802.11acと無線LAN仕様のこれから:解剖! ギガビット無線LAN最新動向(3)(1/2 ページ)
今回は、既存の無線LAN仕様との共存をはじめ、802.11ac、そしてこれからの無線LAN技術が抱える課題と方向性について紹介し、連載のまとめとしたいと思います。
前回の「スループットの飛躍的向上を実現した『MIMO』と『MU-MIMO』」では、無線LANスループットの飛躍的な増大を実現させた「MIMO(Multi-Input Multi-Output)」と、それを進化させた「MU-MIMO(Multi User MIMO)」の仕組みについて解説しました。今回は、既存の無線LAN仕様との共存をはじめ、802.11ac、そしてこれからの無線LAN技術が抱える課題と方向性について紹介し、連載のまとめとしたいと思います。
既存規格との共存
802.11 ac対応のアクセスポイントやクライアントと、既存の802.11 a/nのみ対応しているクライアントが混在する環境では、両クライアントはどのように共存できるのでしょうか。
まずは、11acのフレームフォーマットを見てみましょう。図1が11a/n/acのフレームフォーマットです。図1から分かる通り、フレームの先頭部分は11a/n/acと共通となっているため、既存の11a/nにのみ対応しているクライアントも理解可能です。
この中の「L-SIG」には、無線フレーム全体の長さが記載されています。こうして長さを示すことで、11a/nのみに対応したデバイスでも、VHT-XXXなど11ac特有の部分はデータとして処理し、このフレームを正しく処理することができます。この仕組みを「L-SIG TXOP Protection」と呼んでいます。
ダイナミックなチャネル確保
次に、40MHz以上の伝送帯域(チャネルボンディング)を使う際に、どのようにその伝送帯域の空きを確認、確保するかを見ていきましょう。
11acでは、40MHz以上の伝送帯域を使ったフレーム送信時には、すべてのチャネルについて利用可能かどうかを確認する“キャリアセンス”を実施しますが、この時、プライマリチャネル、セカンダリチャネルの考え方を取り入れています。図2はプライマリチャネルとセカンダリチャネルの関係図です。
どの伝送帯域でフレームを送信するかは、以下のようにして決定しています。
- プライマリ20MHzチャネルのみ利用可能な場合は20MHzで送信
- プライマリ40MHzチャネル(プライマリ、セカンダリ20MHzの両方)が利用可能な場合は40MHzで送信
- プライマリ80MHzチャネル(プライマリ、セカンダリ40MHzの両方)が利用可能な場合は80MHzで送信
- プライマリ、セカンダリ80MHzチャネルが利用可能な場合は160MHzで送信
11acでは上記のプロセスを、RTS/CTS(Request to Send / Clear to Send)を使って実現しています。RTS/CTSは元々、端末間の距離が長すぎるなどの原因で互いの電波を検知できず、フレームの衝突が起こる「隠れ端末問題」を解決するための仕組みでしたが、11acではこれを伝送帯域確保のために活用しています。
具体的には図3のように、送信側が各チャネルに対してRTS(Request-to-Send)を送信し、空きチャネルであればCTS(Clear-to-Send)受信します。各伝送帯域のプライマリチャネルが利用可能であれば、そのチャネルを使ってフレームを送信します。
RTS/CTSの仕組みは11a/nで使われていたものと同じなので、11a/nクライアントもこのフレームは理解可能です。RTSフレームの中に、Duration(後続するフレームの長さ)が含まれているため、11acデバイスが40MHz以上の伝送帯域を使う場合、11a/nクライアントからそのチャネルを保護できます。
11acではこの動作を送信機会(TXOP)ごとに行い、動的に伝送帯域を選択することで、20MHzや40MHzしか使えない11a/nクライアントとの共存を実現し、空きチャネルを有効に使えるようにしています。
例えば、図4のように、異なったプライマリ20MHzを使う2つの11acクライアントが存在していたとしても、80MHzチャネルはお互い重複することがほとんどです。一方のクライアントがまったく通信していない時には他方が80MHzを使うことができますが、両クライアントが同時に通信する場合は、ともに80MHzは使わず、20/40MHzで通信可能となります。
802.11acのこれから
つい先日、Wi-Fiアライアンスが「Wi-Fi CERTIFIED ac」の認定プログラムを6月に開始すると発表しました。すでにドラフト仕様に対応した製品が発売されていますが、企業向け製品は、早ければ6〜7月にはリリースが開始されます。
ただし、初期にリリースされる製品は各社製品とも「第一世代」と呼ばれており、160MHzのチャネル幅やMU-MIMOには対応していません。メーカーによって差異はありますが、第一世代と第二世代の違いはおおかた表1のようになります。また、第一世代と第二世代とではチップセットが異なる点にも注意が必要です。
機能 | 第一世代 | 第二世代 |
---|---|---|
空間ストリーム数 | 3 | 4〜8 |
伝送帯域(チャネル幅) | 80MHz | 160MHz |
MU-MIMO | No | Yes |
最高速度 | 1.3Gbps | 1.3Gbps〜 |
表1 11acの第一世代と第二世代 |
また、11acではギガビットクラスの無線LANアクセスをマルチデバイス(マルチユーザー)に提供可能となりますが、アクセスポイントのアップリンク側の有線インターフェイスがギガビットイーサネットのままでは、そこがボトルネックになってしまいます。企業向けアクセスポイントではLink Aggregationなどでアップリンクの帯域を増やすといった機能も求められるようになると思われます。
以上で11acという仕様そのものについての紹介は一通り終わりました。
さて、これからのモバイルネットワークでは、11acなどのWi-Fiと、Wi-Fi以外の規格との融合や連携が進んでいき、高速通信だけでなく「使いやすさ」も追求されていくことでしょう。そこで最後に、11acとの関わりの深い802.11adやPasspointをはじめとするその他のモバイル規格の動向について紹介したいと思います。
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