移行に関する問い合わせが増えているという。
「Google Cloudのサービスや具体的な移行計画について、vSphereユーザーからの相談が増えてきました。Google Cloudの認定パートナーさまからも、問い合わせや商談が急増していると聞いています」と、グーグル・クラウド・ジャパンの堀地聡太朗氏(ソリューション事業開発部長<インフラストラクチャー担当>、ストラテジー&オペレーション ジャパン)は述べる。
問い合わせからは、今回の件を機に改めて、インフラ領域を含めたクラウド活用に乗り出して、DXや先進的なIT活用を進めたいという熱意がうかがえる。そしてGoogle Cloudとしては、こうした取り組みのサポートに全力を尽くしたいと話す。
「Googleは、AI(人工知能)やデータウェアハウス『Google BigQuery』などの先端技術でよく知られていますが、それを支えるインフラも注目されつつあります。グローバルで可用性の高いクラウド基盤を通じてITの統制や標準化を図りたいという企業に選ばれています。Google Cloudでは、移行方針の検討からサポートする態勢を整えています」と、グーグル・クラウド・ジャパンの栃沢直樹氏(パートナー エンジニア)は述べる。
では、VMwareユーザーがどのような課題を抱えており、なぜクラウドへ移行することが望ましいのかを具体的に整理しよう。
まずコストだ。Broadcomによる販売施策の変更によってvSphereのライセンスコストが大幅に上昇してしまうケースがある。それでなくてもオンプレミスには、システムのハードウェアやソフトウェアの運用および更新にかかる費用、日々の運用に伴う人件費、システムを運営するデータセンターの費用などのコストがかかっている。こうしたコスト構造の改善が、クラウド移行の理由の一つとなっている。
次に運用面の課題だ。これはコストにも関わるが、ハードウェアやデータセンターの運用負荷が高く、移行に当たっては深い知識と事前準備に労力を割く必要があり、インフラ運用に長けた人材が少なくなっているという問題点は根深い。クラウドであれば運用負荷が比較的小さく、インフラスキルに自信がない担当者でも運用しやすいというメリットがある。
さらに、レガシーなオンプレミスシステムからの脱却という課題もある。古いシステムで、柔軟性や拡張性が著しく乏しいという話は珍しくない。中には、システムがブラックボックス化してしまっている組織もある。vSphereが、こうしたシステムを延命させてしまっていたという状況がある。
「既存のSIer(システムインテグレーター)とユーザー企業の関係性は悪くないものの、既存システムの維持コストが高額で柔軟性に欠けるというお話もお客さまからは耳にします。Google Cloudでは、技術的な課題解決はもちろんのこと、ビジネスや組織の目標から細かに対話して、クラウドをどのように活用するのがお客さまにとってベストなのかを模索する取り組みを実施しています。新たにクラウドインフラを利用する企業にとって、人材の育成やスキルの獲得、実際の移行作業などは大きな負担になりがちですが、それらの課題を解決し、必要に応じて内製化を図るための伴走型支援も提供しています」(栃沢氏)
VMwareからGoogle Cloudへ移行するアプローチとしては、大きく分けて3つの方法がある。
1つ目は、Google Cloudが提供するVMware as a Serviceの「Google Cloud VMware Engine」(GCVE)を活用して、既存のvSphere環境をそのままGoogle Cloudへ載せ替えるという方法だ。
これは、使い慣れた「VMware vCenter」によるvSphere環境の運用を継続したいというニーズに対応する。移行作業では、専用の仮想ネットワークを構築して仮想マシンをそのまま移行するツール「VMware HCX」を利用できるため、移行にかかる作業負荷が小さいというメリットがある。
2つ目はGoogle Cloudが以前から提供するネイティブなIaaS環境である「Google Compute Engine」(GCE)へ仮想マシンを移行する手法だ。仮想マシンを直接Google CloudのIaaS環境で動かすのでは、オンプレミス環境と同様の可用性を保てないのではないかと考える読者がいるかもしれないが、それは誤解だ。例えばGoogle Cloud独自のライブマイグレーション技術を活用してより高度な可用性を確保する仕組みや、同一リージョン内で複数のゾーンを同一サブネットで構成できる「Virtual Private Cloud」(VPC)の利点を生かしてより容易に冗長化の仕組みを実現できる機能などが備わっている。
仮想マシンフォーマットの変換が必要なため技術的なハードルが高いように見えるが、Google Cloudの移行ツール「Migrate to Virtual Machines」にて移行前の事前テスト機能などを使うことで、移行に要する時間を大きく削減できる。このツールは無償であり、多くのユーザーに利用されている。
「まずGCVEで素早くクラウドへ載せ替えて、余裕をもってGCEへのシフトを図るケースがよく見られますが、GCEへの直接的な移行を選ぶユーザーも多いです。Googleの各種サービスを支えてきた技術が盛り込まれているので、その高い堅牢(けんろう)性、安全性を選んでいただいています」(堀地氏)
3番目は、クラウドネイティブな環境を目指す方法だが、新たなシステム開発などが必要となるため解説は省略する。ただし、GCVEやGCEでリフト&シフトした後、クラウドネイティブ化を目指して「Google Kubernetes Engine」「Cloud Run」などを活用したコンテナ化/マイクロサービス化を視野に入れているというユーザーは増えている。
自社のシステムや状況、組織やビジネスのニーズに応じて、最適な移行アプローチはさまざまだ。Google Cloudを選ぶことで選択肢が増え、中長期的な成長に向けた取り組みを推進できるというメリットは大きい。
最後に、Google Cloudを活用し、将来に向けた改革を目指すユーザー事例として、JALインフォテックの取り組みを紹介したい。同社はJALグループ向けに提供しているハイブリッドクラウド基盤(vSphere+他社クラウドサービス)から、クラウドネイティブなアーキテクチャへの改革を目指した。GCVEを活用したvSphereの移行に取り組み、初期の移行コストを抑えながらGoogle Cloudとの連携を図っている。
「このプロジェクトでは、支援パートナーと共にアーキテクチャワークショップを定期的に開催しました。まず疑問や検討課題を共有し、要件を整理して、ゴールを設定するところから始めました。次にGoogle Cloudの管理方法についてレクチャーとディスカッションを繰り返しながら、実際のマイグレーションやモダナイゼーション、ネットワーク設計までを一緒に考えていきます。このスタートがあったことで、その後の移行をスムーズに進めることができたと高く評価していただきました」(栃沢氏)
JALインフォテックは、GCVEからGCEを経て、中期的にはクラウドネイティブな環境へのリフト&トランスフォーメーションを計画している。長期的には“自由な発想でイノベーションを起こす基盤”を目指しているとのことだ。
JALインフォテックの取り組みでは、Google Cloudの「Infrastructure Modernization 支援パートナー」が大きな役割を果たしたという。同パートナープログラムは2024年4月にスタートし、企業のGoogle Cloudへの移行を“共に考え、模索できる”、伴走型支援を提供できるパートナーを厳選しているという。2024年10月時点では、13社のパートナーが同プログラムに賛同している。
堀地氏は、「ぜひ私たちと一緒に、未来のIT活用やDXを考えていきましょう」と呼び掛けている。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月7日