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スモールスタートから始めるSAN導入SAN導入実践テクニック(1)

ディスクの大容量化にともない、ストレージのための専用のネットワーク「ネットワーク・ストレージ」に注目が集まっています。そのなかで、主流となりつつある「SAN(Storage Area Network)」の導入前に知っておきたい実践テクニックを紹介していきます。(編集局)

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 今回から数回にわたって「SAN導入実践テクニック」と題して、SANの検討から導入、拡張に至るまでを実際の手順に沿って解説する。「SANは難しくて面倒だ」と考えている読者が多いと思うが、実際にはSANの導入は難しいものではない。

 ファイバチャネルやストレージに関する基本的な考え方を身に付ければ、導入それ自体は案外簡単に行うことができる。今回からの連載を通して、ぜひその点を理解していただきたい。

 まず今回は、SANの基本的な概念を説明する。考え方を理解したうえで実践的な技術を知れば、SANをより深く理解できるからだ。SANの根源にかかわる内容なので、ぜひお付き合いいただきたい。

●「インフラありき」ではない

 SANとは「ストレージ(Storage)・エリア(Area)・ネットワーク(Network)」の略である。「何をいまさら」と思われるかもしれないが、ここで「ネットワーク」という言葉に注目したい。

 SANの発展を3段階でとらえてみる。現在SANを導入するユーザーは多くなってきてはいるが、その多くは実際には「ネットワーク」という意識でSANを導入していない。サーバとストレージ装置を接続する単なる「接続点」として、ファイバチャネルスイッチを利用しているケースが多い。

 中にはスイッチが導入されていたことに気が付いていないユーザーさえいる。しかし、SANをネットワークとして意識すると、後述するSANの多くのメリットを享受することができる。これからSANがネットワークとして認知されていくために、まずスイッチなどの機器がもっと市場に認知される必要がある。

 ただ一方で、本質的にSANはインフラである。インターネットに代表されるTCP/IPのネットワークにおいてルータやスイッチが当たり前に接続されているように、最終的にはファイバチャネルスイッチも水道水のごとく意識されない存在になっていくだろう。

 SANはあくまでも手段であって、SANの導入自体が目的になるわけではない。SANを導入することによるメリットは数多いが、重要なのは「何がしたいか」を考えておくことだ。その要求を満たす手段として、SANは非常に有効な道具となり得るのである。

SANの
発展
ステップ
SANの規模 FCスイッチの役割(存在の意味) FCスイッチに対する
ユーザーの意識
登場 小規模 ポートを拡張する接続点 無意識
普及 中規模 ストレージ・エリアネットワーク
の中心的存在
意識
浸透 大規模 ネットワーク構築に不可欠
(空気のような当たり前の存在)
無意識
図1 SANの発展とファイバチャネルスイッチ(FCスイッチ)の役割

●SANを導入したいと考える理由

 ビジネスにおいて、あるいはより広くとらえて日常生活において、生成・活用される情報の量は増大の一途をたどっている。これは景気の動向うんぬんとは関係なく、人類の発展とともに進化してきたものだ。そして現在、私たちが生成・所有する多くの情報は「デジタル」という、0と1の信号形態で格納されている。

 このデジタル信号の登場によって、私たちが使用できる情報の量は圧倒的に増大した。そしてその重要性も同様に増大してきている。私たちにとってデジタルデータの効率的な格納、使用、そして保存は、企業活動や個人の生活に不可欠なものとなっているのである。

 つまり、この「デジタルデータの効率的な格納、使用、そして保存」がSAN導入への要求につながっている。例えば、以下のような例である。

  • いろいろなストレージ装置を効率的に利用して、情報を格納したい(格納
  • ストレージに格納されている情報を容易に入手、利用できるようにしたい(使用
  • 情報の保存(バックアップ)と再生(リストア)をより確実にかつ迅速に実施したい(保存

 このような要求を、いままでのDAS(Direct Attached Storage:直接接続)環境は十分に満たすことができなかった。サーバとストレージの接続に柔軟性がないため、増え続けるデータの保存と利用に対応し切れなかったのである。

●SANが注目される理由

 上に述べたような要求を満たすことのできるものがSANである。SANは上記の要求をストレージのネットワーク化によって実現する技術である。SANではより高速、効率的なデータ伝送を実現するために「ファイバチャネル」技術を使用する。ストレージのネットワーク化とファイバチャネル技術により、下記のようなソリューションが実現する。

  • ストレージ(ここでは「情報」と同義)をサーバから独立化し、一元管理する「ストレージ統合
  • ストレージをサーバから独立化させることにより、サーバを集約する「サーバ統合
  • バックアップ時間の短縮化、効率化を実現する「LANフリーバックアップ
  • サーバ、ストレージを柔軟に組み合わせてシステムの信頼性を向上させる「マルチノード・クラスタリング
  • LAN/WAN技術と組み合わせてより長距離へのストレージアクセスを実現し、災害などに対応する「ディザスタ・リカバリ

 情報に対する多くの要求がSANというインフラを生み出し、SANのインフラによって数多くのソリューションが実現できるのである。

図2 SANによってもたらされるソリューション
図2 SANによってもたらされるソリューション

●NASではいけないのか?

 SANはストレージをネットワーク化する技術だと述べたが、同様の技術としてNAS(Network Attached Storage)がある。よく尋ねられる質問に、「SANとNASはどちらがいいのか?」というものがあるのだが、そのような質問を受けた際には、以下のように答えている。

 「『SANかNASか』ではありません。SANとNASは別に対立するものではないのです。必要に応じて使い分けることもできますし、組み合わせて使うことも可能なのです」

 この意味を説明してみたい。

 まず、SANとNASの違いを比較してみよう。

SAN(Storage Area Network) NAS(Network Attached Storage)
使用
プロトコル
ファイバチャネル TCP/IPおよびEthernet
ファイル
システム
NTFS、FAT(Windows)ufs、hfsなど(UNIX)
※OSのファイルシステム
CIFS(Windows)
NFS(UNIX)
※専用のファイルシステム
特徴 ・ デバイスレベルのデータ共有
(異なるOS間はデバイス分割)
・ 高速アクセス
・ 長距離通信(〜10km)
・ 柔軟な拡張性
・ ファイルレベルのデータ共有
(異なるOS間のファイル共有可能)
・ IP/Ethernetのオーバーヘッドあり
・ 長距離通信(無制限)
・ 既存TCP/IPネットワーク使用可能
用途 ・ ストレージ統合
・ LANフリーバックアップ
・ マルチノードクラスタリング
・ファイルサーバ
図3 SANとNASの比較

 NASは基本的に「ファイルサーバアプライアンス」と考えてよい。NASサーバを導入することによって、簡単にファイルサーバを構築できる。また、NASのメリットとして、NFSやCIFSといったファイルシステムを自身が持っていることが挙げられる。

 これらのファイルシステムを利用することによって、UNIXやWindowsといった異なるプラットフォーム間のホスト同士でも、ファイルレベルで情報を共有することが可能になる。

 一方、NASはファイルレベルの情報共有のためであるから、データベースアクセスなどといったブロックデータの転送、すなわちSCSIレベルのデータ転送には向いていない。またTCP/IP、Ethernetによる通信なので、通信におけるオーバーヘッドが大きく、データの伝送効率が悪い。

 従って、NASはファイルサーバ用途としては非常に有効であるといえる。一方、NASサーバはたいてい大容量のストレージを有してはいるが、やはり1つの筐体内に格納できるデータ容量には限界がある。その場合は、NASをSANにつなぎ、SAN上のストレージ装置にデータを格納すればよい。

図3 SANとNASの融合
図3 SANとNASの融合

 つまり、NASサーバを「SANへの入り口」として使えばよいのである。これが先ほど説明した「SANとNASを組み合わせて使う」ということである。

● SANに適したアプリケーションとは

 先ほどから繰り返してきたとおり、SANはしょせんインフラにすぎない。上で述べたとおりインフラは手段であり、その目的は「業務で、あるいは生活で何をしたいか」ということである。それを具体的に実現するものはやはりアプリケーションである。ここでは、SANに適したアプリケーションを幾つか説明しよう。

・ ストリーミングシステム/映像格納サーバ

 映像データのファイルサイズは現在でも非常に大きいが、そのサイズは映像の配信帯域に比例するため、インターネットアクセスが急速にブロードバンド化しつつある今日では、ファイルのサイズはさらに増大することになるだろう。

 それらを大量に格納するようなシステムであれば、ストレージの拡張性は必須の要件であり、SANの出番となる。SANの柔軟な拡張性というメリットを生かし、膨大なデータに効果的にアクセスすることができる。また、映像の視聴には広い帯域が必要となり、従来型のSCSI接続ではパフォーマンスにも限界がある。これをファイバチャネルSANに置き換えることによって、パフォーマンスの向上も期待できる。

図4 ストリーミングサーバとSAN
図4 ストリーミングサーバとSAN

・ データベースシステム

 データベースシステムでは、大量のデータを効率的かつ高速にアクセスする必要がある。このようなデータベースシステムを実現するうえで、SANのインフラは必要不可欠といえるだろう。また、データベースシステムは多くの基幹システムの基盤になっている場合が多い。

 このようなデータベースシステムには高い信頼性が求められるため、マルチノード・クラスタやパス冗長化の機能を提供できるSANは、データベースシステムの信頼性向上にも大いに役立つ。さらに複数サーバからの同時アクセスを可能とするファイルシステムをマルチノード・クラスタリングシステムと組み合わせれば、検索能力の向上も実現することが可能だ。

・ WWWサーバ/WWWアプリケーションサーバ

 WWWサーバやWWWアプリケーションサーバには現在、大量のコンテンツデータが格納されている。多数のサーバが存在して、頻繁にコンテンツ更新がある場合などは、データ更新に掛かる負荷は相当大きなものになる。

 SAN上のストレージを用いれば、このようなデータを一元的に管理することが可能である。ここで1つポイントになるのは、複数サーバからの同時アクセスという問題である。これを解決するには、上記のようにNASと融合して利用したり、上記の同時アクセスを可能とするファイルシステムを利用するなどの技術を利用する。

WWWサーバとSAN
図5 WWWサーバとSAN

・ その他(ファイアウォール/IDS)

 先ほどから繰り返し述べているように、SANはインフラである。インフラはアプリケーションに基本的には依存しない性質なので、SANはほかの種類のアプリケーションと組み合わせることもできる。

 一例として、ファイアフォール/IDSとSANの組み合わせをご紹介しよう。ファイアウォール/IDSとSANの組み合わせというのは、意外に感じられると思う。ここで、ファイアウォール/IDSとSANを結び付けるかぎとなるのは「ログデータ」である。

 ファイアウォールやIDSでは大量のログが出力される。インターネットセキュリティがかつてないほど重要視されている現在、これらのログの保存はシステム/ネットワーク管理者の重要な役目である。さらにファイアウォールやIDSのログは日々増加していく。アクセス数の多いサイトを運営していればそれはなおさらだろう。こういったログの管理、保存のためのインフラとしても、SANは有効である。


 次回以降、本連載ではモデルケースを想定してSAN導入の過程を手順を踏まえて解説していく。SANシステム導入の場合、一般に大規模なシステム構築となる場合が多いが、別に最初から大きな投資を行う必要はない。「スモールスタート」で初めて、SANインフラの効果を見極めながら次第に拡張していく方が効果的である。最初は小さく始めても、SANを使用していく中でさらなる要求や課題が生まれ、それらを解決する技術を必要に応じて導入していくことができる。

 この過程を通じて、SAN導入に必要な技術が読者の皆様にも理解いただけると思う。上に述べたとおり、SAN導入は難しいものではない。一度知ってしまえば、それ以降は気負うことなく取り組めるはずだ。次回以降の記事を楽しみにしていただきたい。


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