アジャイル化、外部サービス連携の増加、そして生成AIの急速な進化。開発にスピードと柔軟性が求められている今、スピードと品質の両立に悩む企業はテスト自動化による解決アプローチに期待を寄せている。だが、テスト自動化のポイントを理解しないまま進めると期待した効果が得られず、結果としてプロジェクトは失敗に陥ることになってしまう。本稿では、数多くの企業を支援してきたテスト自動化のプロフェッショナルに、導入の落とし穴やそれを回避するための知見、AIで進化したテスト自動化の今を聞く。
「ビジネスにおいてアジリティの重要度が高まる中、スピードと品質を向上させる手段としてテスト自動化に投資する経営判断をする企業が増えています。『自動化のニーズが高まっている』というよりも『もはや自動化しなければテストをやり切れない』のが実情です」
こう話すのはポールトゥウィンの後藤香織氏だ。多くの企業の第三者検証やソフトウェアテストを支援してきたポールトゥウィンは品質保証(QA)のプロフェッショナルとしてテスト自動化のサポートも手掛けており、開発現場のプロジェクト管理者/リーダーが今抱える課題を熟知している。
テスト自動化のニーズが激増する背景にあるのは開発スタイルの変化だ。アジャイル開発が普及したことで、テストを短い期間で高頻度に繰り返す必要性が高まった。外部と連携して機能を実装するケースも増え、連携先のインタフェース変更が影響するなどトラブルの可能性も増加した。
加えて昨今の生成AI(人工知能)の進化もテスト自動化に大きく影響している。生成AIはテスト自動化との親和性が高く、テストの計画・設計から、項目作成、自動テストのコード作成まで、QAプロセス全体に適用できる。
「テスト自動化は一定の投資が必要ですが、生成AIによって初期投資のボリュームをかなり抑えられます。保守メンテナンスの不安も課題になりますが、その点も生成AIでカバーでき、“省エネ”で導入できる可能性が広がっているのです」
生成AIが普及したこともあり、自動化について「全て任せられる」「すぐにうまくできる」といった過剰な期待も生まれやすいが、決してそうではない。思ったように成果を得られず、失敗に終わるケースもあるという。
「失敗パターンには共通点があります。まず挙げられるのが“目的を明確にしないままスタートしてしまう”ケースです」
例えば、「自動化率80%」のように定量的な数値を掲げていると一見して明確に思えるが、最終的に享受したいメリットが不明なので、目的としては不十分だ。コスト削減やテスト期間短縮、リリースサイクル高速化など具体的なベネフィットまで落とし込むことが重要になる。
コスト削減を目指すなら現状のコストを把握することから、網羅的なテストで不具合を削減するなら「何をすれば網羅的か」などを定義することから始めなければならない。目的をきっちりと定めることで、テスト自動化の成功確度が高まる。
初めてテスト自動化をする際は、事前に想定し切れないことも多く、試行錯誤することになる。それも含め、初期投資をどう回収するかまで考える必要がある。導入後のメンテナンスコストも同様で、エラーによってはプログラムを構成する要素のバージョンアップが必要になる場合もあり、さまざまな状況を想定して計画しておきたい。
「生成AIの進化により、コード修復やテストケース生成もある程度自動化しつつあり、コストをかなり抑えられるようになりました。しかし、コストがゼロになるわけではありません。導入後の運用コストまで含めて計画し、先端の技術トレンドを見ながら時代に合った判断が求められます」
テスト自動化ツールの選定にも落とし穴がある。対応するプラットフォームなどで機械的に決まる部分もあるが、ツール選定が成否を左右しかねない。選定基準の一つが、「誰が保守を担当するのか」だ。コーディングが苦手であればノーコード/ローコードのツールが有力候補になるが、簡単に利用できる一方で、複雑な実装やプラットフォームをまたいだテストなどには対応できないケースもある。
「実装するシナリオの全体像や、技術的に複雑なポイントを早い段階で可視化し、ツールでカバーできるのかどうかなど、めどを立てた上で判断することをお勧めします。判断を見誤らないためにも、いきなり全体的に自動化するのではなく、PoC(概念実証)などからスモールスタートすることが重要です」
こうした落とし穴を回避するために、QAのプロフェッショナルはどのように支援しているのだろうか。ポールトゥウィンでは、テスト自動化の導入検討から実装までの道筋を提示し、自動化の目的や効果指標、主要リスクの定義から関係者合意まで、導入を成功させるために必要な戦略に基づいて企業の課題解決を支援するという。
「どう自動化するかというだけでなく、根本的な課題や背景から深掘りし、暗黙の期待値を文書化するところからサポートします。同じチームでも、例えばテスト担当者とプロダクトオーナーでは視点や考えが違う場合もあるので、その場合はチーム全体の総意をまとめるところから始めます。全体的なQA戦略の整備からお手伝いすることもあります」
上流から下流まで、テストに関して総合的に支援する体制があるポールトゥウィンだからこその強みと言えるだろう。
「QA戦略からテスト自動化の目的を明確にすることで、コスト最適化にもつながります」と後藤氏は続ける。「テストを全項目クリアしたとしても、それがどのような意味を持つのかが分からないケースは意外とあります。テストで解消したいリスクを言語化することで、無駄のない項目数でテストを実装できるのです」
テスト自動化で実行の負担が減る分、思い付く限りのテストを実装してしまうことはないだろうか。各フェーズで似た項目を何度も実行していることもあるだろう。重複をなくすだけでもコストは削減できる。ポールトゥウィンでは「E2E(エンドツーエンド)テストやリグレッションテストで、どこまで確認するのか」など、戦略に基づいてやること/やらないことを意思決定できるように支援する。
イメージしやすいように、2〜3ケースをピックアップして短期間で実装する簡易的なPoCにも対応する。これにより、早い段階から具体的なイメージを持って戦略立案できるようになる。適切なツール選定もコスト最適化につながる。ブラウザ上では簡素な画面に見えても、特殊な技術が用いられていてボタンなどの要素を識別できない(自動化ツールで対応しづらい)ケースなどもある。早期のPoCによって根拠を持ったツール選定が可能になり、手戻りによるコスト増を防止できる。
「ツール選定も、ベンダーではないニュートラルな立場だからこそ、目標や組織体制にフィットするものをフラットに検討し、アドバイスできます」
この他、テスト自動化について解説するセミナーの開催、保守運用マニュアルの作成など、実務に生かせるようになるまで伴走する。「保守運用をまとめて任せたい」というニーズにも対応できるという。
ポールトゥウィンでは、AIも積極的に活用している。「『どういったシナリオを自動化するか』というテスト自動化の前にすべき検討にも生成AIを活用することで、コストをかけずにトレーサビリティーが取れる状態で、設計からテストケースに落とし込めるようになりました」
AIエージェント機能を備え、E2Eテスト自動化で近年注目されているオープンソースソフトウェア「Playwright」についても、リリースから1〜2カ月ほどで特徴や弱点などを把握した上で、顧客に導入を提案している。
サービス化するだけでなく、独自ツールの開発にも先端技術を積極的に取り入れている。2025年10月には、E2Eテストの設計を生成AIで自動化するツールをリリースしたばかりだ。
このようにプロフェッショナルの支援を受けられるようになったテスト自動化について後藤氏は改めて注意点を挙げる。「テスト自動化はあくまでも手段の一つ。自動化だけの狭い視野で進めると、本来の目的から外れ、失敗に終わりかねません」
現場の課題を解決する手段と捉え、「企業・組織として、QAをどう進めるか」「テストは全体戦略のどの部分を担うのか」などに加えてKPI(重要業績評価指標)や優先順位を定めることが先決だ。だからこそポールトゥウィンでは、品質リスクを診断するサービス「ドクターQA」も提供し、戦略を共に描くところからサポートしているという。
「テスト自動化が多用されるリグレッションテストでは、中核となるシナリオを網羅するようにテストを設計しますが、『何を検証すれば網羅したと言えるのか』といった“テストの本質”を考えさせられる問いが多くなります。品質に漠然とした課題を抱えている企業も、テスト自動化を検討する中で、必要なことや足りないことが可視化されていくはずです」
当然だが、QA戦略も業種や企業によって大きく異なる。サービス特性やユーザー体験に求められる基準、許容されるリスクの度合いは企業ごとに異なり、それによって検証すべき領域も変わってくる。ある領域ではスピード優先の戦略が必要になる一方で、別の領域では信頼性や安全性を最優先に、より厳密なテストが求められることもある。こうした前提の違いを踏まえてQA全体を設計することが、テスト自動化を成功させる上で重要だ。
「ポールトゥウィンは幅広いドメインに対応してきた実績があるので、経験や引き出しの多さには自信があります」
後藤氏は、生成AIの活用を経営課題として捉える企業こそ、テスト自動化の導入を前向きに検討すべきタイミングだと語る。
「テスト自動化は今、生成AIによって大きく変化しつつあります。十数年間関わっている私も衝撃を受けるほどですが、より導入しやすくなると期待感を持てる変化です。テスト自動化にネガティブな印象を持っていた方も再検討を始めるのによいタイミングではないでしょうか」
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