サイバー攻撃による操業停止や情報漏えいが相次いでいる。攻撃者は脆弱性を突いて「侵入」するだけでなく、盗んだ認証情報で正規ログインを装って不正アクセスするケースも後を絶たない。AIエージェントを含むマシンIDの急増で、守るべきアイデンティティは膨れ上がっている。ビジネスを止めないために、人、マシン、AIのIDをどう守るべきか。
自律的に動くAIエージェントの普及に伴い、サイバー攻撃のスピードと手法は急速に変化している。従来は人の手で数日から数週間を要した攻撃が、AI技術によってわずか25分程度で実行される事例もある。こうした脅威の高度化と高速化に対して、従来の境界防御は限界を迎えつつある。
こうした状況で重要になるのが「アイデンティティ・セキュリティ」だ。正規の認証情報を悪用して侵入し、情報の奪取・破壊を試みる攻撃者をいかに検知し、どう防御すべきか。Palo Alto NetworksのIdira事業部でアイデンティティ・セキュリティ領域をリードする染谷浩子氏、斎藤俊介氏、佐野龍也氏に、次世代の特権アクセス管理(PAM)の在り方について話を聞いた。
サイバーセキュリティの現場では、国際的ハッカー集団Qilinも表明しているように、AI技術を利用した攻撃の高速化が新たな脅威となっている。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)の被害やサプライチェーンを通じた操業停止など、セキュリティインシデントは事業全体へ深刻な影響を及ぼすようになっており、ビジネスリスクとしての影響度が高まっている。
防御側が直面する構造的な変化について、染谷氏は次のように指摘する。
「攻撃の進化が著しくとも、ゼロトラストアーキテクチャの原則に基づき、全てのアクセスを検証・制御する必要性は変わりません。大きな変化は、攻撃者がシステムの脆弱(ぜいじゃく)性を突いて外部から侵入するのではなく、窃取した正規の認証情報を用いてログインしてくる点です。一見すると正常なアクセスに潜む異常を見抜き、かつ適切にその行動を制御できなければ、防御は困難です」
Palo Alto Networksのインシデント対応部隊「Unit 42」が支援した年間1000件以上のインシデント対応事案では、約9割でアイデンティティが標的にされている。攻撃の対象領域(アタックサーフェス)は、ネットワークからアイデンティティへ移行している。
さらに深刻なのが、マシンアイデンティティ(Non-Humanアイデンティティとも言われる)の爆発的増加だ。Palo Alto Networksの調査レポート「2026年アイデンティティ・セキュリティ情勢」によると、APIやサーバ、IoT機器などに割り当てられたマシンアイデンティティの数は人間の109倍に達しており、人間ユーザーの96%が必要以上のアクセス権を保有している。AIエージェントの普及によりこの攻撃対象領域はますます広がり、権限管理の甘さはつけ込まれる隙となる。
特権IDを取り巻く環境の変化について、斎藤氏は「以前は特定のアカウントのみが特権を持っていましたが、現在は全てのアイデンティティが何らかの特権を持つようになっています」と指摘し、こう続ける。「マシンアイデンティティの動的な増減や、変更のスピードの速さに対して、手動でのポリシー適用は現実的ではありません。さらに自律型のAIエージェントは、正規のアクセス権を得た後、マシンの処理速度と人間に近い判断能力を併せ持った状態で稼働します。この速度と複雑性に、いかにセキュリティの原則を適用するかが課題です」
染谷氏はAIエージェントの特性について、こう解説する。「AIエージェントの管理は、その用途や特性に応じた手法を選ぶ必要があります。人間用・マシン用の既存セキュリティ対策をそのまま適用するだけでは不十分なのです。『人間とマシンの中間に位置するもの』と考えるのがいいでしょう」
例えば社内システムの操作を代行するAIエージェントと、クラウドインフラに自律的に接続するエージェントでは、要求される認証情報(証明書やトークンなど)やアクセス技術が異なる。これらを領域ごとの個別ツールで管理しようとすれば、セキュリティポリシーが分断されて設定作業が煩雑化し、脅威の検知と対応に遅れが生じる原因となる。つまり、ポイントソリューションでの運用管理は構造的に限界があるのだ。
こうした課題の解決策として、Palo Alto Networksが2026年5月に発表したのが、アイデンティティ・セキュリティプラットフォーム「Palo Alto Networks Idira(アイディラ)」(以下、Idira)だ。同社は2026年2月にCyberArk Softwareの買収を完了し、アイデンティティ・セキュリティをプラットフォーム戦略の柱に据えた。PAMで知られるCyberArkの製品群はIdiraとしてリブランディングされ、人、マシン、AIエージェントのアイデンティティ保護をPalo Alto Networksが一手に担う。
佐野氏によればIdiraは、認証・認可を担うIAM(アイデンティティおよびアクセス管理)やPAM、権限ライフサイクルを管理するIGA(アイデンティティ・ガバナンス)、端末のローカル特権を制御するEPM(エンドポイント特権管理)など、アイデンティティ・セキュリティを支える複数の機能を単一プラットフォームで提供する。
CyberArkの名前で知られたIdiraのPAMはプラットフォームの中核だ。重要な認証情報を厳格な保管庫(Vault)に隔離・一元管理する「Vaulting」技術や、ユーザーがパスワードを知ることなく安全に接続できるセッション管理、および監視の機能を備えている。このアーキテクチャで、特権パスワードを隠蔽し、重要システムへのアクセス権限の奪取や情報の漏えいを防ぐ。
その上で佐野氏は、これら複数の機能を単一のプラットフォームで一元管理できる点がIdiraの特徴だ、と強調する。運用を効率化しながら、1つのポリシーで全体を守る安全性も確保できるわけだ。
「課題ごとに適したポイントソリューションを個別に導入すると、運用のサイロ化を招き、監視の抜け漏れを回避することは難しいものです。ポリシーが分断された結果、脅威に迅速に対処できなくなるリスクもあります。統一された1つのポリシーで全体を制御し、一元管理されたアクセスログを含むデータと、単一のコンソールで運用できるIdiraならば、動的なアクセス権限の適用や、インシデント発生時の対処プロセス全体の自動化(オーケストレーション)が可能になります」
Idiraの価値はアイデンティティ管理にとどまらない。業務委託先や子会社などのアクセス権限を起点に本社の特権IDが侵される「サプライチェーンリスク」はますます深刻化している。ネットワーク、エンドポイント、クラウドインフラ、アイデンティティなど広範な領域に、統一されたアクセス制御とガバナンスを適用する場合は、Palo Alto Networksの各製品との連携が効果を発揮する。染谷氏はその一例として、分析プラットフォームとの連携における技術的メリットを次のように説明する。
「Idiraが収集・管理するアイデンティティ情報やアクセスイベントのログを、エンドポイントセキュリティ製品『Cortex XDR』や統合セキュリティ運用基盤『Cortex XSIAM』に連携させると、単一のログでは検知が困難な『正規の認証情報を悪用した不審な振る舞い』の早期検出につながります。さらに、異常を検知した際にアクセスの自動遮断や権限の動的剥奪といった防御措置(レメディエーション)を即座に実行する仕組みは、フロンティアAIによる高速な攻撃への有効な対抗措置となります」
佐野氏は、単一プラットフォームのアーキテクチャの優位性を強調する。
「ネットワークセキュリティ製品『Strata』、現代のSOCのための自律型プラットフォーム『Cortex』などとIdiraを連携させることで、組織全体のセキュリティポスチャー(セキュリティの姿勢、状態)を向上させることができます。ネットワーク、エンドポイント、クラウドインフラ、アイデンティティなどを統合されたインタフェースで可視化して保護できるという点では、弊社製品群の強みは明確だと自負しています」
斎藤氏も、保護対象が人間からマシンやAIエージェントに広がっても、アクセス制御の原理原則は変わらないと指摘する。
「対象が何であれ、全てのアイデンティティに適切な最小権限とアクセス制御を適用することが基本です。アクセスの主体ごとに適した制御手法を用いながら共通の制御原理を維持することで、将来的に新たなAIエージェントが導入された場合でも、既存の運用枠組みを損なうことなく柔軟に対処できます」
アイデンティティを守ること自体が目的ではない。その先にあるのは、ビジネスを止めないことだ。染谷氏は、アイデンティティ・セキュリティでの基本対策の徹底こそが、結果として強力な防御になると結論付ける。
「アイデンティティ管理はセキュリティの基本でありながら、多くの組織では一部のアカウントや特権しか保護できていないのが実態です。人間、マシン、AIエージェントに至る全てのアイデンティティに、基本となる制御を抜け漏れなく適用することが求められます。Idiraは網羅的なアイデンティティ管理基盤の確立に役立つ製品であり、弊社は安全なAI活用とビジネスの継続性を支えるパートナーであり続けます」
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2026年11月28日