データサイエンティストの本当の役割と、分析の失敗パターンとは?:情シスに贈る“社内プレゼンス向上のヒント”
昨今、注目を集めている「データサイエンティスト」だが、イメージばかりが先行している感も強い。その企業における意義と役割、分析のアプローチをあらためて見直すことで、データ活用のポイントを探る。
ビッグデータという言葉が社会に浸透して久しい。これをバズワードと見る風潮もあるが、一部では活用に成功する企業が現れたほか、多くの企業があらためて分析に注力するきっかけにもなっている。だがデータの山を前にして、その中に眠る金脈の存在を感じながらも掘り出すノウハウがないことに、もどかしさを感じる企業も増えている。
こうした中、ビッグデータから有効な知見を引き出せる人材として、データサイエンティストが注目を集めている。その背景にはデータの山から宝を取り出せない企業のストレスばかりではなく、「今最もセクシーな職業」といったメディアの喧伝、また「2018年には14万〜19万人が不足する」(米マッキンゼー)といった人材不足に対する懸念もあるのだろう。
だが一方で、「ビッグデータ」と同様に、「データサイエンティスト」という言葉も既に飽和が始まっているようだ。ビジネスの知識、統計解析などの分析スキル、分析を行うためのITスキルという3つの能力を併せ持つといった認識は浸透しつつあるが、「企業における役割」に対する理解を置き去りにして、イメージだけが先行している感も強い。一部では「データサイエンティスト」という肩書きを従業員にいたずらに付与する傾向も見えつつある。
では「データサイエンティスト」とは具体的に何を行う人材なのか? その意義と立ち位置を、企業とデータを扱う情報システム部門はもう一度見直しておくべきなのではないだろうか?――企業のデータ分析・活用を支援しているブレインパッド アナリティクスサービス部 ゼネラル・マネージャーの佐藤洋行氏に、企業におけるデータサイエンティストの役割と、分析を生かせない典型的な失敗パターンを聞いた。
その「分析の目的」は、本当に分析に値するのか?
「ビッグデータの要素として定義されている“3つのV”――Volume(量)、Velocity(速度)、Variety(多様性)を全て満たす定義通りのビッグデータを活用している例はまだ少ないと思います。しかし、顧客のWeb上の行動履歴を取得して志向性を判別するといったアドテクノロジーの分野や、コールセンターに集まる顧客の声をマイニングする、購買履歴データを基にマーケティング施策を高度化するといった取り組みは幅広い業種で活発化しています。これらは決して新しい取り組みではありませんが、テクノロジーの進展により、より多くのデータから、より早く、より精緻な分析結果が得られる環境が整ってきた。ビッグデータをバズワードと見る風潮も強いが、ここ数年で多くの企業が分析にあらためて注力し始めたのは事実です」
佐藤氏は昨今のビッグデータトレンドについてこのように語る。ただ、「分析に注目している企業は多いが、本当に大切なのは分析を施策につなげること」と強調する。
例えば顧客を数十セグメントに分け、それぞれ違う商品を訴求すれば売り上げが上がりそうだという分析結果が出たとする。これがAmazon.comのようなEコマース運営会社ならセグメントごとにリコメンドの内容を変えるなど施策を打ちやすいが、リアル店舗を持つ小売業の場合、そうした対応は難しい。リコメンデーションという施策自体も問題をはらんでいる。セグメントごとに電子メールで訴求するにしても、数十種類のセグメントに対して本当に訴求内容を変えられるのか、最適な文章を用意できるのか、といった問題があるためだ。
「分析結果を出せても、それを実現するための施策が本当に打てるのか、施策を行うためのコストは想定されるリターンと帳尻が合うのか、という問題まで含めて考える必要があります。分析と施策実現の可能性、それに掛かるコストとリターンのバランス――これらを考えなければ分析をビジネスの成果に還元することはできません」
それだけではない。「分析は目的が大切」といわれているが、「その目的は本当に目的として正しいのか」という問題もある。例えば「顧客単価が下がっているので回復させたい」という目的について、「顧客単価とは1日当たり、あるいは1カ月当たりの単価なのか、なぜ顧客単価の低下が自社にとって問題なのか」など、さまざまな角度から検証すると、目的とするには課題設定が曖昧であり、真の課題と分析すべき事象は顧客単価ではなく別の点にあるようなケースも多いという。
佐藤氏は、こうした“分析以前の分析”に取り組んだ上で、「統計解析などの分析スキル、ITスキルを持ち、さらにビジネス理解に基づいて導き出した結果を施策の実現にタイムリーに結び付けられる人材――それがデータサイエンティストと呼ばれる人材だと考えています」と語る。
データサイエンティストにはデータのハンドリングスキルや、分析アルゴリズムの知識を基にSASやSPSSといった分析ツールを使いこなすスキル、深いビジネス知識など、多様なスキルが求められることから、専門スキルを持つ人材を集めたチームを組織するなど、推進体制についての議論が進みつつある。ただ、そうした人材/組織をもって「導き出した分析結果を施策につなげる」と言うと当たり前のようだが、その実現には以上のような複数のハードルが存在している。
データサイエンティスト、あるいはその組織は、企業においてどのような立ち位置で、どのように分析設計を行うのか、また施策を実現するためにステークホルダーにはどのように配慮すべきなのか?――情シスの社内プレゼンス向上に役立つコンテンツをお届けする「TechTargetジャパン プレミアム」。その第6弾となる『「データサイエンティスト」の本当の役割』では、データサイエンティストによる“効果が出せる現実的な分析のアプローチ”を具体的にひも解いている。データやツールに寄せられる期待と現実のギャップ、また現在のデータ/分析ツール活用の意外な問題点が、ここから見えてくるのではないだろうか。
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