AI時代に問い直す「HDDの優位性」 既存ストレージの限界をどう突破する?ペタバイト級データ基盤を支える高密度JBODの可能性

DXに伴うデータ激増から、従来型ストレージの拡張限界やクラウドのコスト高騰が課題視されている。アクセス遅延の影響が少ない「ウォームデータ」の領域で高密度JBODが注目を集める中、HDDから筐体まで一貫開発する垂直統合型モデルがもたらすTCO削減と長期安定運用の有効性を探る。

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» 2026年06月26日 10時00分 公開
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 ビジネスにおけるデジタル化の進展に伴い、企業が取り扱うデータ量は爆発的に増加している。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの技術が積極的に導入され、企業はこれまでになく膨大な量のデータを蓄積して、長期にわたって管理しなければならない状況に直面している。

 先進技術の導入が進む産業分野では、データの生成スピードと蓄積量がITインフラの想定を超えて加速している。過去のデータを資産として長期間保存したいというニーズも根強い。センサーデータやシステムログ自体の単位容量は小さくても、管理対象となるシステムの増加や保存期間の長期化に伴い、総データ量は指数関数的に膨れ上がる。

 アプライアンス(専用筐体〈きょうたい〉)やパブリッククラウドインフラだけで全てを運用するには、限界が見え始めている。データ基盤を最適化するヒントについて、IT機器を中心に多分野の製品を扱う総合商社テックウインドの田中将太氏に話を聞いた。

アプライアンスの拡張限界と、クラウドの転送量というジレンマ

田中氏 田中将太氏(テックウインド 営業本部 PM統括部 PM2部 プロダクトマネージャー)

 大容量データの保存・管理における課題について、田中氏は「以前は部門ごとのNAS(Network Attached Storage)増設や、クラウドインフラへのデータレイク構築で対処できましたが、既存の拡張手法ではカバーし切れないケースも目立つようになりました」と語る。

 既存手法が通用しない理由の一つは、容量限界とコストのトレードオフだ。専用OSを搭載したアプライアンス型ストレージは、高性能な半面、初期導入コストが高額になりがちで、ペタバイト(PB)級に拡張するのも容易ではない。

 アプライアンス製品の限界を避けてパブリッククラウドへ移行した企業でも、別のコスト課題が表面化している。データ量がPB級に達すると月々の保管課金が肥大化するだけでなく、データの分析やバックアップに伴うデータ転送コスト(エグレスコスト)が想定以上に増大する。このコスト管理の難しさから、オンプレミス回帰の動きも出始めている。

 「IT予算は企業の競争力強化に集中するのが望ましいものの、その前提となるデータ保存に想定以上のコストや場所を使うのは本末転倒です。ビジネスの迅速性を保つためにも、データ管理のコスト構造そのものを根本から見直し、ストレージ基盤を刷新することは急務です」(田中氏)

コスト抑制と堅牢性を両立させ、ベンダーロックインを回避する4つのポイント

 ストレージ基盤を刷新する際にクリアすべき要件は多岐にわたる。田中氏は、検討時に注目すべき要件を4つに分類する。

 1つ目は保存容量の拡張性と管理コストの抑制だ。PBクラスまで柔軟に拡張できるキャパシティーを確保しつつ、データ量に比例して運用管理コストが膨らまない仕組みを整える必要がある。

 「既存のNASがPB級まで拡張できない場合は、既存インフラと柔軟に組み合わせられる大容量のストレージプールを導入するのが効果的です。段階的にスケールアップできるアーキテクチャならば初期投資を最小限に抑えられます。パブリッククラウドのエグレスコストを抑えたいならば、特定のワークロードをオンプレミスインフラに移管してハイブリッド構成にすることも現実的な選択肢です」(田中氏)

 2つ目は耐久性と信頼性の確保だ。管理コストを削減できても、ハードウェア障害によってデータが消失したり、システムの信頼性が低下したりしては意味がない。ストレージ基盤にはエンタープライズシステムとしての堅牢(けんろう)性が不可欠だ。

 「世界的な部材不足の影響によって、SSD、HDD、CPU、電源などの調達が難しくなっています。故障時にパーツを交換できないリスクを考慮すると、ディスクレベルで高い耐久性を備えている製品を選定することは重要です。製品や保守部品が中長期的に安定供給されるかどうかも、導入後のライフサイクル維持の観点から見逃せない要素と言えます」(田中氏)

 3つ目はセキュリティ対策だ。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)をはじめとするサイバー攻撃は高度化を極めており、ネットワークへの侵入を水際で完全に遮断するのは困難になりつつある。境界防御を突破された場合でも、ストレージ側でデータの暗号化や破壊、窃取を防ぐ仕組みを講じる必要がある。

 「NASに大容量ストレージを組み合わせてイミュータブル(変更・削除不可)な複数世代のバックアップを取得するだけでも、復旧確率は向上します。ドライブレベルでの暗号化機能など、ハードウェアやファームウェアのレイヤーで実装されているセキュリティ機能を活用して、データが窃取された場合でも悪用を不可能にする二重の防御策を敷くことがポイントです」(田中氏)

 4つ目はベンダーロックイン回避だ。ストレージはサーバやバックアップソフトウェアと組み合わせて運用される。しかしベンダー独自の仕様で密結合されているシステムは、他社製品と組み合わせた際に機能やパフォーマンスの制限に直面する場合がある。この問題を回避するには、特定のメーカーに依存しないオープンなシステム互換性の確保が必要だ。こうした事情から、必要に応じて必要なリソースを個別に拡張できる分離型(ディスアグリゲーテッド)インフラが注目を集めている。

藤沢で設計されるHDD 柔軟な構成が可能な「Ultrastar Dataシリーズ」

 前述した4つの要件を満たす選択肢として、田中氏が提案するのがウエスタンデジタル(WD)の「Ultrastar Dataシリーズ」だ。大手HDDメーカーとして知られる同社は、エンタープライズ領域やデータセンター領域でも豊富な実績を持つ。Ultrastar Dataシリーズは、多数のHDDを束ねてコスト効率に優れた大容量ストレージを構成する、高密度なJBOD(Just a Bunch of Disks)だ。

全体像ディスク差し込み 図1 Ultrastar Data 60《クリックで拡大》

 「WDのデータセンター向けHDDのグローバル開発拠点は神奈川県藤沢市にあります。日立製作所がIBMのHDD事業を買収して設立された日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)で培われた厳しい品質管理体制を受け継いでいます」と田中氏は説明する。本製品は、心臓部であるHDDから筐体まで一貫して開発・製造する「垂直統合型」モデルだ。ドライブの特性を最大限に引き出した高耐久性と相互互換性を備え、オープンソースのソフトウェア定義ストレージ(SDS)などと組み合わせることで、シンプルな大容量ストレージプールを安価に構築できる。

 NAND型フラッシュメモリの普及を受けて、データセンター向けストレージ製品はSSDが主流と思われがちだ。しかしPB級のデータを長期間永続的に保持するITインフラとして、大容量HDDの優位性は揺らがない。リアルタイムな処理能力が求められる「ホットデータ」にはSSDが適しているが、アクセス遅延がビジネスに与える影響が比較的小さい「ウォームデータ」やアーカイブの領域であれば、コスト効率に優れたJBODは有力な選択肢になる。「ハイパースケーラーのデータセンターに保存されているデータの約8割はHDDが占めるといわれています」と田中氏が語る通り、全てをフラッシュストレージに置き換えない最大の理由は総所有コスト(TCO)の差だ。テラバイト(TB)当たりの単価で、フラッシュストレージとHDDの価格差は20倍以上に及ぶ。

 Ultrastar Dataシリーズは国内外の大手データセンターやクラウドサービス事業者に広く採用されており、用途は10PB級のファイルサーバ、オブジェクトストレージ基盤、大容量バックアップシステムなど多岐にわたる。各拠点に分散したサーバの統合や、高精細な画像データを安全に保存するアーカイブシステムとしてのユースケースなど、豊富な導入実績がある。

「止めない運用」を支える物理設計と、ライフサイクルを最適化する支援体制

 Ultrastar Dataシリーズは、4U筐体に最大60台のドライブを搭載する「Ultrastar Data60」(最大1.80PB)と、102台を搭載する「Ultrastar Data102」(最大3.06PB)の2モデルで展開される。30TBまでの大容量SMR(シングル〈瓦〉磁気記録方式)に対応し、データセンターの設置スペースや消費電力を大幅に削減できる。5年間の長期無償保証が付帯する点も特徴の一つだ。田中氏は「故障率自体も低く、導入後の現場の作業負荷を抑えられる設計です」と語る。運用性を高めるために、ラックマウントしたまま筐体を引き出すだけで上部からドライブへアクセスできる機構を採用しており、工具を使用してトップカバーを外す必要がない。ケーブルマネジメントアームを標準装備しており、Mini-SASケーブルを挿抜することなく、システムをオンラインに保ったまま安全にホットスワップ(パーツ交換)できる。

 密集配置による熱と振動には、WDの特許技術が真価を発揮する。隣接するHDDの共振を物理的に遮断して、振動を60%低減する「IsoVibe」や、筐体中央から効果的に吸排気して空冷性能を高める「ArcticFlow」などを搭載。これらの技術は、5年間で1台当たり約1500ドルの省エネ効果と年間平均故障率(AFR)の13%向上を達成し、前世代のJBODと比較してHDDの故障返却率を62%削減するという。セキュリティ面では、サプライチェーンのリスクを排除した製造工程に加えて、自己暗号化ドライブ(SED)機能を使った二重のデータ保護を実装。システム互換性も広く、主要なサーバベンダー製品との接続実績がある。オープンソースの分散ストレージソフトウェア「Ceph」やWindows Serverなどを併用したストレージシステムの構築が可能だ。

※特許技術の成果に関する数値はいずれも同社調べ

 テックウインドはIT専門商社としての調達力を生かして、Ultrastar Dataシリーズとサーバ、ネットワークスイッチ、ラック、ケーブルなどを最適に組み合わせたシステム提案を支援する。障害発生時の切り分け対応を含めたサポート体制はもちろんのこと、データセンター外に機密情報(HDD)を持ち出せないセキュリティ要件に配慮した「不具合ドライブの返却を不要にする保守メニュー」も用意する。

 田中氏は「大容量データの保存コストが経営課題となるAI時代に、垂直統合によるTCOメリットをもたらす本シリーズは、データシステムの強固な土台となります。インフラの最適化に向けて、ぜひご相談ください」と結んだ。

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