AI適用と厳格な安全性を両立 ボッシュに学ぶ「ハードとソフトの理想的な協創」異業種の知見がモビリティの未来を変える

AIのような先進技術を自動車に搭載するならば、高い安全性を保証しなければならない。ボッシュはこの難題に、ハードとソフトの技術者が席を並べる独自の開発体制で挑み続けている。その開発現場の全貌は。

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» 2025年12月18日 10時00分 公開
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日本の自動車産業の発展とともに歩んできたボッシュ

 ドイツに本拠を構える大手グローバル自動車機器サプライヤー「ボッシュ」。1886年創業の老舗モノづくり企業である同社は、自動車部品やシステム開発の分野において長らく業界に君臨し、日本国内の自動車業界でも重要な位置を占めている。

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 同社は自動車部品のハードウェア製品だけでなく、それらを制御する組み込みソフトウェア、さらには昨今注目を集めるSDV(Software-Defined Vehicle)の心臓部を担う各種ソフトウェア群など、ハードウェアとソフトウェアの双方において屈指の技術力と実績を誇る。近年は産業機器や各種消費財、空調事業など、自動車業界以外でも高い存在感を示す。

 言うまでもなく自動車産業は日本の基幹産業の一つであり、複数の大手自動車メーカーが存在する。ボッシュも日本の自動車メーカーと密接に連携するために複数の開発拠点を設け、日本の自動車産業の発展を支え続けている。

 2024年5月には日本法人の新本社オフィスを横浜市都筑区に設け、それまで複数の拠点に分散していた約2000人の従業員を集結させた。現在この新オフィスでソフトウェア開発の中でも高度化が加速しているADAS(先進運転システム)分野で陣頭指揮を執っている一人が、竹内剛也氏だ。普及が進むADASは、より高い安全性と快適性を実現するために、システムへの要求も一段と高まっている。異なるセンサーのアウトプットをフュージョン(統合)して信頼性を向上させる技術や、周辺状況を正確に把握し経路選択するシステムなど、複雑な市街地環境でもAI技術を活用して車両の制御を行うADAS・自動運転領域の開発をリードしている。竹内氏はもともと大手国内メーカーでモバイルのディスプレイ・タッチパネル製品のシステム開発に従事していたが、2012年にボッシュに転職した。

 「前職で携わっていたフィーチャーフォンがコモディティ化するに従い、新しい分野で試したいと思い始めました。ボッシュの主戦場であるモビリティには、これからソフトウェアで新たな世界を切り開いていける可能性を感じたため、思い切って転職を決意しました」

ADASの製品開発の最前線を走り続けてきた

 竹内氏がボッシュに中途入社した2012年には、現在多くの自動車に搭載されているような高度な運転支援システムはまだ製品化に至っておらず、自動車の走行速度を自動的に一定に保つクルーズコントロール機能がようやく実用化された時期だった。

 しかし同氏が予想した通り、その後自動車のさまざまな機能がソフトウェアで制御されるようになる。AEBS(衝突被害軽減ブレーキ)やFCW(前方衝突警告)など、先進的なハードウェア技術とソフトウェア技術を組み合わせた運転支援システムも広く採用されるようになった。

 現在はこれらの機能を「ADAS」(先進運転システム)と総称するようになり、竹内氏もボッシュのエンジニアの一員としてこれらADASの最前線を走り続けてきた。

 「現在のADAS開発チームは数百人を超える大所帯なのですが、私が入社した当時は小さな組織で、おのおのがコーディングもすればシミュレーションもして、お客さま(自動車メーカー)にも自ら出向いて、さらにはテストコースで自らテスト車をドライブするといったように、1人で何役もこなしていました。ADASの急速な普及とニーズ拡大に伴い、チームのメンバーは一気に増え、分業化も進んでいます」

 ADASの組み込みソフトウェアは、大きく分けると「レーダーやカメラといったセンサーからの入力情報を基に周囲環境を認識する」「認識された情報から、例えば『ブレーキをかけるべき対象』を選択する」「自動で緊急ブレーキをかけるなどして車の挙動を制御する」という3層の機能レイヤーに分かれる。そのうち竹内氏は、主に1つ目と2つ目の機能を担うソフトウェアの開発に長らく携わってきた。

 「これまで常に最先端のADASの開発に携わってきましたし、それらの多くは実際に国内自動車メーカーの製品に搭載されてきました。これらは一度開発したら終わりではなく、ハードウェアの機能や性能の進化に合わせてソフトウェアも進化させ続けなくてはなりません。近年はモビリティの世界にもAI(人工知能)のトレンドが押し寄せており、AI技術を活用したさまざまな新機能の開発も進められています。このように常に最先端の技術に触れられるのが、この仕事の醍醐味(だいごみ)だと思います」

安全性を保証しつつ、新技術の適用も積極的に進める

 一方、先端技術を実際に製品に実装して世に送り出すまでに超えるべきハードルは多い。特に竹内氏が携わっている自動車の組み込みソフトウェアの分野では、一般的なソフトウェア開発では取り上げられることが少ないセーフティ(安全性)の優先度が極めて高い。

 「自動車の組み込みソフトウェアの不具合は、場合によっては人命の危険に直結します。研究開発段階で機能が実現できても、それを量産化の段階に持っていくまでには、極めて高い安全性を保証する必要があります。これは、この分野特有のチャレンジだと思います」

竹内氏 竹内剛也氏(ボッシュ クロスドメイン コンピューティング ソリューション事業部 ADAS システム、ソフトウェア&サービス部門 システム・機能開発事業部 エンジニアリング セクション・マネージャー)

 自動車の組み込みソフトウェアには、大きく分けてセーフティ(安全性)を担うものと、コンフォート(快適性、利便性)を担うものの2種類がある。現時点でAI技術の積極活用が進んでいるのは主にコンフォート分野であり、セーフティ分野への適用には慎重を期しているという。

 ただし研究開発はかなりの段階まで進んでおり、竹内氏自身も、次世代センサー部品とAI技術を組み合わせた新機能の開発を担い、数年後の実用化を目指しているという。ボッシュはこうした研究開発段階の先端技術の一端を、同社の顧客である自動車メーカーの関係者に向けてプレゼンテーションし、試乗してもらう体験イベントを定期的に開催している。

 「自動車メーカーのお客さまをお招きして、弊社の次世代技術を搭載したデモ車両を走らせる『Mobility Experience Days』というイベントを定期的に開催しています。2025年はこれに加えて、メディアや学生向けにも体験イベントを実施しました。私もデモンストレーターやプレゼンターとして参加して、弊社の技術を外部に向けて積極的にアピールしています」

ソフトウェアとハードウェアのエンジニアが互いに密接に連携

 一般的に、組み込みソフトウェア開発の現場では、得てしてハードウェア開発チームとソフトウェア開発チームの間で主張が対立し、度々衝突が発生しがちだ。

 ソフトウェアエンジニアは「ハードウェアがこれだけしか出力できないのだから、ソフトウェアでできるのもここまでだ」と言い、かたやハードウェアエンジニアは「ハードウェアでできることは目いっぱいやっているのだから、それ以上はソフトウェアでカバーしてくれ」と言う。特にハードウェアとソフトウェアを別々の会社で開発していたり、同じ会社でも遠く離れた拠点でそれぞれ開発していたりする場合に、こうした衝突が起きやすい。

 SDV向けの開発では「ソフトウェアファースト」と言われることが多い。しかしボッシュの製品開発現場では、「ハードウェアがあってこそのソフトウェア」という信念のもと協働して開発に取り組んでいる。

 「ボッシュはハードウェアとソフトウェアの両方を自社開発しています。私が働く本社では、同じオフィスで双方のエンジニアが席を並べて作業しているので、普段から密にコミュニケーションを取れます。分からないことがあれば、すぐに顔を合わせて直接確認したり、気軽に相談したりできるので、とても風通しがいいですね」

 もちろん互いの主張がぶつかり合うこともあるが、そうした場面でも変に話がこじれることはなく、例えば「ハードウェアの今回の世代でできるのはここまでだから、あとはソフトウェアでここまでやろう」といった具合に、双方で落としどころを探りながら前向きな議論ができるという。

 「日ごろからこうした仕事の進め方をしているので、ソフトウェア開発チームの中にも『ハードウェアの良さを最大限生かせるソフトウェアを作ろう』という意識が自然と根付いています」

ハードウェア部門との協働で誕生した車載センサー ハードウェア部門との協働で誕生した車載センサー
竹内氏が開発に携わるADASシステム関連製品の一部 竹内氏が開発に携わるADASシステム関連製品の一部(提供:ボッシュ)

異業種のソフトウェアエンジニア同士、刺激し合って技術を極める

 ボッシュで働いているソフトウェアエンジニアは、それぞれ多様なバックグラウンドを持っている。竹内氏のように他業界でソフトウェアの開発に長らく従事していたエンジニアがいる一方で、Webアプリケーションや一般的な業務システムの開発に従事してきたソフトウェアエンジニアも多いという。

 「私も、もともとソフトウェアの開発をしていたものの、特に自動車が好きだったり詳しかったりしたわけではありません。むしろそういう人の方が多い印象ですね。自動車業界以外からの転身は、入社当初は畑違いの分野に入ってきて戸惑うことも多いと思いますが、ソフトウェア開発のコアな部分は同じですから、やっていくうちにすぐに慣れます」

 近年は組み込みソフトウェア開発の現場でも一般的なシステム開発の知見やノウハウをどんどん取り入れる傾向にあるため、そうした知見を異分野から持ち込んでくれることは「むしろ大歓迎です」と竹内氏は話す。

 とはいえ、自動車の組み込みソフトウェア開発の経験がまったくないエンジニアにとって、学ぶべきことは多い。そこでボッシュは、会社を挙げてエンジニアの教育・研修制度の充実に力を入れている。それぞれの担当領域やポジションに応じて身に付けるべきスキルはリスト化され、それらを習得するための研修制度も用意している。

 「こんなスキルを身に付けたい」という従業員ごとの希望には、会社がスキル習得を支援する制度を設けている。さらに、ボッシュはメンタリングやコーチングといった制度を導入しており、従業員の希望に応じて利用できる。それらの制度を活用すれば他の事業部の従業員との交流が生まれ、新しいつながりも生まれやすい。

 待遇についても、エンジニアのキャリアパスに特化した職制および評価制度を設けており、「技術を極めたい」と願うエンジニアが存分に力を発揮できる環境が構築されている。特に2024年にはエンジニア向けの給与体系が見直され、これまで以上にその働きに応じて正当な報酬が得られるようになったという。

 「会社としてワークライフバランスも重視しており、残業時間の制限や、有給休暇の完全消化を積極的に進めています。育児休暇も、男女関係なく100%取得する方が多い印象ですね。人事施策の面においても、ソフトウェアエンジニアにとってとても働きやすい環境です」

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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2026年1月17日