SOMPOホールディングスは、従来の保守的な金融システムのイメージを一変させる内製開発でDXを推進している。新しい技術を駆使して、ビジネスと技術が融合した“ワンチーム”でユーザーに価値を届ける開発文化のリアルに迫る。
金融機関におけるシステム開発と聞くと、多くの人が「安定性重視」「レガシー資産の運用」「枯れた技術の重用」といったイメージを真っ先に思い浮かべるだろう。プロジェクトの進め方はもっぱら重厚長大なウオーターフォール型で、IT部門のエンジニアは自ら手を動かさずにベンダーコントロールに専念するというイメージも強いかもしれない。
しかし多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを強化する中、現在は金融機関の中にもこれまでの保守的なITの在り方を一変させ、先進デジタル技術の導入に積極的に取り組むところが増えてきた。中には、システム開発業務をベンダーに委託するだけでなく、内製開発でスピードとアジリティーを重視したシステム開発手法を導入する企業もある。
その代表例が、損保ジャパンをはじめ数々の金融機関を擁するSOMPOホールディングスだ。同社は2016年、SOMPOグループのDXをけん引する組織として「SOMPO Digital Lab」を立ち上げ、システムの内製開発に積極的に取り組んできた。
同社の内製開発チームで、リードエンジニアとしてアプリケーション開発の案件を主導しているのが、飯村浩一氏だ。もともとメーカー系SIer(システムインテグレーター)でグループ内の内製開発に取り組んでいた飯村氏は、外販の請負開発チームへの異動を機に「もう一度内製開発の現場でプロダクトの価値を追求したい」と考え、転職を決意した。さまざまな転職先候補の中からSOMPOホールディングスを選んだ理由について、同氏は次のように説明する。
「当時は内製開発のチームが立ち上がったばかりで規模が小さかったため、組織の成長とともに新たなチャレンジができるのではないかと考え、転職を決めました」
もう1人、同じチームでリードエンジニアとしてシステムのインフラ開発をしているのが、村上惇朗氏だ。村上氏は大手SIerでクラウドインフラを専門とするエンジニアとして大規模システム開発に従事していたが、「内製開発にチャレンジしたい」との思いからSOMPOホールディングスへの転職を決めた。現在はSOMPOグループのシステムにおけるインフラの開発・運用や、アジャイル内製開発チーム向けDevSecOpsプラットフォームの開発・運用を担っている。
「SIerの仕事は『発注元/発注先』という関係性の中で、どうしてもユーザーに価値を直接届けることが難しく、個人的に歯がゆい思いをしていました。そこで内製開発をしっかりしている事業会社に転職して、より近い距離でユーザーに価値を届けられるシステム開発をしたいと考え、転職を決意しました」
立ち上げ当初は規模が小さかった同社の内製開発チームも、現在はメンバーが50人を越え、SOMPOグループ内のシステム開発を手広く手掛けている。開発のプロセスや体制はアジャイル開発手法の一つである「Scrum」(スクラム)にのっとっており、各プロジェクトチームにエンジニアやデザイナー、スクラムマスター、さらにビジネス部門の担当者などが所属し、短期間のスプリントで新機能やアップデートをリリースし続けている。
ビジネス部門の担当者を除く大半のメンバーは中途入社者で、バックグラウンドも多岐にわたる。さまざま専門性を持つ多様な人材が“ワンチーム”としてまとまることで、ユーザーに高い価値を素早く提供することが可能になっている。
金融機関におけるシステム開発の体制は、幅広い専門性を持ったチームがそれぞれの守備範囲をこなしながら、全体としてはウオーターフォール型の開発プロセスを粛々と進めていく「分業体制」が一般的だ。飯村氏と村上氏も前職はそうした体制、プロセスの下で開発に従事することが多かったが、SOMPOホールディングで“ワンチーム”のアジャイル開発に参画するようになり、新たな世界が開けたという。
「アプリケーションにUI(ユーザーインタフェース)を追加する際、以前ならUIの開発部隊が別部門にいるので意思疎通が難しく、本来はコードが汚くなるので実装したくないような仕様も取り入れざるを得ないこともありました。でも今は同じチームにデザイナーがいるので、直接やりとりしながら最適な落としどころを探ることができます」(飯村氏)
「分業制の頃は、自分の専門分野における役割が明確でした。現在の体制はより広範囲のことを知る必要があるので、以前と比べて難しい半面、やりがいや面白さは明らかに増していますね」(村上氏)
他の開発メンバーとの関係性だけでなく、ビジネス部門の担当者との関係性も大きく変わったという。これまでは開発現場とビジネス部門の距離が離れていたが、エンジニアとビジネス担当者が“ワンチーム”になることで、互いにWin-Winの関係を築けるようになったと飯村氏は語る。
「ビジネス側の意向が、開発効率や運用の面から見ると必ずしも最適でないことは往々にして起こります。その際に一般的なシステム開発では、最終的にビジネス側の意向を優先せざるを得なくなり、結果として技術的負債を作り込んでしまうことが多々あります。私たちの内製開発ではビジネス担当者もチームの一員ですから、膝を突き合わせて話し合いながら、ビジネスにとってメリットがあり、かつ技術的負債も残さないやり方を共に探ることができます」
「枯れた技術を重用する」という金融システムのステレオタイプなイメージも、同社の内製開発においてはほとんど当てはまらないという。それどころか、AI(人工知能)をはじめとする先進技術を率先して採用し、多くの開発業務で活用していると村上氏は話す。
「現在、開発と運用とセキュリティを一体で進める『DevSecOps』のプロセスにのっとってプロジェクトを運営していますが、全てのプロセスでAIツールを導入しています。コーディング作業にはAIコードエディタを導入し、AIによるコード自動生成機能を活用しています。コードレビューやビルド、デプロイ、さらにはセキュリティ脅威の検知などのフェーズでもAIは欠かせません」
AI以外にもモニタリングツールといった先端ツールを積極的に採用し、生産性の向上を図っている。一般的に金融システムは安定稼働が最優先されるため、確かな実績がある技術を好む傾向がある。もちろんSOMPOホールディングスでも、基幹系システムをはじめ、そうした技術とウオーターフォール型の開発プロセスの下で“堅く”開発し、運用するシステムも多数存在する。
一方で、内製チームによる先進的な開発手法が担うシステム範囲も、徐々に広がっている。
「フロント系の完結したシステムの内製開発が中心でしたが、内製チームのプレゼンスが高まるにつれ、より業務に直結したシステムの開発も担うようになりました。現在は基幹系システムと接続する業務システムの開発も多数手掛けるようになったので、レガシーシステムとのインタフェース設計にも気を配るようになりました」(飯村氏)
先進技術を積極的に取り入れられている理由の一つに、両氏は「部門トップのリーダーシップ」を挙げる。飯村氏と村上氏が所属するデジタル・データ戦略部長の中島正朝氏は、損害保険ジャパンのCDO(最高デジタル責任者)およびCOO(最高執行責任者)を兼務しており、強力なリーダーシップを発揮しながらグループ全体のDX施策をリードするとともに、積極的にデジタルツールを使いこなして先端技術をキャッチアップしているという。
「AIを筆頭に先進技術を仕事に取り入れて『皆で積極的に活用していこう』と音頭を取ってくれますし、そうした技術の動向に常にアンテナを張って活用を推進してくれています。トップがこうした意識を持って積極的に行動してもらえると、現場のメンバーも自由に動きやすくなるので本当に助かっています」(飯村氏)
このような環境に身を置くことで、飯村氏は自身がエンジニアとしてこだわる「美しく作る」という理想に近づけたと語る。
「昼休みにオフィスに隣接しているSOMPO美術館によく足を運ぶのですが、展示されている東郷青児の絵画のような、これ以上削る要素がないシンプルできれいなシステムを理想としています。システム開発は、ユーザーの要求を後付けで盛り込んでいった結果、“秘伝のタレ”のような技術的負債が膨れ上がっていってしまいがちです。しかしSOMPOホールディングスの内製開発ならそうした事態を避けて、自分が理想とするきれいなシステム開発を実現できるのではと考えています」
ビジネス担当者や各ステークホルダーと協議して、コードのリファクタリングやモジュールの新規入れ替えのためだけのスプリントを設けることは多々ある。一般的にビジネス部門の担当者は、技術的負債がもたらす弊害になかなか理解を示してくれないと思われがちだが、村上氏によれば「ビジネス担当者はユーザーの価値を損ねることについてはとても敏感なので、そのためには技術的負債を解消して安定稼働を保証することが大事だということを丁寧に説明すれば理解してもらえます」と言う。
村上氏も、ユーザーに高い価値を提供できるインフラエンジニアになるべく、今後も研さんを積んでいきたいと抱負を述べる。
「インフラエンジニアは受け身の姿勢になりがちですが、インフラの存在意義もやはりユーザーに価値を提供することにあります。ビジネス側と一緒に高いユーザー価値を創出できるインフラエンジニアを目指したいですし、そうしたマインドを持つ方とぜひ一緒に働きたいですね」
飯村氏も“ワンチーム”で顧客価値を作っていけるエンジニアを仲間に加え、内製開発の輪を広げたいと意気込む。
「これまでの開発のやり方にとらわれずに、ビジネス側を巻き込みながらチーム全体で良いものを作っていけるような方と、ぜひ一緒に働きたいですね。個人的には私たちの内製開発のプレゼンスを社内でさらに高めて、特定の業務に関わるシステムは全て自分たちで開発するぐらいの存在感を示していければと考えています」
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