車載ソフトウェアの開発に力を入れるデンソー。そのコア組織の一つであるソフトR&D室のエンジニア4人に、自動車業界でITエンジニアとして働く魅力を伺った。
日本の自動車産業を支えるデンソーは、「SDV」(※1)と呼ばれる「ソフトウェアのアップデートによって継続的に進化するクルマ」への変革が進む中、車載ソフトウェア領域でのさらなる競争力の強化を続けている。
※1 SDV:Software Defined Vehicle
「デンソーのソフトウェア競争力を世界トップレベルへ導く」――その挑戦において一翼を担っているのがソフトR&D室だ。現在、愛知県刈谷市にある本社と東京支社には約20人のメンバーが在籍し、自動車業界におけるソフトウェア領域で技術競争力の中核を担っている。
ソフトR&D室の室長を務める松崎秀則氏は「ソフトウェアがクルマの価値を大きく左右する時代において、米国のIT企業や中国の新興企業などが最新のソフトウェア技術を駆使し、存在感を急速に高めています。自動車業界の変革をリードし、社会への貢献や日本産業の競争力強化につなげるためには、スピード感を持ったR&D(研究開発)投資と、多様な業種からの優れた人財獲得が不可欠です。そしてこれらは、デンソーが長年培ってきた知見と融合する必要があります」と語る。
SDV基盤技術を担当する岩井明史氏は、1988年の入社以来、約40年にわたりデンソーで開発業務に取り組むエンジニアだ。「SDV化が急速に進み、スマートフォンのようにソフトウェア開発サイクルの短縮が求められる中、最新技術やトレンドへの迅速な追従が、現状では十分とは言えません。だからこそ、グローバルでのR&D活動や産学連携、コンソーシアム活動などを通じた研究開発を加速させ、その開発成果をベースに事業部と協力・連携して製品開発に結び付けることが重要です。こうした取り組みにより、デンソー全体での開発効率を高め、競争力を強化したいです」とソフトR&D室の果たすべき役割を説明する。
松崎氏、岩井氏を含め、今回インタビューに応じてくれた4人のエンジニアは、2025年1月に開設されたデンソー東京支社で働いている。東京には多数の大学や研究機関の他、IT関連企業も多く、多様なITエンジニアが集結している「先進的なソフトウェア開発活動の中心地」だ。岩井氏が描く産学連携やコンソーシアム活動を実現しやすい環境であり、多様なアイデアから新たなイノベーションが生まれる場所だ。
2014年にシリコンバレーに赴任し、デンソー・インターナショナル・アメリカの立ち上げを経験した岩井氏は、こう語る。「現地でインド、中国、キプロス、メキシコ出身のスタッフを採用し、イノベーションが生まれる現場を肌で実感しました。その経験から、個性と多様性こそがイノベーションの源泉であると考えます」
その上で、室長の松崎氏は「デンソーの強みは、メカとエレクトロニクス、ソフトウェアの3つの技術を組み合わせた三位一体のシステム構築力と、それをカタチにする『ものづくり力』です。どんなに優れた技術でも、最終的に量産製品化しお客さまのもとに届けられなければ意味がありません。東京支社は多様なステークホルダーとも連携しながら新しい技術を『探索』する役割を担い、本社は安全安心を支える高品質なものづくりのノウハウを生かし、その技術を『深化』させ量産製品化へつなげるという役割分担によって、競争力強化を目指します」と、東京と本社の連携によるシナジーこそが、東京支社の戦略的意義だと強調する。
実際、松崎氏が入社した7年前と比べると、R&Dと製品開発の部門が連携して技術革新を進める機運は年々高まり、会社全体の戦略として重要視され、活動を支えるサポートも充実している。
IT業界のエンジニアにとって、カルチャーの異なる自動車業界は畑違いであり、自分には縁がないと思っている方もいるかもしれない。だが今回インタビューした4人からは、自分たちの業務が社会に与えるインパクトの大きさや、変革期ならではのスピード感、ダイナミズムなど、自動車業界ならではの魅力を聞くことができた。
「むしろAI(人工知能)活用においては、自動車業界は最先端の技術を扱う面白さや自由があります」と話すのは、デンソーに新卒入社し6年目となる高本裕紀氏だ。デンソーはCO2排出ゼロや交通事故死亡者ゼロを目指しており、地球規模で環境・安心に貢献できる企業で働くことの意義は大きい。「海外出張先でクルマに乗った際にデンソー製品を目にした経験が何度もあり、世界中で使われていることに喜びを感じました」とも語る。
実際、ソフトR&D室は、先端技術をタイムリーに製品化につなげるためのソフトウェアアーキテクチャの革新と、最新AI技術を活用したソフトウェア開発の効率化に特に力を入れている。
前者では、最新の仮想化技術やモデリング技術などを導入し、ソフトウェアアップデートによるクルマの付加価値向上を低コスト・高品質で実現することを目指すが、AIで構築されたシステムの品質をどのように保証するかが課題となる。
後者では、加速度的に進化を遂げる生成AIを導入することで、ソフトウェア開発プロセスを変革し、開発効率の飛躍的向上を目指している。その活動の中心にいる高本氏は現在、デンソーがこれまで生み出してきた製品や、開発成果物の他、過去40年間で培ったソフトウェア開発の知見など、デンソーに蓄積されている資産を活用した独自AIエージェント開発のリーダーを務めている。
「AIエージェントで開発プロセスを自動化することで、エンジニアはAIに対する要求やAIの成果物レビューに専念し、最終品質を保証する役割を担うようになります。車載ソフトウェアの品質の瑕疵(かし)は人の命に関わるため、AI導入の難易度はハイレベルであり、だからこそエンジニアとして面白いところです。これまで人力で担ってきた面が大きい分、改善の余地や効果が大きく、モチベーションにつながっています」(高本氏)
デンソーにおけるソフトウェア研究の特徴として挙げられるのが、研究(ソフトR&D室)と製品開発(事業部)の密接な関係だ。
「私のチームで取り組んでいる研究は、ADAS(※2)関連の事業部との関わりが強く、常に製品開発のメンバーとコミュニケーションを取りながら業務を進めています。一般的には、研究と異なる部門とのコラボレーションが難しいという話を聞きますが、われわれのチームでは事業部と密に取り組んだ歴史から、そうした壁を感じることは少ないです」と語るのは、2025年に家電メーカーからデンソーに転職した上木瞭太郎氏だ。
AI品質の研究は、ADAS関連の事業部など社内ユーザーを想定しているが、製品開発を担う事業部がAI導入やその品質の重要性を深く理解しているからこそ成り立つ関係だと上木氏は語る。
SOAFEE(※3)など標準化団体への積極的な参画もデンソーならではの取り組みといえる。この点について岩井氏は「R&Dでは、世界の最新トレンドに触れて、さまざまなステークホルダーやエンジニアとつながりができるのは大きなメリットです。多様な人財との共創でしか大きなイノベーションは生まれないと信じています」とその意義を強調する。
※2 ADAS:Advanced Driver-Assistance Systems(先進運転支援システム)
※3 SOAFEE:Scalable Open Architecture For Embedded Edge
デンソーでは、東京支社におけるエンジニア採用活動を強化しており、東京支社勤務のエンジニアは東京で採用された転職者が多数を占める。実際、今回インタビューに応じてくれた4人のうち、松崎氏と上木氏は東京採用の転職者だ。
「多くの日本の企業では、新しいテーマにチャレンジしようとしても上を説得するのに時間がかかったり、予算を獲得するのに苦労したり、という話をよく聞きます。私自身もこれまで一貫して研究職でしたがそういった場面を目にしてきました。デンソーでは逆に『もっとアグレッシブに提案しろ』と言われるほどで、研究開発の入り口で苦労することがない。研究者にとって、やりたいことが実現しやすい理想的な環境だと思います」(松崎氏)
「前職(家電メーカー)と比較すると、関係を持つ部門や企業が多く、自動車産業の規模の大きさに驚きましたが、関連部署の方々もAI品質プロセスの重要性を深く理解していて、入社したての私でもかんかんがくがくの議論に参加しながら社内提案ができました」(上木氏)
多様な業種から転職してくるエンジニアにとって、働きやすい環境や制度を提供している点も見逃せない。フレックス勤務や在宅勤務など多様な働き方を支える制度が整っている他、マネジメント職が率先して有給休暇を取得するなど、メンバーが働き方について上司に相談しやすい環境を実現している。
松崎氏は、SDVを経てAIDV(※4)へと続く変革をデンソーがリードし続けるために、「クラウド上で開発、テストしたソフトウェアがそのままクルマにデプロイでき、しっかり品質を保証できる仕組み」「自動運転などのセーフティー領域において、AIモジュールを安心して使える仕組み」「AIをフル活用した革新的なソフトウェア開発プロセスの社内活用」の3つを今後ソフトR&D室が重点的に取り組む研究領域として挙げる。
その上で、40年近くデンソーと共に歩んできた岩井氏は、これからのデンソーに必要な人財についてこう語った。「自動車業界への転職にハードルを感じている方にこそ来てほしいですね。われわれはむしろ異業種からの刺激を求めているので、ぜひ思い切って飛び込んできていただきたいです」
※4 AIDV:AI Defined Vehicle
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提供:株式会社デンソー
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2025年12月23日