潜入! 北陸StarBED技術センター:これが世界最大規模のテストベッドの全貌だ(2/3 ページ)
Interop Tokyoの「クラウドコンピューティングコンペティション」やWASForum主催の「Hardening Zero/One」など、超ハードなコンピューティング環境を陰で支える北陸StarBED技術センター。企業の実証実験空間としても積極的に利用される同センターは、世界最大規模のエミュレーション環境を誇る最先端施設だった。
StarBEDを支える基盤・エミュレータ・運用サポートの三本柱
同センターのように大規模テストベッドを持つ組織は、世界中に存在する。だが、同センターには他と一線を画す特長がある。それは、1つの機関で基盤・エミュレータ・運用サポートすべてを提供しているところだ(図3)。
同センターの運用サポートには、所長を含む研究員4名と技術員1名しかいない。それでも、1機関ですべて賄うことに意味があると三輪氏は言う。
教訓は、初期のStarBED時代にあった。基盤を貸し出しているだけの当時は、簡単なサポート窓口を置く程度にとどまっていた。そのため、運用開発技術に関わる新しい知識は貸出側に一切フィードバックされず、知見を得られない状態にあった。しかも、貸出先のそれぞれからは同じような質問が相次ぎ、サポート作業は煩雑さを極めた。
「StarBEDでは年間約30プロジェクトが動いている。ひと月で1プロジェクト以上をきちんと支援するには、私たちがプロジェクトの内容すべてを把握し、フィードバックも含めた知識を貯め、共有化できるものはユーザーに伝える――そんな体制を構築する必要があった」(三輪氏)
こうして、同センターは基盤やエミュレータ開発に加え、運用サポートも内製化することにしたという。
すべてを内製化したことで、ユーザーには利便性と快適さを備えたテスト環境およびサポートが提供できるようになった。同時に、センター側にはフィードバックが集約され、SpringOSやエミュレータなどのさらなる開発が進んだ。双方の利益を高めあえる、密で有機的な連携が完成した。
多様な実験に貢献する独自開発のエミュレータ群
基盤で動作する各種エミュレータも、実験で非常に重要な役割を果たす。
例えば「XENebula」は、Xenをベースに仮想ノードのクラスタ環境を構築する(図4)。
XENebulaは、物理ノードの構成要素の数や性能を柔軟に変更でき、実際のインターネットのような、巨大かつ複雑なネットワーク環境を仮想的に構築できる。「さまざまなパラメータを設定することで、インターネットで実際に起こり得る“ゆらぎ”を発生させられる。ネットワークに接続する機器のエミュレーションなどで活躍する」(三輪氏)
このほか、有線上で無線環境を作り出す「QOMET」も面白い(図5)。
無線環境では、利用者の移動に伴って、寸断や帯域の狭まりによる遅延などが発生する。これを仮想的に模倣し、まるで無線端末が現実の環境で動作しているかのように見せるのがQOMETだ。スマートフォンや車戴システムの実証実験で利用されている。
ポイントは、いかに“本物”に見せかけられるかだと三輪氏は言う。例えば屋外では、温度や湿度の変化、障害物などによって通信の減衰が発生する。そんなランダムな条件を模倣するエミュレータは、設計が非常に難しい。
「海外のテストベッドの中には、リアルを追求するために広い実験フィールドを用意するところもある。基地局を建てて、その間にノイズ源を設置して実験し、結果を反映させるという試みだ。しかし、ノイズ源が物理的に固定されているので、リアルに近いランダムな結果が出ないという問題がある」
現実を反映できていないエミュレータでは意味がない。そこで、同センターはシミュレーションとエミュレーションを組み合わせるという、新しいアプローチを取り入れた。
例えばQOMETでは、実際に同センター前のスペースを使ってアドホック通信における経路制御の実験を行った。実験で収集された“本物”の特性情報はシミュレータに入力され、その上でエミュレータを動かすことで、エミュレーションの“本物らしさ”を追求した。
「XENebulaもそうだが、現実世界には“ゆらぎ”が存在する。そこも含めて再現するには、本物の情報が必要だ。シミュレーションの計算結果と組み合わせて、よりリアルに近づける。このアプローチを取ることで、検証実験の精度も向上している」(三輪氏)
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