三菱電機が、AWSとともに考え実践する「モダナイゼーション」の本質とはITシステムの刷新だけでは終わらない

より付加価値の高い製品やサービス、体験を顧客に提供するため、「モダナイゼーション」の取り組みを進めている三菱電機。だが、それは単なるITシステムの刷新だけではなく、「循環型デジタル・エンジニアリング」という新たな挑戦に乗り出すためだった。では、具体的に何を目指し、どういった取り組みを進めてきたのか。そして、どのような成果が得られたのか。

» 2024年11月25日 10時00分 公開
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新たな顧客体験を提供し価値創造に力を入れる三菱電機

 日本を代表する大手製造企業の一社として、家電製品から産業機器、社会インフラ設備に至るまで、幅広い製品/ソリューションを世に送り出し続けてきた三菱電機。高い技術力と確かな実績に裏付けられた「モノ作り」企業として広く知られる同社だが、近年は製品の提供だけにとどまらず、各種サービスの提供を通じて顧客に高付加価値の体験を提供する「コト作り」にも力を入れている。

 そうした活動の先駆けとして、現在IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、データ活用といったソフトウェアソリューションの開発を担っているのが、京都、鎌倉、横浜に拠点を置く「IoT・ライフソリューション新事業推進センター」と呼ばれる組織だ。家電製品や住宅設備を手掛けるリビング・デジタルメディア事業本部の配下にあるこの組織は、冷蔵庫や空調設備といった製品からIoTデータを収集し、クラウド上で分析することで新たな顧客体験を開発、提供している。

 そのIoT・ライフソリューション新事業推進センターが、現在、力を入れている取り組みの一つが「モダナイゼーション」だ。モダナイゼーションと聞くと、レガシーなITシステムを、最新技術を使った新たなシステムに置き換える施策をイメージする方が多いかもしれない。しかし、同センターが目指すモダナイゼーションは、ITシステムだけではなく、組織、プロセス、文化のモダナイズも含めた「ビジネスの変革」を意味する。この取り組みをアマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWS Japan)の支援の下、二人三脚で推進しているという。

 では、同社は具体的には何を目指し、どのような取り組みを進めてきたのか。IoT・ライフソリューション新事業推進センター長を務める石原 鑑氏、同センターのIoT推進部 PF開発グループの主任を務める小川雄喜氏、そしてAWS Japanのマイグレーション アンド モダナイゼーション技術統括本部で技術部長を務める内村友亮氏に、「モダナイゼーションの本質と具体像」を聞いた。

「モノ作り」から「コト作り」への転換を支える開発組織

ALT 三菱電機
IoT・ライフソリューション新事業推進センター センター長
石原 鑑氏

──まずIoT・ライフソリューション新事業推進センターの事業内容について教えてください。

石原氏 弊社では、製品を作って売る「モノ作り」だけでなく、製品を売った後もお客さまとつながり続けながら価値を提供し続ける「コト作り」を重視する方針を全社的に打ち出してきました。そんな中でIoT・ライフソリューション新事業推進センターは、家電製品や空調設備などからデータを収集するIoTプラットフォーム「Linova」、それらのデータの分析基盤「KOTOLiA」、家電製品をスマートフォンアプリから一括制御できる「MyMU」といった各種のデジタルプラットフォームの構築、運用を通じ、お客さまに新たな価値を提供してきました。

──顧客体験も重視したビジネスモデルへの転換を目指し、サービスを作る開発者が効率的にニーズに対応できるプラットフォームを強化してきたのですね。

石原氏 その通りです。ただ一方で、モノ作り企業として高度な品質を重視する文化があります。そこで社内の他部門からの信頼を得るために品質確保の活動を重視し、サービスの開発プロセスはウオーターフォール型を採用していました。本来はアジャイル開発やDevOpsなどの手法を積極的に取り入れて、ニーズの変化に素早く追随できるプロセス、文化を構築したかったのですが、従来の姿勢をなかなか変えられませんでした。

小川氏 もちろん、少しずつ新たな文化も取り入れてはいたのですが、組織としてもう一段ステップアップするためには、何か起爆剤的な施策を思い切って打ち出す必要があるのではないかと感じていました。AWS Japanに相談してみたところ、短期間の伴走型アジャイル開発支援ワークショップ「EBA」(Experience-Based Acceleration)により、生成AIを活用した開発の提案をしていただきました。

ALT 三菱電機がモダナイゼーションで目指す姿「循環型デジタル・エンジニアリング」(出典:三菱電機の経営戦略 2024年5月29日)《クリックで拡大》

組織として、さらなるステップアップを目指し「モダナイゼーション」の取り組みに乗り出す

ALT アマゾン ウェブ サービス ジャパン
マイグレーション アンド モダナイゼーション技術統括本部 技術部長
内村友亮氏

──モダナイゼーションを支援するEBAとはどのようなプログラムなのでしょうか。

内村氏 AWSでもかつて、自社の組織やカルチャーをモダナイズするために試行錯誤を積み重ねてきましたが、その過程で得たさまざまなノウハウをお客さまにフィードバックし、開発プロセスやビジネス、組織のモダナイゼーションを支援する取り組みとして5年前より始めたプログラムです。具体的にはお客さまにAWSが伴走し、約1カ月で最新テクノロジーを使ったアジャイル開発を行う体験型ワークショップです。

 「AWSが提案するモダナイゼーション」と聞くと、システムインフラをAWSへ移行する取り組みだと思われる方も多いかもしれませんが、決してそれだけではなく、技術面以外の組織やプロセスなどのモダナイゼーションも非常に重視しています。

──組織やプロセスのモダナイゼーションを重視されている理由は、どの辺りにあるのでしょうか。

内村氏 大半の企業は、これまでの歴史の中で培ってきた組織体制やプロセス、文化などを持っており、その在り方を改善するための活動、いわば「深化」の活動に継続的に取り組んでいます。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務変革を実現するためには、「深化」だけでなく、新たな発見を目指す「探索」の活動が不可欠です。

 この「深化」と「探索」の両輪をバランスよく、かつ継続的に回していくことが真のモダナイゼーションへとつながっていくのですが、得てしてこの両者は衝突しがちで、特に歴史の長い大企業ほど探索を忌避しがちな文化が根強いのが実情です。そこで弊社のような第三者が「伴走者」として外部から知見を提供することで、深化の文化を持つ組織に探索の視点を取り込み、既存のリソースをうまく活用しながらモダナイゼーションを進められるようになります。

石原氏 AWS JapanからEBAを提案していただいたのは、先ほどお話ししたような課題を乗り越えるために、「アジャイル」「生成AI」というキーワードで何か施策が打てないかと考えていたところでした。そこで、生成AIを使ったアジャイル開発を、EBAのプログラムを使って実施してみることにしました。

 これまで、ウオーターフォール型の開発プロセスしか経験したことがなかったエンジニアが、EBAを通じてアジャイル開発を体験することで「プロセスのモダナイゼーション」が実現するのではないか。同時に「生成AIのようなとがったテクノロジーに挑戦してもいいんだ!」というマインドの醸成、つまり「カルチャーのモダナイゼーション」も実現できるのではないか、と考えたのです。

「顧客」「MVP(Minimum Viable Product)」を意識したアジャイル開発に挑戦

ALT 三菱電機
IoT・ライフソリューション新事業推進センター
IoT推進部 PF開発グループ 主任
小川雄喜氏

──EBAでは具体的にどのような開発を行ったのでしょうか。

小川氏 総勢約20人の参加者を3つのチームに分けて、それぞれ独自にテーマを決め、MVP(Minimum Viable Product)を意識した開発を行いました。MVPとは、顧客に価値を提供できる最小限のプロダクトを指しますが、最小限の機能で市場に投入し、早期に顧客フィードバックを得て製品を改善することが目的です。1つ目のテーマは「生成AIを使ってコードレビューを支援する」というもので、開発者が作成したプログラムコードが仕様書やコーディング規約から逸脱していないかどうかを生成AIが判断します。また、「お客さまからメールやWebフォームを通じて寄せられた問い合わせに対して、生成AIを使って一次回答を作成する」というテーマに取り組んだチームもありました。

 残るもう一つのテーマは、先ほど紹介したデータ分析基盤KOTOLiAをより多くのユーザーに使いこなしてもらえるよう、「生成AIを使って自然言語からSQLの検索文を生成する」というものでした。これらはどれも、生成AIを使って既存のプロセスをモダナイズする取り組みとして位置付けていました。

──一般的に、新たな取り組みは“PoC(概念実証)止まり”になるケースも多いのですが、EBA終了後も、これらの活動は継続しているのでしょうか。

石原氏 今回、EBAでMVPを開発するに当たり、私が参加者の皆さんにお願いしたのは「市場投入できるプロダクトを強く意識してほしい」ということでした。単にその場限りのサンプルプログラムを開発しておしまいとするのではなく、「実際にお客さまに提供するプロダクトを開発するんだ」と。EBAは短期間なので、当然ながらその間だけで完璧なものを作ることはできません。

 しかし、プロダクトを作るという意識があれば、改善を継続しようという考えにおのずとつながっていきます。また、そうすることによって、「これからわれわれは顧客体験をデザインし、お客さまとともに成長していくビジネスモデルへと転換していくんだ」ということをメンバーに強く意識付け、組織やビジネス、文化のモダナイゼーションを促したいという意図がありました。

小川氏 現在、コードレビュー支援の仕組みは開発現場で実際に活用されていますし、自然言語によるSQLの生成の仕組みも広く利用されており、現在他部署への横展開も検討しているところです。

「顧客体験」の重視と「開発者満足度」の向上を支えるモダナイゼーション

──これら一連の取り組みを終えて、どのような成果が得られましたか?

小川氏 部門内での生成AIの活用が、明らかにステップアップしました。それまでは、「検索エンジンの代わりに対話型のAIサービスに問い合わせてみる」といった程度の使い方が大半だったのですが、EBAでの体験を経てより高度な使い方にチャレンジするエンジニアが増えました。しかし、それ以上に顕著な変化として、生成AIに限らず新しい技術全般の習得に積極的に取り組む人が増えました。例えば、AWSのトレーニング受講や認定資格の取得希望者がEBA実施後に急増しています。また、長い間プログラミングを行っていなかった社員からは、AWSを使ってみてとてもわくわくしたという感想もありました。全体的にエンジニアの“熱量”が一気に上がったのを実感しています。

 以前は、「ハードウェア一筋でやってきたベテランの組み込み開発エンジニアは、アジャイル開発やクラウド技術にはきっと興味を示さないだろう」と思い込んでいました。しかし、実際にそうした人たちと話してみると、実はアジャイル開発にずっと興味を持っていたという人も多いことが分かりました。チームビルディングしていく中で、自身の固定概念にとらわれない、ということも重要だと実感しています。

ALT EBAを通じて得た成果(出典:2024年9月26日開催 AWS Innovate - Migrate. Modernize. Build. 三菱電機セッション「家電IoTソリューション開発組織における生成AI活用の取り組み」)《クリックで拡大》

石原氏 EBAに参加した多くのエンジニアが、クラウドやAIのプログラミング体験を通じて、ソフトウェア開発の楽しさを再認識してくれたのも大きな収穫だったと思います。こうした「開発者満足」の視点は、今後組織をモダナイズしていく上で極めて重要になってきます。今回の取り組みを今後もぜひ継続していきたいと考えています。

内村氏 そのような「楽しさ」「ワクワク感」などの観点を大事にされていたからこそ、今回のEBAの取り組みが現場のエンジニアの方々に刺さり、ひいては組織や文化のモダナイゼーションにつながったのだと思います。今回の例のように、既存のビジネスやプロセスを回しつつ、同時に新たな挑戦に乗り出すためには、モダナイゼーションに関するさまざまなノウハウが必要になってきます。その点で、AWSはテクノロジー面だけでなく、プロセスや組織、人の面でもさまざまな支援を提供できますので、これからモダナイゼーションを目指す企業の皆さまは、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

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提供:アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月24日