AIが自律的に開発する未来 SIerは、エンジニアは、どう変わるべきかパラダイムシフト、待ったなし

AIが業務遂行の主体となる時代、エンジニアの仕事はどう変化するのか、技術の進化にどう対応すればよいのか。AIエージェントの第一人者と、日本を代表するSIerのCTOの対談からヒントをお伝えする。

» 2025年01月09日 10時00分 公開
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 技術の進化が速い昨今、仕事環境やキャリアの将来が想像できずに不安を抱えているITエンジニアは多いだろう。技術の変化にどう対応したらよいのか、マインドセットやキャリアアップの考え方のヒントをお伝えする本シリーズ。前回は、Web系代表の「きのこる先生」と、SIer(システムインテグレーター)代表として同社CHRO(最高人事責任者)の上浜敏基氏がエンジニアの幸せな働き方やキャリアの歩み方を熱く語り合った

 今回は、AI(人工知能)が業務遂行の主体となる時代にエンジニアの仕事はどう変化するのか、AIエージェントの独自ソリューションを展開するジェネラティブエージェンツで代表取締役CEOを務める西見公宏氏と、NECソリューションイノベータ エグゼクティブフェロー 兼 CTO(最高技術責任者) 兼 CIPO(知的財産最高責任者)の塩谷幸治氏が議論した。

photo (左から)ジェネラティブエージェンツの西見公宏氏、NECソリューションイノベータの塩谷幸治氏

生成AIがもたらしたパラダイムシフトでAIは「当たり前の存在」に

 ITが進化するスピードは年々速さを増し、特にここ数年におけるAI技術の目覚ましい進歩によって、人とデジタルの関係性は大きく変わろうとしている。ジェネラティブエージェンツの西見氏は、現在の「AIブーム」とも呼ぶべき状況について次のように考察する。

 「これまでのソフトウェアは、人間がソフトウェアに合わせて使い方を学ぶ必要がありました。スマートフォンの登場でソフトウェア側が人間の方に大きく歩み寄りましたが、両者の関係性の本質は変わりませんでした。しかし生成AIの登場で、ついに『ソフトウェアの方が人間に合わせる』というパラダイムシフトが起こりつつあります。しかもその技術がコモディティ化し、誰でも使えるという点が実に画期的です」(西見氏)

 生成AIはITエンジニアしか扱えないプログラミング言語ではなく、誰もが理解できる自然言語で手軽に操作できることから瞬く間に普及し、世界中のビジネスパーソンが日々の仕事で活用するようになった。

 最新のLLM(大規模言語モデル)はマルチモーダルになり、自然言語だけでなく映像や音声などを使ったやりとりが可能になった。PC以外のデバイスのインタフェースを通じて利用できるようにもなり、より広範なユースケースでの活用に期待が集まっている。

 NECソリューションイノベータの塩谷氏は、このままいけばAIは特別な技術ではなくなり、あらゆるシステムやデバイスに当たり前のように実装されるようになると予想する。

 「『AX』(AIトランスフォーメーション)という言葉が盛んに使われるようになったことからも分かる通り、これからのAIはデジタルのあらゆるレイヤーに組み込まれて、当たり前のように使われる存在になっていくでしょう。ことさらAIがどうこうと語られることはなくなって、もっと具体的に『この用途にはこのLLMが最適』『ここにはこのモデルを使った方がよい』といったような個別の議論に移っていくと思います」(塩谷氏)

AIが業務遂行の主体となることを前提としたソフトウェア開発と業務設計

 AIがもたらすこのようなパラダイムシフトは、NECソリューションイノベータが長年従事してきたSI(システムインテグレーション)ビジネスにも大きな影響を与えつつある、と塩谷氏は指摘する。

 「これまでのSIは『成果物を納品して終わり』というビジネスモデルが主流でしたが、現在は納品がゴールではなくむしろスタートで、そこから製品やサービスを継続的に改善しながら価値を生み出すことが求められるようになっています。こうしたビジネスモデルの変革は、AIの台頭でさらにもう一段ブーストがかかるでしょう」(塩谷氏)

 ソフトウェアの製品やサービスを継続的に改善していくための手法として、現在はアジャイル開発が広く用いられているが、この在り方もAIによって大きく変わる可能性がある。アジャイル開発は、市場の変化に俊敏に対応しながらソフトウェアを適宜改善していけるメリットはあるものの、その代わりに開発チームを維持し続けなければならない。

 しかし西見氏は「将来的にはUI(ユーザーインタフェース)などもあらかじめ開発されたものを提供するのではなく、ユーザーのニーズに応じてAIが動的に生成するような仕組みが想定されます。このようなAIによる動的な微調整と人間による開発プロセスとの両輪により、より少ない人的リソースでアジャイルな改善を継続的に実現できるようになるはずです」と指摘。アジャイル開発の弱点をAIが補ってくれる未来が訪れると予想する。

 一方どれだけ高性能なAIを導入しても、AIだけでは何かを実現するのは難しい。人間の身体に例えると「脳」だけがある状態で、どれだけ高度な思考を重ねてもその内容をアウトプットするインタフェース、つまり「手足」の動きが伴っていなければ価値を発揮できない。そこで重要なのは、「AIと周辺ソフトウェアツールとの連携」だと西見氏は強調する。

 「私たちが開発するAIエージェントも、それ単体では何もできません。AIが思考した結果を周辺のソフトウェアツールに渡して、業務ニーズに即したアクションを起こしてこそ、価値を発揮できます。ということは、これからのソフトウェア開発は人間に使ってもらうことを前提にするのではなく、AIに使ってもらうことを前提に開発する必要が出てくるでしょう」(西見氏)

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 こうしたソフトウェア開発のパラダイムシフトが起こると、システム開発だけでなくシステムが遂行する業務そのものの姿も大きく様変わりするだろう、と塩谷氏も予想する。

 「AIエージェントがソフトウェアを使いこなしながら業務を遂行するようになれば、業務の設計も人が業務を行う前提から脱却して、AIが業務を行うことを前提とした設計方法を新たに取り入れる必要が出てきます。今後3年から5年の間で、そうした形で業務設計の在り方が大きく変わっていくと予想しています」(塩谷氏)

SIの役割はもはや「ソフトウェアのファンクション提供」ではない

 こうしたパラダイムシフトを受けて、システム開発を生業(なりわい)とするSI業界のビジネスはどのような影響を受けるのか。従来のSIビジネスは、ユーザー企業のニーズや要件にマッチしたソフトウェアのファンクション(機能)を個別開発することで価値を提供してきた。しかしAIがビジネスに深く入り込み、AIが人に寄り添った機能を柔軟に提供するようになれば、人に合わせてソフトウェアをカスタム開発する旧来のSIビジネスの価値は相対的に低下していくだろう。

 このような価値の大転換期を迎え、SIerはこれまでのビジネスの在り方を根本から見直さざるを得ないだろうと塩谷氏は予想する。

 「既に2010年代から、SIの未来は『ソフトウェアのファンクションを提供する』というものではないことははっきり見えていました。これからのSIに求められるのは、より高い視座に立って、経営のアジェンダに刺さるようなデジタル施策の提案や、ビジネスモデル全体をデジタルによって変革する能力だと思います」(塩谷氏)

 そのためには、顧客からの要請を受けてシステムを設計、開発に初めて着手する受け身の姿勢ではなく、むしろ顧客とともに新たなビジネスの姿を作り上げていくプロアクティブ(能動的)なマインドがSIerに求められるようになるだろうと同氏は述べる。

 ビジネスモデルも、長い時間をかけてソフトウェアのロジックやファンクションを開発し、納品したら完了という形から、ソフトウェアのビジネス上の効果を定常的に計測、評価しながら改善を続けていく「仮説検証型」モデルへの転換が必要だ。AIの台頭は、まさにこのような転換を大きく後押しするだろうと塩谷氏は述べる。

 「これまでのSIは基本的に『固定ロジック』を開発するものでしたが、AIはモデルに学習させることでロジックを柔軟に変化できます。固定ロジックから可変ロジックへのパラダイムシフトによって、仮説検証のサイクルを高速に回しながらソフトウェアを継続的に進化させていけます。これを実現するための技術やナレッジを提供することが、これからのSIには期待されているのではないでしょうか」(塩谷氏)

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新たなスキルを習得して、エンジニアのキャリアを切り開く

 SIビジネスの在り方が進化すれば、働くエンジニアにもおのずと進化が求められる。レガシーな技術や開発プロセスにこだわっていては、これからますます本格化するパラダイムシフトに取り残されてしまう。そうならないためには、エンジニア自らが新たなスキルを積極的に学ぶことはもちろん、SIerも自社のエンジニアに対して最新技術の習得を積極的に働きかけていく必要がある。

 既に多くのSIerが、自社エンジニアに向けてリスキリングの取り組みに力を入れている。NECソリューションイノベータも多種多様な人材教育プログラムを通じて、エンジニアが最新技術を学べる機会を提供している。同社は現在、ITビジネスの競争で勝ち抜くために「ジョブ型人材マネジメント」を導入しており、従業員一人一人が自身のキャリアオーナーシップを意識しながら、明確な目標を定めてキャリアを切り開いていくための制度を整備している。

 従業員一人一人のスキルやキャリアに関する情報をタレントマネジメントシステムに全て集約し、これを全従業員へ開放することで自らのスキルやキャリアを客観的に把握できるようにするとともに、上長との「1on1」ミーティングでキャリアプランを相談できる。

 同社は他にもさまざまな制度や仕組みを通じて、従業員のキャリアオーナーシップを支援する取り組みを推進しているが、社内だけでなく社外の風に触れることもエンジニアのキャリアを開拓する上では重要だと西見氏は言う。

 「ずっと同じ環境で同じ人たちばかりと交わっていると、新しいことを学んだり提案したりする動機が生じないので、どうしてもエンジニアとしての成長が止まってしまいます。社外のコミュニティーに参加するなどして、いろいろな立場の人と交流しながら多様な視点を獲得することで、自身に足りない要素や進むべき方向性が明らかになり、結果的に新たな学びの意欲が湧いてくると思います」(西見氏)

 一方、NECソリューションイノベータのような大規模なSIerなら、社内でさまざまな分野の案件が常に数多く走っているため、社内にいながら多様な価値観に触れ、刺激を受けられると塩谷氏は強調する。

 「コロナ禍を経てリモートで働く環境が整備されたことで、全国各地のエンジニアでプロジェクト体制が組めるため、自由度が高くさまざまな業務経験を積めるようになっています。社内にいながら幅広い仕事に触れられてOJTで技術を習得できることは、エンジニアにとって必ずや成長の糧になるはずです」(塩谷氏)

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提供:NECソリューションイノベータ株式会社
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