ビジネス環境の変化やITの進化、サイバー脅威の増加といった要因で、「サーバ」の役割や運用にも変化が求められている。そんな中、最新サーバOS「Windows Server 2025 」がリリースされた。この新OSは企業にどのようなメリットをもたらすのか、運用はどう変わるのか。いち早く検証を進めてきたSB C&Sに話を聞いた。
サーバ運用の在り方は、業務システムの仮想化やクラウド移行など、さまざまな変化に伴い徐々に複雑化してきた。
「今日のサーバOSには、ハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境の運用管理を効率化するための機能が求められている他、依然として多くの企業が重要なシステムを稼働させているオンプレミス環境における可用性を高め、運用の効率化を高める機能も重要視されています。加えて、今日ますます深刻化するサイバー脅威に備えるためのセキュリティ対策機能も不可欠です」
こう語るのは日本マイクロソフトのマスタートレーナー、赤井誠氏だ。同氏はこれらの課題に加え、最近ますます注目を集めるAI(人工知能)技術を有効活用する上でも、オンプレミスのサーバにはこれまでにはない新たな役割が求められるようになったと指摘する。
GPU(Graphics Processing Unit)の利用機会が広がっていることも、サーバ運用における重要な変化の一つだ。赤井氏は一例として、工場や店舗といった「現場」で収集したさまざまなIoT(Internet of Things:モノのインターネット)データをクラウドインフラに集約して、AIで分析するデータ利活用を挙げる。
この場合に問題になるのは、現場とクラウドの間でデータをやりとりするには通信オーバーヘッドが生じること。リアルタイム性が求められるシステムには必ずしも適しているとはいえないため、現場にGPU搭載のエッジコンピュータを設置し、そこでAIを稼働させる方式が広がっているという。そして、そのような環境では管理者が現地にいないことが多いため、可用性を高めることも求められる。
このように今日のサーバには、現場での運用のしやすさとともに、AIをはじめとする先端技術に対する高い親和性が求められている。
こうした諸課題を解決できる可能性を秘めたサーバOSとして、大きな期待を背負って登場したのが、Microsoftが2024年11月にリリースした新サーバOS「Windows Server 2025 」だ。同社は約3年おきにサーバOSをバージョンアップしており、このたび発表されたWindows Server 2025 は2021年にリリースされた「Windows Server 2022 」の後継としてさまざまな機能強化が施されている。
「Active Directory(AD)の機能が強化されて『32k データベース ページ』に移行することで、これまで扱えなかった大容量オブジェクトが扱えるようになるなど、数多くのアップデートが施されました。セキュリティ面では、サーバOS単体だけでなく、『Windows 11』と連携することでさらに強固なセキュリティ対策を実現できるようになりました」(赤井氏)
さらには、「Microsoft Azure」のクラウド環境以外の物理/仮想化環境で稼働するサーバも単一のポータルで一元管理できるサービス「Azure Arc」も、Windows Server 2025 では従来よりも簡単に導入、利用できるようになった。Azure Arcを活用することで、ハイブリッドクラウド/マルチクラウド環境における運用管理の効率を大幅に向上させることができるという。
Windows Server 2025 ではオンプレミスのWindows Server環境の可用性をより高めるために「フェールオーバークラスタリング」機能が大幅に強化された。具体的には、これまではADの環境がないと実行できなかったクラスタリング機能やHyper-V環境での仮想マシンの「ライブマイグレーション」「フェールオーバー」が、ADのない環境でも利用できるようになった。
SB C&Sの金井大河氏(ICT事業本部 技術本部 技術統括部 第1技術部 2課)によると、ライブマイグレーションはADが導入されていないことが多い中堅中小企業の環境や、工場や店舗などの現場に設置するエッジ環境の可用性を高める上で極めて有用だという。
「これまでのWindows Serverでも、『Hyper-V』の仮想化環境上で仮想マシンを手動で停止して別のノードに移動した後に再起動させる『クイックマイグレーション』機能はADのない環境でも実行可能でしたが、無停止で別ノードに移行させるライブマイグレーションにはADが必須でした。Windows Server 2025 ではADがなくてもライブマイグレーションが可能になったことで、ADが導入されていない中堅中小企業の環境やエッジ環境でもシステム全体の可用性を大幅に向上させることが可能になりました」
さらに、Windows Server 2025 では仮想化デスクトップやAIワークロードを高速に実行する上で欠かせないGPUのサポートも強化された。Windows Server 2022までは、サーバに実装されたGPUのリソースは単一の仮想マシンからしか利用できなかったが、Windows Server 2025 で新たに搭載された「GPUパーティショニング」機能によって、Hyper-V仮想化環境上の複数の仮想マシン間でGPUリソースを共有できるようになる。
「製造業や建設業の設計開発部門で3D CAD(コンピュータ支援設計)やBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)のようなソフトウェアを利用する場合、これまでは1人1台のワークステーション環境を用意するのが一般的でしたが、Windows Server 2025 のGPUパーティショニングを使えば、1台のGPUサーバ上に複数の仮想デスクトップ環境を集約できるようになります。また、Web会議を快適に利用する上でも、GPUパーティショニングは大いに役立ちます」(金井氏)
SB C&Sは、Windows Server 2025 の正式リリースに先駆け、同製品のプレビュー版で技術検証や評価を行ってきた。特にフェールオーバークラスタリングの新機能に関しては、中堅中小企業にとって極めて有用な機能と判断し、重点的に検証作業を進めてきた。
具体的には、サーバ2台にそれぞれWindows Server 2025 をインストールして、Hyper-Vの仮想化環境を構築。AD環境は構成しないままで、一方のサーバ上の仮想マシンに対してライブマイグレーションを実行し、もう一方のサーバに無停止のままで仮想マシンを移動できることを確認したという。
また、同じ環境上でフェールオーバークラスタを構成し、片方のサーバの電源を落として疑似的に障害を発生させ、数分後にもう一方のサーバに仮想マシンが移動し、再起動することを確認。ADがない環境でフェールオーバーも正常に機能することも検証している。
「中堅中小企業が運用する小規模なシステム環境ではADを構築、運用していないケースも多く、こうした環境でも可用性を高める上ではADなしのフェールオーバークラスタリングやライブマイグレーションは極めて有用と考えます。また、同様に工場や店舗などに設置するエッジ向けサーバでも、専用のAD環境を構築、運用するのは非効率ですから、やはりこの機能は重宝されるはずです」(金井氏)
さらに同社は、GPUパーティショニングについても入念な検証作業を進めている。GPUを搭載したサーバにWindows Server 2025 をインストールし、Hyper-Vの仮想化環境上で複数の仮想マシンを立ち上げ、さらにGPUパーティショニングで仮想GPUリソースをそれぞれの仮想マシンに割り当てた。そして、それぞれの仮想マシン上でグラフィックスソフトウェアを動作させたところ、GPUパーティショニングを利用しない場合と比べて明らかにGPUの使用率が上がり、逆にCPUの使用率が低下したことを確認したという。
SB C&SではWindows Server 2025 に限らず、同社がディストリビューターとして扱うさまざまな製品/サービスの技術検証を継続的に行っている。同社はディストリビューターでありながらも50人以上のエンジニアを有しており、その中にはベンダーの認定資格を保有するメンバーや、高いスキルが評価されてベンダーから表彰を受けるメンバーもいる。
こうしたメンバーを中心に、製品を実際に提供する前に技術検証や評価を行い、ハンズオンセミナーなどを通じてその結果を販売パートナーにフィードバックするとともに、技術ブログなどで一般ユーザーにも広く公開している。さらには販売パートナーやユーザーが自身で検証作業を行うための検証機も多数用意しており、要望に応じて貸し出している。
Windows Server 2025 についてもこうした体制をフル活用し、Microsoftの認定パートナーとして密接に連携しながら検証作業を入念に進めてきた。
SB C&Sのこうした活動の意義について、赤井氏は「Windows Server 2025 に関してもプレビュー版の段階から、販売パートナーや市場でどんな機能が求められているかについて、SB C&Sの担当者の方とディスカッションを重ねながら検証項目を絞り込んできました。並行して、セミナーや勉強会なども共同で開催してきました。こうした活動の成果は、今後Windows Server 2025 の導入が本格化するにつれて、必ず表れてくると思います」と高く評価する。
また金井氏も、今後もWindows Server 2025 をはじめとする新製品の技術検証や評価を通じて、販売パートナーやユーザーに高い価値を届けていきたいと抱負を語る。
「これからも新製品、新機能の情報をいち早くキャッチアップし、それらが販売パートナーさまやお客さまにどのようなメリットをもたらすのか、検証を通じてしっかりと見極めた上で広く情報を発信していきたいと思います」
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