DXに不可欠なクラウドサービスが、経済安保上の特定重要物資に指定された。供給確保計画の認定を受けた国産クラウドサービス事業者は、セキュリティと信頼性の向上に向けて、どのような取り組みをしているのか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を具現化する手段として、クラウドサービスの活用はもはや当たり前となった。企業だけではなく、国家レベルの重要システムを支えるインフラとしてもクラウドサービスが広く使われている。クラウドサービスのセキュリティや信頼性に関心が集まるのは、極めて自然なことだ。
国産クラウドサービス事業者は、クラウドサービスを取り巻くこうした動きにどう向き合い、どう行動しているのか。アイティメディア主催のイベント「ITmedia Security Week 2025 秋」(2025年11月25日〜12月1日開催)に登壇したさくらインターネットが、「国産クラウドで実現する安心・強靭なセキュリティDX」と題して同社の取り組みを語った。
政府は2022年12月、経済安全保障推進法上の「特定重要物資」としてクラウドサービスを指定した。特定重要物資は、国民生活や経済活動が広く依拠している重要な物資のことであり、安定供給確保のためにサプライチェーンの強靱化(きょうじんか)を図る対象となる。「蓄電池や半導体と並ぶ国家的に重要なインフラとして、クラウドサービスが政府に認められたということです」と、さくらインターネットの荒木靖宏氏(クラウド事業本部 プロダクトマネージャー)は説明する。
経済安全保障推進法に基づき、さくらインターネットは2種類のクラウドサービスの供給確保計画を提出し、政府の認定を受けた。その一つが同社の中核サービスである「さくらのクラウド」だ。
さくらのクラウドは、東京および石狩に計5拠点のデータセンター群を展開し、可用性と冗長性を確保している。料金は円建てで為替リスクを排除できる他、インターネット向けのデータ転送(エグレス)への課金はなく、予算計画を立てやすい。「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(ISMAP)に登録されており、セキュリティ面でも安心して利用できる。
「さくらのVPS」「さくらの専用サーバ PHY」「ハウジングサービス」といった他のサービスとの直接接続はもちろん、外部との接続性も確保している。例えば、「Amazon Web Services」(AWS)をはじめとする他社クラウドサービスとの閉域接続が可能だ。学術機関向け閉域網の「SINET」との接続オプションや、総合行政ネットワーク「LGWAN」への接続サービス「LGWANコネクト」(ASP事業者向け)も用意する。NTT東日本・西日本のインターネット接続網(フレッツ網)との直接接続オプションも備える。
クラウドサービスのセキュリティと信頼性を高めるために、さくらインターネットが2025年9月からオンラインで公開しているのが「最適設計ガイドライン」だ。最適設計ガイドラインは「セキュリティとコンプライアンス」「信頼性と回復力」「運用効率」「コスト最適化」という4つの柱で構成され、「クラウドサービスをどう使うか」という観点に基づいた、ユーザー企業向けのベストプラクティス集となっている。
ユーザー企業は最適設計ガイドラインの内容を学び、使いこなすことで「クラウドサービスにおける運用や設計の属人性を排除したり、トラブルを防止したりしやすくなります」と荒木氏は説明する。「特定の人に依存しない『運用の仕組み化』こそが当社の目指すものであり、次世代のシステム運用・設計には必要です」
セキュリティ強化に向けて、さくらインターネットはFortinetとの連携を進め、同社のクラウドサービスと組み合わせて利用可能な他社製品・サービスを集約した「マーケットプレイス」の中で、Fortinet製品を調達できるようにしている。
「Fortinet製品には、さまざまな強みがあります」とさくらインターネットの西浦徹氏(マーケティング本部)は語る。西浦氏が特に評価するのが、機能の豊富さと管理の容易さだ。主力製品のUTM(統合脅威管理)アプライアンス「FortiGate」は、ファイアウォールやIPS(不正侵入防止システム)などの幅広い機能を備える。「FortiManager」「FortiAnalyzer」といった豊富な運用管理ツールにより、セキュリティポリシー適用やログ管理を効率化できる。
ユーザー企業にとって、さくらインターネットのマーケットプレイス経由でFortinet製品を利用するメリットは、何よりも簡単さだ。仮想アプライアンス版のFortiGateである「FortiGate VM」の場合、さくらのクラウドのコントロールパネルを使って、ライセンスの購入からデプロイ(配備)まで一括してできる。FortiGate VMはハードウェアの買い替えをすることなく、規模の増強や縮小といった将来的な変化に対処可能だ。
組み込みシステムの開発を手掛ける日新システムズは、分散型エネルギー管理システムにさくらのクラウドとFortiGate VMを組み合わせて活用。さくらインターネットの法人向けIoT(モノのインターネット)モバイルネットワークサービス「さくらのセキュアモバイルコネクト」を併用することで、クラウドサービスからIoTデバイス、現場設備の通信経路まで、一貫したセキュリティの強化を実現した。
クラウドサービスのセキュリティと信頼性を考える上で「ソブリンクラウド」は無視できない。ソブリンクラウドは、データや技術の「主権」を確保するクラウドサービスだ。一般的にソブリンクラウドにおける主権は「データ主権」「システム主権」「運用主権」の3つを指す。さくらインターネットはこれらに「技術主権」を加えた4つの主権を提唱する。
荒木氏によると技術主権は、国内にクラウドインフラの開発技術を保持することだ。さくらインターネットは、データセンターの構築からクラウドサービスの運用まで自社で手掛けることで、ソブリンクラウドにおける技術主権を維持している。「クラウドインフラの開発技術は非常にニッチであり、一度失われると復活は困難です」という認識に基づく。
さくらインターネットはユーザー企業の技術主権確保にも力を入れている。最適設計ガイドラインの公開に加えて、Webサイトで受験できる「さくらのクラウド検定」や、動画講義とハンズオンで構成される「クラウドエンジニア養成講座」などの提供を通じて、知識やスキルの向上を支援する。
データからシステム、運用、そして技術までの主権を確保する国産クラウドサービスの役割は、今後ますます重要になる。ただし「DXの本質は、クラウドサービスを使うことではありません」と荒木氏は強調し、「自らの業務に最適な技術を選んで、改善することこそが、DXの本質です」と語る。こうした認識の下、さくらインターネットは国産クラウドサービス事業者として、ユーザー企業の自立したDXを支える構えだ。
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