サーバ仮想化を取り巻く環境が大きく変化する中、企業は仮想化基盤の「次の一手」を模索している。多様な選択肢の中からどのような観点で選べばいいのか。現実的な移行策となり得る選択とは。
昨今、サーバを中心とした仮想化基盤を取り巻く状況が大きく変化している。発端となったのは、2023年11月のBroadcomによる仮想化ソフトウェアベンダーVMwareの買収だ。国内外を含めてサーバ仮想化のデファクトスタンダードに近い形でVMware製品が浸透していた中で、買収に伴い製品のライセンス体系が全面的に変更された。これに合わせてパートナーエコシステムやパートナー認定プログラムの見直しも行われており、VMware製品の販売・再販を手掛けるパートナー企業の顔触れも変わりつつある。
こうした変化を捉え、特にオンプレミスの仮想化基盤について「自社のあるべき姿を見直す大きな契機」と考える企業が増えている。具体的にどのような方向で検討を進めているのか。ネットワールドの工藤真臣氏は、3つの選択肢を示す。
1つ目は、既存の仮想化基盤の利用継続。ライセンス体系の変更を受け入れつつ、コストの最適化を図り、オンプレミスでの運用を継続するものだ。「この方法を望むお客さまに対して、ネットワールドは引き続きサポートを提供します」(工藤氏)
2つ目は、既存の仮想化基盤を代替するソリューションへの移行。「すぐには切り替えられない」という現実的な課題を抱えながらも、追加のコスト負担や移行に伴う作業負荷をできる限り抑えつつ、あえて別の仮想化基盤を模索する動きが加速しているという。
3つ目は、クラウドへの移行。オンプレミスで運用してきた仮想化基盤をパブリッククラウドに移行して継続利用する。ただし、この方法を検討する企業は思ったほど多くはない。「仮想化基盤のクラウド移行はすでにかなりの割合で完了しています。今もオンプレミスで運用している仮想化基盤は、企業ごとの『残すべき理由』があって継続しているため、現実的な選択肢にはなりにくいのです」(工藤氏)
上記の3つの選択肢のうち企業が頭を悩ませるのは、2つ目に挙げた「既存の仮想化基盤を代替するソリューションへの移行」を選択する場合だ。既存の仮想化基盤を代替できるソリューションがあり、実際にネットワールドにも多数の引き合いが寄せられているというが、高機能製品であるが故に移行に際してはそれなりの投資を覚悟しなければならない。
そうした代替ソリューションについて工藤氏は次のように指摘する。「弊社もさまざまな価格帯の代替ソリューションを取り扱っていますが、全く同じ機能を低価格で提供する“完璧な代替ソリューション”が存在するわけではありません。代替ソリューションを検討する際には、仮想基盤で重要な要素は特定の機能なのか、価格なのか、サポートなのか、移行の容易さなのか、などを整理すると円滑に代替ソリューションを選定できます」
そうした中で注目されているのが、Hewlett Packard Enterprise(以下、HPE)が2025年1月に国内発表し、同時にネットワールドが取り扱いを開始した「HPE Morpheus VM Essentials」(以下、HVM)だ。
「“多くのお客さまが必要十分とされる機能を、満足できる価格で提供する”というコンセプトで提供を開始したのがHVMです」(工藤氏)
この新たな選択肢、HVMはどのようなソリューションなのか。HPEの伊藤光裕氏は、その概要を次のように説明する。
「HPEは以前より一貫してハイブリッドクラウド戦略を推進してきました。この戦略上のプロビジョニング機能を担う重要な位置付けとして、2024年にMorpheus Data社を買収しました。同社の『Morpheus Enterprise』の機能の一部と、実績豊富なLinuxベースの仮想化ハイパーバイザーであるKVMを融合させたものがHVMです」
HVMは以下のような、多くの企業にとっての必要十分な機能をカバーしている(一部はオプションソフトウェアや特定ハードウェアとの統合により実現)。
「弊社のVMware vSphereのOEM販売の過去実績を見ると、約8割はvSphere Standard Editionが占めていました。まずはこの8割のお客さまを対象とし、従来の基本的な仮想化基盤に加え、必要とされることが多い“+α”の機能を標準提供することで、オンプレミスの仮想化基盤のスムーズな移行・継続とコスト削減の後押しを目指しています」(伊藤氏)
HVMの提供形態としては、基本的に2つのパターンが用意されている。
HVM Software(Standalone)(上図左)は、HVMのソフトウェアを単体で提供する。「まっさらなサーバにセルフで導入するスキルをお持ちのお客さま、またはSIパートナーに構築・運用を委託されるお客さまが主な対象です」(伊藤氏)
HPE Private Cloud Business Edition(PCBE)(上図中央)は、HPE推奨構成ハードウェアにHVMをプリインストールしたアプライアンスだ。小〜中規模や個別システム向けの仮想化基盤を主な用途とした3Tier型ならびにHCI(ハイパーコンバージドインフラ)型の2つのモデルが用意されている。「クラウド上で稼働している管理機能により、ホストOSの設定管理、稼働状況のモニタリングや分析、ワンクリックアップデート、複数拠点の統合管理といった管理、運用操作を容易に行えるため、幅広いお客さまにご利用いただけます」(伊藤氏)
近い将来にリリースを予定しているHPE Private Cloud Enterprise(PCE)(上図右)は、Morpheus Enterpriseのフル機能を備え、HVMによる仮想化はもとより、コンテナ環境の提供やマルチテナント対応などフル機能のクラウドインフラ環境をマネージド型で提供する大型アプライアンスだ。「フルスタックのプライベートクラウド環境の運用業務をHPEが丸ごと請け負います。お客さまはパブリッククラウド感覚で、必要なインフラやサービスをセルフサービスポータルから簡単に払い出すなど、環境の“利用に専念”できます」(伊藤氏)
HVMについて特筆しておきたいのが、その驚異的な進化のスピードだ。前述した通りHVMが発表されたのは2025年1月のことだが、その後ほぼ毎月のペースでアップデートを重ねてきた。
「ネットワールドさんをはじめとするさまざまなパートナーに検証していただき、不十分な点について急ピッチで改善を図るとともに、足りない機能を拡張してきました」(伊藤氏)
特にHVMの実用面での大きな節目となったのが、2025年8月のバージョン8.0.8のリリースだ。
「HVMには、バージョン8.0.8の前後で大きな違いがあります。8.0.8以降は、パートナー各社から“ダメ出し”を受けた主な箇所の修正や改善を反映した他、ソフトウェアの動作に不安定さをもたらしていた周辺環境の原因を特定して対策を施しており、製品としての信頼性が大きく向上しています」(伊藤氏)
関連するワークロードを同じホストに配置したり、逆に異なるホストに分散配置したりするアフィニティ/アンチアフィニティグループをサポートしているほか、仮想化基盤からAvailability(可用性)、Capacity(容量)、Performance(性能)、Usage(利用率)の4つのカテゴリーに基づいてメトリクスを収集・監視するオブザーバビリティー機能「OpsRamp」も実装済みだ。今後に向けても、DRならびに環境移行を支援する「HPE Zerto Software」との連携、各種バックアップソフトウェアやUPS(無停電電源装置)といったサードパーティー製品との連携強化も予定されており、エンタープライズ向けも見据えたHVMの機能強化が進行中だ。
HVMの導入を検討する際には、最新バージョンを直接目で見て触れて、試してみる必要がある。ネットワールドが開催している「次世代ハイパーバイザー体験セミナー」は、よい機会だという。
「Nutanix AHV、Proxmox Virtual Environment、そしてHVM の3つの仮想化基盤に焦点を当てた実践的なセミナーで、各製品の特徴と効果を、ハンズオンを通じて深く掘り下げていきます。それぞれの製品に実際に触れることができる時間も設けています。全く先入観のない状態から、どの製品がお客さまの業務や目的に沿ったソリューションとなり得るのか、PoC(概念実証)に至る前段階の製品評価のステップとして、参加していただければと思います」(工藤氏)
HPEとしても、必ずしもHVMありきで新たな仮想化基盤を推奨しているわけではない。
「仮想化基盤は運用開始後のコスト削減効果だけでなく、既存環境からの移行難易度や移行コストとのバランスも考慮する必要があります。特定製品を勇み足で導入して投資を無駄にしないためにも、さまざまな選択肢をしっかりと見極めることが重要です。HPEはネットワールドさんと緊密に連携し、お客さまの取り組みをサポートしていきます」(伊藤氏)
入念な検討と評価を経てこそ、選択した仮想化基盤の効果を最大限に享受する移行や運用を実現できる。まずは「HVMの今を知ること」から始めるのが、適切な移行策を検討する第一歩となるだろう。
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