検索
連載

運用上の課題を解決する管理ツール知って見るみるKVM(3)(1/3 ページ)

アナウンス後わずか2カ月でLinux Kernelにマージされたことで一躍注目を浴びることになった仮想化技術「KVM」。しかし、その具体的な仕組みや使用方法となると、意外と知られていないのではないでしょうか。この連載ではそんなKVMについて紹介します(編集部)

Share
Tweet
LINE
Hatena

 前回「KVMの基本的な使い方」を掲載してからかなり時間がたってしまいましたが、前回の記事を参考にKVMを実際に試してみた方も多いのではないでしょうか。コマンドラインではオプションを覚えるのは大変ですが、シェルスクリプトにしておくことで、利用自体は意外に難しくないと思いますが、いかがでしょうか?

 今回は、KVMの運用・管理について掘り下げるとともに、利用者の増加に必要な課題や方向性について考察してみます。

企業利用では避けられない運用管理の課題

 個人で使うのが目的であれば、主にコマンドラインで利用するとしても、KVM導入の敷居は低いのではないかと思います。現在では、Intel VTやAMD-V搭載の機器もたやすく入手できます。

 一方、企業で使うとなった場合はどうでしょう。あなたが、情報システム部門もなく、ほかにできる人もいないので本業とシステム管理者を兼務している、でもその代わり割と自分のやりたいようにできる……といった地位にあれば、KVM/QEMUを活用してサーバの仮想化・統合を行うこともできるかもしれません。ただし、一連の経緯をしっかりとドキュメント化し、引き継ぎを行っていないと、あなた以外の誰にも代わりができない、という状況になりそうです(注1)。

 いま挙げたのは極端な例かもしれませんが、情報システム部門がある会社でも、みんながみんなUNIXのリテラシに加え、仮想化技術のスキルを持っているわけではないと思います。「なにがしさんに任せて導入する」というような理由で導入すると、人に依存した運用になってしまいます。これでは、仮にいち早くKVM/QEMUを使ったとしても、目の届く範囲ですら普及しそうにありませんね。

注1:そもそも、あなたが1人でシステム管理を行っていて、すべてあなたの頭の中に入っているのであれば、ドキュメントは不要かもしれませんが。


 では、ドキュメントをきちんと作成し、ほかの人への引き継ぎも行っているとしましょう。前回のようにコマンドだけで運用管理をするには、少なくともUNIXやGNU/Linuxのシステム管理に関するリテラシが必要です。システム管理者たるもの、最低限その程度のリテラシは必要でしょう。

 とはいえ、仮想サーバの台数が次第に増え、それに伴い仮想サーバを動かす物理ノードも増えてきたらどうでしょう。きちんと管理していなければ、仮想化されて目に見えない分、どこにどのサーバがあるのかがすぐに分かりません。すると、システム管理に費やす時間は物理サーバだけで行う場合よりも大幅に増えるかもしれません。ここに、複数の仮想サーバを容易に一元管理できるツール(注2)の必要性が感じられるかと思います。

注2:コマンドラインで制御するスクリプトを自前でこしらえてもいいかもしれませんが。


 KVM用の管理ツールは、前回、名称だけですが紹介しています。「Virtual Machine Manager(virt-manager、http://virt-manager.et.redhat.com/)」と「oVirthttp://ovirt.org/)」です。どちらも、Red Hatが中心となって開発が進められているオープンソースソフトウェアです。

画面1 oVirtのインターフェイス(公式サイトより)
画面1 oVirtのインターフェイス(公式サイトより)

 これらはKVM専用というわけではありません。virt-managerは先にXenをサポートしています。oVirtでは、将来的にはXenもサポートする予定になっていますし、メインターゲットではないものの、OpenVZなどのほかのサーバ仮想化技術も動くようです。

 では、これらのツールは実際に使えるものなのでしょうか。いくつかポイントを見てみましょう。

●ドキュメントが少ない(特に日本語)

 virt-managerについては、Fedoraプロジェクトによる、virt-managerを使用する仮想化環境導入マニュアルの日本語版があります。oVirtについては、開発元のサイト(http://ovirt.org/)に英語のドキュメントはありますが、開発が活発であるためか、ドキュメントの更新が遅くなるという問題があります(注3)。

注3:導入時にダウンロードすべきファイル名がその一例です。通常インストール用のアーカイブだけでなく、oVirtサーバ自体を仮想アプライアンス化するためのアーカイブなど何種類かのファイルが配布されていますが、最新版ではネーミングルールが変わっています(2009年6月下旬時点)。


 日本語情報としては、マニュアルだけでなく、日本語によるWeb記事や雑誌なども少ない状態です。探してみたところ、virt-managerに関する記事はあっても3年前のものでした。記事執筆当時のバージョンは0.2.xでしたが、開発はそこから進んで2009年5月現在では0.7.0がリリースされています。

 oVirtについては、virt-manager以上に、使い方などを解説した記事がないように見受けられます。日本での利用者が増えるには、日本語での情報が増える必要があるでしょう。

●どれを選択すればよいのかが分かりにくい

 KVM用のGUI管理ツールですが、前述のとおり、おそらく現状ではvirt-managerとoVirtくらいしかないのではないかと思います。

 しかし、oVirtはまだ、基本的にはFedoraでしか使えません。しかも追加パッケージとして、oVirtプロジェクトのWebサイトからダウンロード&導入するしかないのが現状です。

 一方のvirt-managerはFedoraだけでなく、Debian、SUSEなどほかのディストリビューションでも使えるようになっています。ただし、X Window System向けのデスクトップツールでもあるので、リモート管理も可能ですが、基本的にはGNU/Linuxでデスクトップ環境を用意する必要があるでしょう。となると、普通の企業で、かつインフラだけでなく業務システムまでサポートする必要のある情報システム部門が自前で導入するには、やや敷居が高いかもしれません(注4)。

注4:実際には大変なんてことはないのですが、使い慣れていない、知らない環境を導入することに対する心理的なイメージが阻害要因になるかもしれません。また、Windows向けの商用のX Server 製品もあるのでそれを利用する、という方法もあります。


 また、virt-managerとoVirtの違いが分かりにくいという問題もあります。前者はXのデスクトップツールで、後者はRuby on RailsベースのWeb UIです。どちらを選択すべきでしょうか。

 枯れていないことや正式サポートの有無といった条件を無視すれば、oVirtのvirt-managerに対するポジショニングは存在するようです。virt-managerは使われる規模、ターゲットは特に決まっていないようですが、oVirtは、(oVirtでサポートする)すべての仮想化環境を対象にしており、特にデータセンターなど大規模にサーバ仮想化を使うところをターゲットにしているようです(注5)。

 となるとvirt-managerは、比較的規模が小さくて、「数台導入する」とか「ちょっと試してみる」といったケースに向いているといえそうです。実際、oVirtを導入するのは、virt-managerに比べると敷居が高いのですが、これについては後述します。

注5:oVirtのFAQより。


●サポート環境の問題

 virt-managerは前述のとおり、さまざまなディストリビューションでサポートされており、商用ディストリビューションでもRed Hat、SUSEなどでサポートされています。

 しかし、ある程度台数が増大することが分かっている環境では、oVirtを採用するという考え方もあるでしょう。oVirtもvirt-managerもRed Hatが中心となって開発している管理ツールでもあり、Red Hat自身、KVMとoVirtを主なターゲットとして開発を進めているようです。このことを考えると、今後リリースされる新バージョン(2009年9月リリース予定のRHEL 5.4、あるいはそれ以降?)を待つ方がよさそうに思えます。ただ、そこまで待つ余裕がない場合は、すでにリリースされているほかの商用仮想化技術(VMware ESX、XenServerなど)を選択することになるでしょうか。

●導入実績がまだ少ない

 運用ツール以外にKVM普及の足かせになっているのが、やはり導入実績、事例が少ないということ、そして、サポートしているベンダが少ないということでしょう。

 しかし後者については、KVMをサポートする企業が最近徐々に増えてきています。導入実績、事例についても、何か起爆剤があれば状況は変わりそうです。ここは、Red Hatのビジネス戦略次第といえるかと思います。

 また、Red Hatは2008年9月にQumranetを買収しました。これにより、KVMとoVirtによる仮想サーバ統合環境だけでなく、KVMを利用するQumranetのプロプライエタリの仮想デスクトップソリューションの「SolidICE」を獲得しています(関連記事)。

 パフォーマンスの高さが評価されているSolidICEのオープンソース化と、それが使用するプロトコル「SPICE」のオープン化もアナウンスされています。同社の戦略次第で、サーバ仮想化におけるKVMのポジションだけでなく、仮想デスクトップ市場の勢力図も大きく変わる可能性があります。

       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る