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世界に誇る日本の国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト「IVRC2012」。グランプリの「腕の上に巨大な鳥が止まった感触」とは?

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世界に誇る日本のバーチャルリアリティ

 国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC, International collegiate Virtual Reality Contest、以下IVRC)が、お台場/科学未来館で10月27日に開催された。バーチャルリアリティ(仮想現実、VR)作品を発表し合うコンテストは、今年で20回目を迎える。

 毎回、アイデアと技術を凝らした

  「あらゆるものを麺棒で潰す感覚を現実化」

  「自分で自分を抱きしめる感覚を現実化」


Sence-Roid(youtube)――マネキンに付けたセンサが読み取った感触を、自分の身体に付けた振動子で再現することで、「自分が自分を抱きしめる」感覚を現実化(提供:Sence-Roidチーム)

 などの作品が発表され、世界を驚かせている。IVRCの優秀作は、フランスで行われる世界的なVRの大会Laval Virtualに招待され、そこでも多くの入賞者が日本から生まれている。IVRCに深くコミットしている先生方は語る。

 「コンピュータの力を借りてでも、夢の世界を“現実に”持ってくるためのリアリティの研究」神奈川工科大学 白井暁彦准教授

 「科学を洗練させることで魔法を実現する」慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 稲見昌彦教授

 日本は、魔法のようなことを実現するVR技術の大国なのだ。今回、目立った作品をレポートしたい。

腕に巨大な鳥が止まった感触の再現!

この腕とまれ!

 総合優勝とLavalVirtual賞に輝いたのは、チーム:かるくハルク(慶應義塾大学 筧康明研究室)の「この腕とまれ!」だ。予選でも2位と、一貫して高評価だった。

 再現した感覚は「腕の上に巨大な鳥が止まった感触」。


箱に腕を差し込むと、まるで巨大な鳥がつかまったように反応する(写真はIVRC公式サイトより)

 実際に体験してみる。

 鳥の巣箱みたいな木箱に、腕を差し込むとまず「ガシッ」とつかまれた感触が。驚いて腕を動かしたり、巣箱を叩いたりすると、さらに強くつかまれ、鳥の羽ばたき音と鳴き声がする。つかまれる感覚も1カ所だけではなく、腕の上を鳥が動いているように、腕の皮膚が持ち替えられる感覚がある。この手の電子工作には珍しく、かなり力が強い。しばらくして、鳥が飛び去るバサバサという音が聞こえてきて、腕をつかまれていた感触が去り、体験終了となる。

鳥の感触を実現するメカ

 この機構を実現していたのがこのメカ。鳥の足の2本、それぞれの足の前爪と後爪、計4カ所の接触箇所を、それぞれサーボモータで制御する。また、サーボの位置そのものが動くような機構が入っている。

 圧力センサで腕からどういう反応が返ってきているかを検知し、巣箱を叩いた感触をコンタクトマイクでセンシングし、それぞれサーボの動きを変えることで、「暴れて動いている」などの反応を出す。動きだけでなく、スピーカーから鳥の鳴き声や羽ばたき音を出し、羽ばたきの感触を手に伝えるためにエアーコンプレッサで手に風を与える凝りようだ。去年の優勝作「ペタンコ麺棒」も筧研究室が中心になったチームが受賞したので、2年連続の優勝となる。


2年連続の優勝となった筧研メンバー

 ただ、近年のIVRCは非常に高レベルで、僕が見る限りどのチームが優勝なのかは最後まで分からなかった。これから紹介する作品たちもそれぞれ素晴らしく、未来が見える。

ものを飲み込んだ感覚をさらに強調して再現

 日本VR学会賞に輝いたのがチーム:魂の解放(電気通信大学梶本研究室)による「ViVi-EAT」。


振動子が仕込まれたベストを身に付ける

 体験者は特殊な複数の振動子が仕込まれたベストを身に付け、センサを首に付け、ヘッドフォンを耳に付けて体験に望む。

 正面に据えられた3Dカメラ(Kinect)により自分の姿が撮影され、身体に合わせて胃袋が表示される。


胃袋が表示される


体験全体の流れが描かれたボード

 水を渡されて飲み込むと、モニタ上では胃袋に水が表示され、同じ位置が振動子で震えることで「何かある」ように感じさせる。身体を左右に振ると胃袋が動き、駆動する振動子の場所が変わることで、身体の中で食べ物が(胃袋が)動いているような感触がある。このとき、飲んだ水そのものはもう胃の中にあるのだが、モニタから目に伝わる情報と、振動子のおかげで、確かに「何かある」感触がある。水の他に固形物(ポテトチップス)での体験もあるのだが、こちらは水とは違う「何か別の感触」を感じる。確かに食べ物がそこにとどまっているような感じがする。

 振動子はモータでなく、小型形状の特殊なスピーカーを使用している。モータでは固有の周波数振動(1つの質感)しか表現できないが、スピーカーでは幅広い周波数を表現することが可能で、それが水と固形物の質感の違いにつながっている。

 最後に首の後ろをたたいてもらうと、水や食物が流れて体験が終了する。

 この腕とまれ! は、箱で見えない中で、腕に伝わる触覚と耳に伝わる聴覚でありありと鳥の姿が浮かんだが、Vivi-EATは実際には飲み込んだはずのものが、視覚と触覚で「まだ引っかかっている」「すっきりした」ように感じた。体の中のものがディスプレイに表示され、目と体感で感じる奇妙な感触だ。

かつお節をディスプレイに!

ゆらゆらを再現!

 明和電器社長賞に輝いたのが、ViVi-EATと同じく電通大のチーム:カツオモーション(電気通信大学野嶋研究室)による「かつお節ディスプレイ」。


かつお節を再現

 ご飯やお好み焼きなどの上に載せたかつお節が揺らめくのと、同じような運動をするセロハンを発見したことにより、「任意の場所から湯気を出すことで、かつお節の揺らめきで表現するディスプレイ」を作った作品だ。

 「新しい物質を使った見たこともない表現」が体験の核で、納得感や理解の楽しみというより、鮮烈な衝撃を受ける。その衝撃はまるでアートで、実際にメディアアートとして東京都現代美術館のブルームバーグ・パヴィリオン・プロジェクトでも受賞している。

 ぜひ動画で見てもらいたい。

うねうねと動くかつお節を再現

 予選のときには透明なかつお節に見立てたセロハンをモニタの上に置き、偏光板越しで見ることで幻想的な世界を表現していたが、決勝では手を動かした場所に湯気を出し、セロハンがうねる場所が動く形で、まったく様変わりしていた。

 予選のときの作品の面白さが、偏光板と色の面白さに寄ったものだったのに対し、決勝ではより「このセロハンが動くことの面白さ」をディスプレイとしての表現に生かした形だ。

魚が手の角質を食べる感覚を再現! バーチャルドクターフィッシュ

 バーチャルドクターフィッシュ(チーム:焼き魚定食 北陸先端科学技術大学院大学 宮田研究室)は、手の角質を食べてくれる魚「ドクターフィッシュ」を再現した作品だ。審査員特別賞が与えられた。


揃いの帽子をかぶったチーム焼き魚定食

 台の上には、水槽のような映像が投影されている。そこに手を置くと、映像の魚が寄ってくる。手の上をつつかれるような感触がある。

ドクターフィッシュが手をついばむ

 すっかりキレイになると、手が白くなり、魚がFINISHの文字を描く。


魚が手をつつく感触を実現する指向性スピーカー。モータで全体が動く

 魚が手をつつく感触は、超音波を使った指向性スピーカーで実現されている。指向性スピーカーを使ったことにより、「この腕とまれ」や「ViVi-EAT」と違い、手も魚も見えている状態で空中に触覚刺激を与えられる。

 非接触で触覚を再現するデバイスを普段見る機会はないので、とても奇妙な感触だ。実際に目で見ている手に、見えない感触だけが襲ってくるのはまるで魔法。

 魚の種類や手を置いたときの映像などを表現できるメリットを生かして、ゲームのような美しい映像を作っていた。

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