海の上のJava Night:安藤幸央のランダウン(14)
「Java FAQ(What's New)」の安藤幸央氏が、CoolなプログラミングのためのノウハウやTIPS、筆者の経験などを「Rundown」(駆け足の要点説明)でお届けします。(編集局)
JavaOne開催
9月25日から27日にかけての3日間、パシフィコ横浜にて、Java開発者向けのカンファレンス「JavaOne」が開催されました。今年は特に充実した数多くのBOF(Bird Of aFeather)セッションと、日本ならではのJava携帯電話や、PDAの勢いが感じられたカンファレンスでした。
JavaOneの2日目26日の夜、JavaOne Japan恒例となったデモイベントNight forJava Technology(通称Java Night)が開催されました。厳しい審査を勝ち抜いた合計15チームのエントリを迎え、数々の趣向を凝らした発表が行われました。各発表とも、たった5分という短い時間の中、タイムクロックのカウントダウンとともにスピード感あふれるゴングショー形式の発表が行われました。
船上での発表
今回のJava Nightは横浜ぷかり桟橋に接岸した、横浜港をクルーズする客船「マーリンシャトル」の船上で行われました。当初イベント開催場所は直前まで関係者以外には極秘になっていました。JavaOne参加者の間には、さまざまな憶測やうわさが飛び交っていました。果たして参加者たちの予想を裏切ったのか、予想どおりだったのかは分かりませんが、船の定員ぎりぎりの450名にも及ぶ参加者を迎えることができました。Javaプログラマにとってはおなじみ、独特の風貌のJames Gosling氏ほか、John Gage氏、Rob Gingel氏ら大御所をはじめ、Apple社、Borland社など海外からの参加者も多く、Java Nightならではの雰囲気に包まれていました。
ユニークな作品たち
Java Nightの発表の本当の楽しさは、その場に居た人しか分からないかもしれません。それくらいエキサイティングで、トラブルさえも発表をスリリングにするスパイスとなったのです。それでは発表作品を紹介しましょう。
(1)JavaBike
Java自転車。ペダルを踏んで得る動力で発電しながら、ネットワーク化された自転車アプリケーションがJavaで動作する。とびっきりのパロディ作品。
(2)携帯電話用ゲームボーイエミュレータ
504iで動作するゲームボーイエミュレータ。携帯電話の画面でマリオがゆっくりと飛び跳ねていました。
(3)EmotionChat
チャット相手の感情が図形や色で視覚的に分かるチャットソフト。
(4)ROBOCUBE
キューブ型モジュールの組み合わせによるロボット。パソコンからJavaで制御する。ロボット組み替えの様子がF1のピットのようで緊迫した様子が見て取れた。
(5)XMLProgrammingShell
Javaプログラムをシェル上で実行できるインタプリタ環境。コマンドの履歴それ自身がXMLファイルになっており、さまざまに活用できる。
(6)ColorFL
描画制御を行う、色描画パターン記述言語。プログラミング言語それ自身がカラフルなパターンとなっている。
(7)MonChat
言葉遣いが自動的に補足・補完される、キャラクタコミュニケーションツール。
(8)jFD
Swingを使っているけれども、最も地味なGUIツール。DOS時代のFDというファイルブラウザ風のツール。
(9)DRAGRI
アプレットによる、ムービー再生ツール。ムービーをマウスでつかんで動かせる。まさにドラッグしてグリっと動かす。発表の場で、Goslingのムービーを作成し、会場を沸かせる。
(10)Ivory
Webサービス、SOAPに対応したメール・サーバ。
(11)Shout3DinJapan
プラグイン不要のWeb3D環境。週刊ヤングジャンプのオンラインビジュアルマガジンのデモなど。
(12)VLANConfig
ドローイングフレームワーク「EnvisionEngine」を用いたネットワーク設計ツール。
(13)TheTaskSchedulingClass
JavaRMIによるタスクスケジューリング自動化クラス。PC数台の分散計算の様子が分かる。
(14)TaQQ(Ping‐Pong)
卓球ゲーム。タッチパネルを想定しており、ファミリーレストランのガストでサービスが提供されている。
(15)Theartificialintelligencetoolwhichassistshumaninvariousscenes
人工知能システム構築ツールを使ったデモ。画像の特徴を抽出し、画像検索が行える。
Java Nightには特別な順位付けはありません。発表者みんながグランプリなのです。ただ、うれしいことに豪華な賞品を提供してくださったスポンサーがありました。発表の最後に各賞の、授賞式が行われました。各賞はスポンサー選出の審査員が気に入った作品を話し合いのうえ決定し、授与しました。もちろん受賞から漏れたものの中にも拍手喝さいを浴びた素晴らしいものは数多くありました。
最後に一言Gosling氏のコメントがありました。昨年に比べ、さらに素晴らしいオーガナイズをしてくれたスタッフに感謝の言葉があり、さらにこのJava作品の発表を「料理の鉄人」のようなテレビ番組にしてほしいものだと、言葉少ないながらも満足げなコメントでした。
当初は突拍子もない無謀な計画とも思われた海の上のJava Nightも不思議と実現してしまいました。もしかしたら、「Javaバトル」のようなテレビ番組が放映されるのも夢物語ではないかもしれません。
次回に向けて
今回のJava Nightは数々の幸運が重なったイベントでした。船の上という移動する特殊な会場、ちょっとした天候の変化で簡単に左右されてしまう船の運航経路、定員が決まっているために、もしかしたら乗り切れないかもしれない参加者。許容量ギリギリの船の電源容量。失敗する要素は数多くあったのに、完璧とはいえないまでも、すべては良い方向に推移しました。
休日返上で日々深夜まで準備に奔走した日本サン・マイクロシステムズの方々、手慣れた仕切りで、多くの参加者をスムーズに導いたイベント会社の方々、一声掛ければ、何の見返りも求めず快く集まるボランティアスタッフたちの尽力、仕事の枠を超えて駆けずり回ってくれた映像機材スタッフ、陰でイベントを支えてくれたVJ、DJ、カメラマンの方々。企業のしがらみを超えてサポートしてくれたスポンサー企業、発表当日まで、たった5分の時間をいかに有効に使うか頭を悩ませ続けた15組の発表者たち。一番遠くは、なんと九州からの参加でした。そして、惜しみない拍手を贈ってくれた、船いっぱいの参加者たち。誰一人欠けても、きっとこのようなイベントは実現できなかったことでしょう。
今日のJavaの勢いは、なにも企業が推進しているからだけではありません。開発者たちが、使い、考え、ツールを作り、アプリケーションを作る。Javaを使っていままでにない新しいシステムやサービスを構築する。そしてJavaで作られたものを利用し、活用する数多くの人たちがいるのです。そのような素晴らしい循環する構造があるからこそ、これだけ多くの人々に支えられ、ここまで広がったのでしょう。
Java Nightの会場ではJavaのマスコットDukeを模した「Dukeおにぎり」が数量限定で配られました。海外からの参加者に大変好評で、黒い海苔の帽子と、真っ赤な梅干しの鼻がついたおにぎりです。
Javaの持つ遊び心と、プログラミングによって形作られるアプリケーション。素晴らしいJavaによる作品たち。次回のJava Nightでどんな素晴らしいJavaプロダクトにめぐり会えるのか、いまから期待が膨らみます。
次回は11月25日の公開予定です。
プロフィール
安藤幸央(あんどう ゆきお)
1970年北海道生まれ。現在、株式会社エヌ・ケー・エクサ マルチメディアソリューションセンター所属。フォトリアリスティック3次元コンピュータグラフィックス、リアルタイムグラフィックスやネットワークを利用した各種開発業務に携わる。コンピュータ自動彩色システムや3次元イメージ検索システム大規模データ可視化システム、リアルタイムCG投影システム、建築業界、エンターテインメント向け3次元 CG ソフトの開発、インターネットベースのコンピュータグラフィックスシステムなどを手掛ける。また、Java、Web3D、OpenGL、3DCG の情報源となるWebページをまとめている。
ホームページ:
http://www.gimlay.org/~andoh/java/
所属団体:
OpenGL_Japan (Member)、SIGGRAPH TOKYO (Vice Chairman)
主な著書
「VRML 60分ガイド」(監訳、ソフトバンク)
「これがJava だ! インターネットの新たな主役」(共著、日本経済新聞社)
「The Java3D API仕様」(監修、アスキー)
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