自社開発のLinux用アプリケーションにPDFの編集や電子サインなどの機能を組み込む際には、さまざまな課題に直面する。LinuxベースのアプリケーションにPDF操作や電子サインなどの機能を組み込むシンプルな解決策とは。
企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環としてITインフラを刷新する際に、システムの基盤OSとしてLinuxを採用するケースがある。オープンソースOSなので、ベンダーロックインを回避できる点やライセンスコストを抑制できる点などが、Linuxを採用する主な理由だ。特にクラウドインフラでのシステム開発は、Linux環境が浸透している。
帳票などのドキュメントを扱うシステムにおいて、PDFは誰もが使う標準フォーマットであり、PDFの書き出しや編集などの機能は欠かせない。ところがLinux環境で稼働するシステムにPDFの機能を組み込もうとすると、開発の課題に直面することになる。
Windowsの描画エンジン「GDI」(Graphics Device Interface)のような、全てのアプリケーションで共通の印刷インタフェースはLinuxには提供されていない。そのため、代わりに各フォーマットをプリンタが解釈できる形式に変換する機構を提供する「CUPS」などのOSS(オープンソースソフトウェア)を使うことになる。しかしこれらを自社開発のシステム要件に応じて組み込み、現場が求めるドキュメントの品質や使い勝手を達成するのはハードルが高い。
開発の速度と効率化を考えるなら、PDFソフトウェアベンダーが提供するLinux向けのSDK(ソフトウェア開発キット)やAPIを活用するのが望ましい。本稿は、LinuxでのPDF機能開発によくある「落とし穴」を解説し、具体的な解決策を紹介する。
近年の業務システムにおいて、PDFの操作は必須機能の一つだ。帳票を扱うシステムは特にPDF機能が欠かせない。従来の紙の業務フローを大きく変更することなくドキュメントを電子化できるためだ。請求書や契約書などの長期保管が求められるドキュメントもデジタルデータなら管理しやすい。PDFならば、電子署名やタイムスタンプなどの技術によって真正性の確保や改ざんの防止が可能になる。
一方で、業務システムをLinuxサーバで構築したいというニーズとPDFの相性は悪い。Linux環境でPDFを生成する場合は、いったん汎用(はんよう)的なPostScript形式のファイルを出力してから、OSSを使用してPDFに変換するなどの処理が必要になる。独自の「PDF帳票」を生成するなら、可変データをフォームに流し込むための仕組みも開発しなければならない。
OSSとしてLinux向けに配布されているPDF関連のライブラリも存在するが、エンタープライズシステムでこれらを使うことにはさまざまな課題が伴う。ユーザー企業のニーズを全て満たす機能を開発するには相応のインテグレーションが必要になり、高い技術力と労力が要求される。
こうした課題を回避するには、PDFソフトウェアベンダーが提供するLinux向けのSDKやAPIを利用するのが現実的な選択肢となる。代表的な製品の一つが、スカイコムの「SkyPDF Tools SDK IV for Linux」と「SkyPDF WebAPI for Linux」だ。同社は長年にわたりPDF専門ベンダーとしてWindows版のPDF SDKやWebAPIを提供してきた実績がある。これらの製品は、そのノウハウを基にLinux向けに移植したものだ。
SkyPDF Tools SDKは、サーバ上のプログラムに直接組み込んでPDFの作成や編集、データの埋め込み、抽出などの処理をするためのライブラリだ。SkyPDF WebAPIは、WebからAPI経由でPDF処理機能を利用できる製品となる。いずれも基本的な機能は同じで、ユーザー企業の開発方針やシステム構成に応じて選択できる。
SkyPDFシリーズの特徴は、業務用システムに必要なPDF関連機能を包括的に実装できる点にある。下記の機能は全て盛り込まれている。
注目したいのは電子署名の機能だ。関係規定の整備が進み、2025年度には運用が開始されると目されている総務省の「eシール認定制度」についてもSkyPDFシリーズは早くから追随し、2024年12月にはeシール付与機能をリリースしている。
eシールとは端的にまとめると、企業や組織が発行する電子データの発行元を証明し、データそのものに改ざんがないことを証明できるようにするための制度だ。自治体の通知や企業の請求書など、データ発行側が電子データに対してeシールを付与することで、データ受信側は、eシールを通じてデータの発行元を検証したり、データが改ざんされていないことを確認したりできるようになる。つまり、eシール制度が本格的に運用され始めれば、改ざんリスク防止の観点から押印や手渡しで行われていた多くの手続きがデジタルで完結可能になる。こうした電子署名関連の法制度に追随する速さは、スカイコムの強みと言える。
PDFドキュメントを扱う上で、SkyPDFシリーズの拡張機能である「GeNovan」にも注目したい。GeNovanは、データ行数が可変の帳票の作成と編集を容易にするSkyPDFの独自機能だ。
一般的なPDF帳票の出力では、項目ごと、行ごとに個別のフォームを作成し、一つ一つデータを入力することになる。そのため、帳票が複雑になるほどフォームの作成や入力の設計、改ページ処理などの工数がかさみ、開発の負荷が肥大化する傾向にあった。
GeNovanは、従来のPDFフォームを使用せず複数の入力項目をグループにまとめて自由に配置できる独自方式を採用している。何らかの明細票であれば、1行分の明細項目をグループとして定義してテンプレートを作成すれば、1行目、2行目と連続して入力して行を増やせる。1ページ当たりの最大明細行数を設定すれば、自動的に改ページ処理も可能だ。旧来のPDFフォーム方式と比べると、GeNovanは帳票作成の手間や負荷の軽減、開発効率の向上が期待できる。
SkyPDFシリーズはさまざまな企業のシステム開発に導入され、業務システムのPDF機能を支えている。金融業界を例に挙げると、銀行や保険の業務システムでの活用例が多く、メガバンクを含む100社以上での実績がある。
PDFの機能開発が効率化に寄与する代表例が窓口業務だ。紙の申込書の代わりに、タブレットの入力フォームに顧客が入力すれば、データはPDF化してバックエンド処理と文書保管も自動的に進められるようになる。紙ベースの業務フローは、入力や工程処理を手作業で進めることになるので手続きの完了までに時間がかかっていた。このフローをPDFベースのシステムに置き換えれば紙ベースのフローを生かしつつ処理をデジタル化でき、スピーディーなサービスに生まれ変われる。同様の仕組みは、自動車販売店や役所など幅広い業界の「申込書の記入が必要な窓口業務」を中心に広がっているという。
OSSと比べた際のメリットとしては、ベンダーのサポート力の強さが挙げられる。OSSの場合、機能実装における責任とトラブル対応はシステム開発者が担うことになる。トラブルの内容によっては解決に長期間かかる可能性もある。
国産ソフトウェアであるSkyPDFシリーズは、製品開発から顧客サポートまで一貫してスカイコムがサポートするため、問い合わせ対応のスピードと回答精度の高さがユーザー企業から好評を博しているという。スカイコムは迅速で手厚いサポートの達成に注力しており、サポート部門と開発部門の連携を重視した体制構築に努めている。
PDF関連のシステムは、認証とセキュリティの技術や法的知識など専門性が高く、システムへの機能実装時に予期せぬ課題が発生した場合の解決は容易ではない。PDF専業メーカーであるスカイコムの知見とノウハウを生かした技術サポートを受けられることは、開発プロジェクトを成功に導くための重要な要素と言えるだろう。
SkyPDFシリーズの豊富な機能の中でも、電子署名については今後の法制度の動向に注目したい。マイナンバーカードにはじめから電子証明書が格納されているので、国税電子申告・納税システム「e-Tax」のような行政手続きにおける電子署名に利用されている他、民間企業のサービスでも活用できるように機能の開放が進んでいる。
現状のマイナンバーカードは一部機能の利用にとどまっているが、将来的には電子証明書と電子署名の利用が社会に広がり、個人の行政手続きや契約における一般的なツールとして普及が進む可能性がある。B2BとB2Cの両面で電子証明書や電子署名の利活用は欠かせなくなり、その機能を業務システムに組み込むことが必然となる時代も遠くないということだ。将来的な電子契約市場の拡大に備えて、スカイコムは電子署名の普及活動にも注力しながら製品開発に努めている。
Linux環境の業務システム開発において、PDF機能の実装はもはや必須となっている。PDF専門ベンダーが提供するSkyPDF Tools SDK IV for LinuxやSkyPDF WebAPI for Linuxのようなミドルウェアを活用することで、開発の負荷やコストを低減しつつ便利なPDF機能を実装し、デジタル活用を推進していきたい。
※本稿は、TechTargetジャパンからの転載記事です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社スカイコム
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2025年10月31日