アカデミック系OSSライセンスに関する一考察:企業技術者のためのOSSライセンス入門(3)(2/2 ページ)
この連載では、企業がオープンソースソフトウェアとうまく付き合い、豊かにしていくために最低限必要なライセンス上の知識を説明します。(編集部)
(1)広告媒体にも謝辞を掲載するレベル(宣伝条項レベル2)
GNU projectから「迷惑窮まりないBSD宣伝条項」と指摘されたのが、広告媒体にも謝辞を掲載することを求める最強レベル(これを「宣伝条項レベル2」と呼ぶことにします)の明示内容を求めるこのグループです。ここでいう「広告媒体」とはプログラム自身を伴わない広告や販売促進資料などを示すと思われます。現在では、OpenSSLライセンスにこの条項が見られます。
3. このソフトウェアの機能または使用について言及するすべての広告用材料では、次の謝辞を表示する必要があります。「この製品には、OpenSSL Toolkitで使用するためにOpenSSL Projectによって開発されたソフトウェアが組み込まれています(http://www.openssl.org/)」
(出典:http://publib.boulder.ibm.com/tividd/td/TWS/SC32-1277-01/ja_JA/HTML/twsrn82mst52.htm)
(2)ドキュメントに謝辞を掲載するレベル(宣伝条項レベル1)
「広告媒体」ではなく、プログラムに伴うドキュメントに謝辞を掲載すればよいというレベルが、現在でも見かけるライセンスの宣伝条項です。掲載対象を限定した宣伝条項といえます。これを「宣伝条項レベル1」と呼ぶことにします。
OpenSSLライセンスには、前述の宣伝条項レベル2-(1)の第3項とは別に、第6項に以下のように宣伝条項レベル1の条項が存在しており、掲載対象が明確に異なることが分かります。
6. いかなる形の再配布にも、次の謝辞を表示する必要があります。「この製品には、OpenSSL Toolkitで使用するためにOpenSSL Projectによって開発されたソフトウェアが含まれています(http://www.openssl.org/)」
(出典:http://publib.boulder.ibm.com/tividd/td/TWS/SC32-1277-01/ja_JA/HTML/twsrn82mst52.htm)
一方、宣伝条項レベル2-(1)の条項を持たない、宣伝条項レベル1までのライセンスとしてはApache Software License 1.1やPHPライセンスがあります。
3. エンドユーザドキュメントを頒布物に含める場合は、そこに次の文言を含めてください。「この製品にはApache Software Foundation(http://www.apache.org/)が開発したソフトウェアが含まれています」。あるいは、このような第三者への謝辞を盛り込むことが標準的なやり方になっているなら、ソフトウェア自体にこの文言を含めてもかまいません。
(出典:http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%2FApache_Software_License)
6. いかなる形式で再頒布する場合も、次の文言を表示しなければなりません。"This product includes PHP, freely available from <http://www.php.net/>".
(出典:http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%2FPHP_License)
(3)著作権表示、ライセンス文、免責条項の3点セットの掲載を求めるレベル
これが最もポピュラーなBSDライセンスの要件です。
Copyright 1994-2003 FreeBSD, Inc. All rights reserved.
ソースコード形式であれバイナリ形式であれ、変更の有無に関わらず、以下の条件を満たす限りにおいて、再配布および使用を許可します:
1. ソースコード形式で再配布する場合、上記著作権表示、本条件書および下記責任限定規定を必ず含めてください。
2. バイナリ形式で再配布する場合、上記著作権表示、本条件書および下記責任限定規定を、配布物とともに提供される文書および/または他の資料に必ず含めてください。
本ソフトウェアはTHE FREEBSD PROJECTによって、”現状のまま”提供されるものとします。本ソフトウェアについては、明示黙示を問わず、商用品として通常そなえるべき品質をそなえているとの保証も、特定の目的に適合するとの保証を含め、何の保証もなされません。事由のいかんを問わず、損害発生の原因いかんを問わず、且つ、責任の根拠が契約であるか厳格責任であるか(過失その他)不法行為であるかを問わず、THE FREEBSD PROJECTも寄与者も、仮にそのような損害が発生する可能性を知らされていたとしても、本ソフトウェアの使用から発生した直接損害、間接損害、偶発的な損害、特別損害、懲罰的損害または結果損害のいずれに対しても(代替品またはサービスの提供;使用機会、データまたは利益の損失の補償;または、業務の中断に対する補償を含め)責任をいっさい負いません。
このソフトウェアと文書に含まれる意見や結論はそれらの著作者によるものであって、The FreeBSD Projectの公式な方針を、明示黙示を問わず、あらわしているものととってはならない。
出典:http://www.jp.freebsd.org/www.FreeBSD.org/ja/copyright/freebsd-license.html)
(1)、(2)のライセンスも含めてこのレベルの条項は、「ソースコード形式で配布する場合」「バイナリ形式で配布する場合」と、分かりやすく場合分けして条件を示していることが特徴です。ともに「著作権表示」「条件書(ライセンス文)」「責任限定規定(免責条項)」の3点セットを掲載する条件であることには変わりはありません。
ソースコード形式で再頒布する場合は、元々のソースツリーの中にこのライセンスファイルが含まれています。従って、これを削除せず再頒布すれば「必ず含める」という条件を自然に満たすことになります。
バイナリ形式で再頒布する場合、受け取り手は、ソースツリーに含まれるライセンスファイルもソース中に記載されているライセンス条文も、見ることができなくなります。代わりに、ライセンスファイルを「配布物とともに提供される文書および/またはほかの資料に必ず含めてください」ということが条件となります。
配布物の中にライセンスファイル(「COPYINGファイル」や「LICENSEファイル」)があれば、3点セットはその中にすべて書かれています。ですから、ソースコード形式であろうがバイナリ形式であろうが、結局のところライセンスファイルを受け手に見せることができれば、3点セットを示すことができます。Apache License 2.0では以下のように、物理的に分かりやすい即物的な表現になっています。
1. 成果物または派生成果物の他の受領者に本ライセンスのコピーも渡すこと。
出典:http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%2FApache_License_2.0)
なおApache License 2.0では、「第4項 再頒布の条件4」において「NOTICEファイルがあればそのテキストファイルを渡す」などの条件が設けられていることを忘れないようにしてください。
(4)3点セットを掲載するレベル、その2
おそらく、(3)の条文の原型になったBSDライセンス形式ではないかと思われるのが、PostgreSQLのBSDライセンスや、MITライセンスとも呼ばれるX11などのライセンスです。
これらの条文は「ソースコード形式で配布する場合」「バイナリ形式で配布する場合」と分けずに記述しており、より短くなっています。その分、分かりにくくなっていますが、「著作権表示」「本許諾表示」「(とそれに含まれる)免責条項」の3点セットを添付または記載することを求めており、基本的には(3)と同じ対応を意図しているものと思われる条文です。
POSTGRESQL データベース管理システム
部分的著作権 (c) 1996-2009, PostgreSQL国際開発グループ
部分的著作権 (c) 1994-1996 カリフォルニア大学本校
本ソフトウェアおよびその文書一式は上記の著作権表示と、この文章およびこれに続く二つの段落が全ての複製に添付されている限りにおいて、使用、複製、修正および配付の許可を、いかなる目的であっても、無償でかつ同意書無しに行なえることをここに認めます。
カリフォルニア大学は、いかなる当事者にたいしても、利益の壊失を含む、直接的、間接的、特別、偶然あるいは必然的にかかわらず生じた損害について、たとえカリフォルニア大学がこれらの損害について訴追を受けていたとしても、一切の責任を負いません。
カリフォルニア大学は、商用目的における暗黙の保証と、特定目的での適合性に関してはもとより、これらに限らず、いかなる保証も放棄することを明言します。以下に用意されたソフトウェアは「そのまま」を基本原理とし、カリフォルニア大学はそれを維持、支援、更新、改良あるいは修正する義務を負いません。
(出典:http://wiki.postgresql.org/wiki/FAQ/ja)
The MIT License
Copyright (c) <year> <copyright holders>
以下に定める条件に従い、本ソフトウェアおよび関連文書のファイル(以下「ソフトウェア」)の複製を取得するすべての人に対し、ソフトウェアを無制限に扱うことを無償で許可します。これには、ソフトウェアの複製を使用、複写、変更、結合、掲載、頒布、サブライセンス、および/または販売する権利、およびソフトウェアを提供する相手に同じことを許可する権利も無制限に含まれます。
上記の著作権表示および本許諾表示を、ソフトウェアのすべての複製または重要な部分に記載するものとします。
ソフトウェアは「現状のまま」で、明示であるか暗黙であるかを問わず、何らの保証もなく提供されます。ここでいう保証とは、商品性、特定の目的への適合性、および権利非侵害についての保証も含みますが、それに限定されるものではありません。作者または著作権者は、契約行為、不法行為、またはそれ以外であろうと、ソフトウェアに起因または関連し、あるいはソフトウェアの使用またはその他の扱いによって生じる一切の請求、損害、その他の義務について何らの責任も負わないものとします。
(出典:http://sourceforge.jp/projects/opensource/wiki/licenses%2FMIT_license)
The following is the 'standard copyright' agreed upon by most contributors, and is currently the canonical license, though a modification is currently under discussion. Copyright holders of new code should use this license statement where possible, and append their name to this list. Please sort by surname for people, and by the full name for other entities (e.g. Juliusz Chroboczek sorts before Intel Corporation sorts before Daniel Stone).
Copyright (C) 2000-2001 Juliusz Chroboczek
Copyright (C) 2006-2007 Intel Corporation
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Copyright (C) 2005-2007 Daniel Stone
Copyright (C) 2006 Luc Verhaegen
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THE SOFTWARE IS PROVIDED "AS IS", WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO THE WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE AND NONINFRINGEMENT. IN NO EVENT SHALL THE AUTHORS OR COPYRIGHT HOLDERS BE LIABLE FOR ANY CLAIM, DAMAGES OR OTHER LIABILITY, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, TORT OR OTHERWISE, ARISING FROM, OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE SOFTWARE OR THE USE OR OTHER DEALINGS IN THE SOFTWARE.
(出典:http://ftp.yz.yamagata-u.ac.jp/pub/X11/x.org/X11R7.4/src/xserver/xorg-server-1.5.1.tar.gz)
(5)著作権表示などがソースコードにさえ残っていればよいレベル
これは例外的ですが、「unless such copies or derivative works are solely in the form of machine-executable object code generated by a source language processor」(こうしたコピーや副次的産物が、ただ、ソース言語のプロセッサによってマシンで実行可能なオブジェクトコードの形式にあるときのみ)と、実行形式のみの配布の場合、著作権表示や許諾条件本文、免責条項の記載を含めることをわざわざ除外してくれている条文です。
Boost Software License 1.0 (BSL1.0)
Tue, 2008-02-05 16:36 — nelson
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(出典:http://opensource.org/licenses/bsl1.0.html)
BSDライセンスの対応について
ここで紹介したライセンス以外にも、「著作権表示を含めること」とすら書かずに「詐称しないこと」などの一言で済ませている条文もあります。とはいえ、そのようなライセンスのOSSに関しても、できる限り3点セットを掲載して対処することが望ましいと思います。
よく行われている対処方法は、3点セットが記述されているライセンスファイル(英語などの原文)をそのまま、ユーザーマニュアルなどに掲載する方法です。デジタルテレビなどの家電製品の取扱説明書にも英文のライセンス文が掲載されているご時世ですから、掲載すること自体に抵抗は少ないと思います。
またほかの方法として、3点セットをそのまま残したソースツリーを添付CD-ROMなどに格納すれば、「ソースコード形式で配布する場合」に当たり、マニュアルに掲載する必要がなくなります。Linuxディストリビューションなどは、この頒布形式を取っているため、ドキュメントの掲載がないものと思われます。
なお、日本のWikipediaでの「BSDライセンス」記事の説明には、長らく「著作権表示さえしておけば、BSDライセンスのソースコードを他のプログラム(コンピュータ)|プログラムに組み込み、しかも組み込み後のソースコードを非公開にできる」という説明があったためか(出典は定かではありません)、あちこちで「著作権表示さえしておけば……」という説明を見掛けます。しかし上述したように、BSDライセンスは「著作権表示」「本許諾表示」「(とそれに含まれる)免責条項」の3点セットを添付または記載することと解釈するのが、現在のライセンス文の解釈上、自然に思えます。
そのため、2009年4月5日にこのWikipediaの記述を「著作権表示、ライセンス条文、無保証の旨の三点をドキュメントなどに記載さえしておけば、BSDライセンスのソースコードを他のプログラムに組み込み、しかも組み込み後のソースコードを非公開にできる」に変更させていただきました。
次回は、今回お話できなかったGNU系、OSI系のライセンスの考え方について推察してみたいと思います。
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