2027年1月に延長サポートが終了する「Windows Server 2016」。MM総研の調査によると、依然として一定数の企業が使用している。仮想化環境の変化やインフラ選択の潮流も踏まえ、「Windows Server 2025」への移行をどう捉えるべきかを探る。
MicrosoftのサーバOS「Windows Server 2016」の延長サポートは2027年1月12日に終了する。幅広く利用されてきたサーバOSだが、その移行状況はどうなっているのか。最新版の「Windows Server 2025」への移行も進んでいると考えられるが、Windows Server 2016を採用している企業はどのような用途で利用し、移行先をどう考えているのか。2025年10〜12月にMM総研が実施した調査を基に、その実態に迫る。
本調査は、日本国内でWindows Server 2016を利用する法人を対象にWebアンケート形式で実施された。スクリーニング調査は4万サンプルを超え、本調査でも約1000サンプルとかなり大規模なものとなっている(記事下、調査概要を参照)。
最初に、どの程度Windows Server 2016が残っているかを見ておこう。オンプレミス(仮想化なし)で稼働するサーバのOSを聞くと、「Windows Server」シリーズが全体の9割弱を占め、そのうちWindows Server 2016が13.8%となった。仮想化サーバもWindows ServerのシェアはホストOSで75.3%、ゲストOSで78.5%と共に高く、そのうちWindows Server 2016はいずれも2割ほどを占める。
「この結果からも企業の業務用サーバは、Windows Serverが大きなシェアを持つことが分かります。一方で、台数ベースでも相当数のWindows Server 2016があり、まだまだ移行が進んでいないという印象です」。MM総研の中村成希氏はそう語る。同社は「Windows Server 2012」のサポート終了前にも同様の調査を実施したが、この傾向は大きく変わらないという。
原因の一つとして考えられるのが、そもそもサポート終了までに残された期間を正確に把握し切れていないことだ。延長サポート終了自体の認知度は8割を超えた。しかしサポート終了の日付を選択してもらう設問では、正確なサポート終了年月を把握していない層が7割に上った。「移行プロセスを考えると、早急に対応しなければならないタイミングに来ています」(中村氏)
当然だが、サーバの用途によって移行の難易度と必要な期間は変わる。Windows Server 2016の用途を聞くと、Webサーバ(54.2%)、ファイルサーバ(17.3%)、アプリケーションサーバ(11.3%)、データベースサーバ(5.4%)と続く。Webサーバに関しては、大規模に展開するケースも含まれている。
アプリケーションサーバやデータベースサーバも一定数ある点に注目したい。中村氏は「ファイルサーバなどは移行が比較的容易な領域ですが、アプリケーションサーバやデータベースサーバは移行の検討だけでも相当な時間がかかるはずです。回答者の中には、すでに移行プロジェクトを進めているケースも含まれていると思いますが、未着手の場合、まずは検討だけでも早々に着手することが重要です」と話す。
では、Windows Server 2016を移行するとして、その移行先はどうだろうか。オンプレミスのまま更改する、仮想化する、他で稼働している仮想化環境に統合する、そしてクラウドに移行する……とさまざまな選択肢がある。Windows Serverの移行というと、クラウドが大きな選択肢になるように思われるが、今回の調査では「クラウド移行」という回答は全体の5%程度(図1)であり、Windows Server 2012サポート終了時の調査と比べると減少傾向が見られる。
この結果について、「クラウドに移行してもメリットが得られないケースがあるという認識が広がるなど、以前に比べてクラウドを選ばない明確な理由を持つ企業が増えたのではないか」と中村氏は考察する。クラウドのメリットとしては、基盤の信頼性やアジリティー(俊敏性)、可用性などが挙げられるが、そうしたメリットが必ずしも最優先とはならないシステムやデータもある。
トータルコストで見た場合には、オンプレミスの方がコスト効率は良くなる場合がある。他にも機密性やガバナンスの観点から「インターネットに接続するわけにいかない」ケースもある。その結果、「クラウドを優先的に採用する」のではなく、クラウドにはないオンプレミスのメリットや特性を見直す向きもある。これを受けて、一定程度はオンプレミスに残るため、結果としてハイブリッドになるケースが広がっていると考えられる。
クラウドの普及とともにクラウドストレージの利用も増加していたが、画像や映像、AIの学習データなど企業が扱うデータが指数関数的に増加しており、最終的なコスト負担が高額になってしまうことがある。アーカイブ用の低コストストレージという選択肢もあるが、データを取り出す際に何日もかかるようでは「使えない」と判断せざるを得ない用途もある。これについて中村氏は「一定期間のデータはクラウドに保存し、その後はオンプレミスのストレージで長期保管するという使い方も見られます」と説く。データをどこに保管するかを真剣に検討するとなれば、ファイルサーバやデータベースはオンプレミス構築を有力候補にする、という判断があって不思議ではない。
オンプレミス用サーバやストレージ製品の中には、サブスクリプションサービスとして利用でき、クラウドライクにマシンリソースだけを運用可能なものも登場している。オンプレミスインフラでも運用管理の負荷を軽減できるならば、十分選択肢に挙がるだろう。企業が「やりたいこと」をオンプレミスインフラで実現できるという認識が広まってきたとも受け取れる。
この他、外資系のクラウドサービスは為替変動などの影響を受けるリスクがあると判断されるようになった可能性もある。それに対して買い切りのオンプレミスインフラは、購入後に価格変動の影響を受けることはない。このことから「リスクヘッジとしてオンプレミスインフラを選ぶという選択もあるでしょう」と中村氏は考察する。
今回の調査で、企業の重要なシステムが一定数オンプレミスで稼働していることも分かった。「日本国内で、自分たちでコントロール可能なITを一定数確保すべきではないかという議論がされています。その観点でもオンプレミスで稼働するサーバは重要な役割を担うと言えます」(中村氏)
仮想化環境に関する状況も触れておこう。仮想化の状況は、仮想化サーバのみ(32%)、非仮想化サーバのみ(30%)、ハイブリッド(38%)とほぼ三分される結果となった。利用するハイパーバイザーは、Microsoftの「Hyper-V」が38%とトップ、VMwareの「ESXi」が34%と続く(図2)。「Hyper-Vのシェアが伸びていることは、仮想化基盤でどのアプリケーションを稼働させるかを含め、全体的にインフラと運用の再検討が進んできた結果ではないかと考えています」(中村氏)
仮想化環境の利用状況はさまざまだが、VDI(仮想デスクトップインフラ)は前回調査の1.6%から今回は4.5%と、利用が増加している結果となった。コロナ禍での投資が影響していると考えられるが、今後は見直しが入る領域ではないか――というのがMM総研の意見だ。
「ライセンス体系の見直しを含めてVDIの維持が困難になるケースも背景にあり、VDIでは今後『Azure Virtual Desktop』などDaaS(Desktop as a Service)への移行や、FAT PCへの回帰が進む可能性があります。アプリケーションのSaaS化が進んでいることもあり、明確にVDIを利用しなければならない理由がない限り、優先度は高くならないと考えられます」(中村氏)
Windows Server 2016から移行するOSとして有力候補となるWindows Server 2025についての認識も見ていこう。MM総研の長尾太地氏は、「全体として大企業ほど各種機能への関心が高いという結果が見られましたが、多くの項目で3〜4割のユーザーが満遍なく興味を持っている、という印象です」と話す。
高い期待が寄せられている機能もある(図3)。まずは動的プロセッサ互換モード。これは、仮想化環境で世代の異なるCPUを持つホスト間での互換性や、パフォーマンスを高める機能だ。主に仮想環境を利用するユーザーに支持されている。次にセキュリティ関連の機能強化。特にシステムを停止せずにアップデートできるホットパッチの機能には大きなメリットが期待できるという。その他、企業規模間での差が比較的少なく、中小企業も含め関心が高いのが「SMB over QUIC」だ。これは、TCPではなく、QUIC(UDPをベースとしたトランスポート層プロトコル)を用いて、SMB(Server Message Block)によるファイル共有を実現する機能だ。
Windows Server 2025は総じてセキュリティが強化されている。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)の被害が続く中、どのようにバックアップを取得し、安全にサーバを運用するかは大きな課題となっている。一方で、「データを確実に守る・復旧できる対策を取れていますか」という設問に対し、「できている」と回答した企業はわずか3割程度。「まさに今、企業は『適切かつ迅速に復旧できる環境をどう整えるか』を検討している最中だと考えられます」(長尾氏)
Windows Server 2025は「Secured-core Server」という「OSより下のレイヤーも含めて保護する」というコンセプトに基づいて開発されており、ファームウェアやドライバまで含めてハードウェアとソフトウェアの両面でセキュアなプラットフォームとして提供される。ハードウェアレベルから保護しなければならない現在の脅威状況に対応したこのコンセプトはWindows Server 2019以降で採用されており、Windows Server 2016の設計時には想定されていなかったものだ。
延長サポートの終了に向けて移行準備をしなければならないところだが、Windows Server 2016を移行できていない理由としては、「人手不足」(45%)が大多数だ。延命サービスなどを使って先延ばしを検討する企業もあるかもしれないが、OSの移行は同時にセキュリティ対策を最新化することにもなり、後回しは避けたいところだ。
「サーバをどう活用するかを考えるのはユーザー企業自身ですが、OS更新によってセキュリティ対策も同時にアップデートするという点は意識したいポイントです。セキュリティ対策として、ゼロトラストなどにいくら投資しても、OSやサーバのハードウェアが古いままでは元も子もありません」(中村氏)
サーバ移行は、PCと比べればどうしても時間がかかるものだ。ランサムウェア対策やセキュリティ強化としても、サーバOSの移行が有効なのは間違いない。まずはパートナー企業に相談するなど、移行に向けて一日も早く足を踏み出すことが大切だ。
調査名:国内サーバー稼働実態の追跡調査
調査手法:Webアンケートによるユーザー調査
サンプリング対象:
1)日本国内企業の情報システム部門担当者
2)Windows Server 2016ユーザーは本調査対象
3)仮想化環境ユーザーは本調査対象
実施期間:2025年10〜12月
回収数:
スクリーニング調査/有効回答4万5172サンプル(総回答数8万1807サンプル)
・1〜24人企業:1万2191サンプル
・25〜249人企業:1万4591サンプル
・250〜499人企業:4585サンプル
・500人以上企業:1万3805サンプル
本調査/有効回答967サンプル(総回答数1006サンプル)
・1〜24人企業:106サンプル
・25〜249人企業:295サンプル
・250〜499人企業:149サンプル
・500人以上企業:417サンプル
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