「記憶力増進には、エクササイズ中の学習が吉」とする研究結果:三国大洋の箸休め(9)
軽い運動をしながら新しいことを学ぶ方が学習効率が高い。そういった内容の記事がNYTimesに掲載された。デスクワークの多いこの業界、たまには運動してはいかがだろうか。
東京でもこのところ、歴史的な猛暑が続いている。毎日こうも暑い――日なたでは文字通り「熱い」状態――と、なんとか無事にやり過ごすだけで精いっぱいで、身体を動かすことなど普段にも増して億劫(おっくう)になってしまう。だが、そういった状況でも――頭を使う仕事(デスクワーク)の多い皆さんは特に――、適度にエクササイズした方が良い……。そんな内容の記事がNYTimesに掲載されているのを目にした。
- How Exercise Can Help Us Learn - NYTimes
『脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(ジョン・J・レイティ著:2009年、NHK出版刊)といったタイトルの書籍も販売されているくらいだから、身体運動と脳の関係というのは、特に目新しい話題というわけでもないかもしれない。NYTimesのブログ記事にも「エクササイズすることで学習能力や記憶能力が向上することを示した研究が、ここ10年ほどの間にたくさん発表されている」などとある。
ただし、この記事で目新しいのは、運動と記憶プロセスのタイミングのついての関係に触れていることだ。つまり、「運動した後に何かを学ぶ、あるいは学習した後に身体を動かす」よりも、「軽い運動をしながら新しいことを学ぶ場合の方が、より効率的に新しい事柄を覚えることができる」という具体的な話に触れている点にある。
この記事では、2つの研究結果が紹介されているが、その1つはドイツで行われた次のような実験である。
研究者は、81人の女性被験者を3つのグループに分け、それぞれに一対の言葉ーードイツ語の名詞とそれに相当するポーランド語(被験者にとって未知の言葉)――を耳から聞いて記憶してもらい、後でその結果(記憶効率)を比べるというテストを実施した。第1のグループは30分間静かに座っていた後に、この単語の組み合わせを聞いた(被験者はヘッドフォンを着用)。一方の2番目のグループは、ステーショナリーバイク(固定式の自転車)を30分間軽くこぎ続けた後で、単語の組み合わせを耳にした。そして、3番目のグループは30分間軽くバイクをこぎながら、単語の組み合わせを耳にしたという。
2日後に行ったテスト(どれくらいの新しい言葉を覚えられたかを調べたもの)で、最も良い結果が出たのは3番目のグループで、その次が2番目のグループだった。また3番目のグループと1番目のグループの間にはかなり大きな差が生じた一方、2番目のグループと1番目のグループとの差はわずかなものだった、とも書かれている。
もう1つの研究はというと、11人の女子学生アスリートに教科書を30分間読んでもらい、その後に読んだ内容について尋ねるというもので、同じ被験者に2度の実験が行われた。被験者は、1度目のテストでは静かに座ったまま教科書を読んだのに対し、別の日に行った2度目のテストではエクササイズマシンでかなり激しい運動をしながら教科書を読んだという。
この実験ではいずれの場合も30分間の読書が終わった直後と、その翌日に読んだ内容について、テストを実施したが、直後では運動しながら教科書を読んだ場合の方が結果は良くなかったものの、翌日には両者の差はほぼ皆無になっていたという。
NYTimesでは、これらの結果を踏まえて、軽い運動をしていると身体的な活性化が起こって記憶力も上昇する一方、エクササイズの内容がさらに激しくなると、そちら(運動)の方に脳のリソースがとられてしまい、新しい情報を記憶する方にはリソースが回らなくなるためではないかと推論している。また「数時間後に試験を控えているような場合には、静かに集中して勉強した方が恐らく良い。(中略)その一方で、試験が翌日にある場合などは、運動をしながら勉強しても問題ないだろう(軽いものであれば、むしろ記憶力増進に役立つ)」などと記している。
なお、身体運動と記憶力増進との因果関係など、そのメカニズムに関する部分についてはまだ研究途中の部分も多く、全容解明にはいましばらく時間がかかりそう……などとNYTimesでは記している。いずれにしても、適度な運動が健康(体力)維持と脳(記憶力)の活性化につながるというこの話題は、「1粒で2度おいしい」ネタとして見逃す手はないと思われる(ただし「適度な運動」がポイントである点を、くれぐれもお忘れなく)。
三国大洋 プロフィール
オンラインニュース編集者。「広く、浅く」をモットーに、シリコンバレー、ハリウッド、ニューヨーク、ワシントンなどの話題を中心に世界のニュースをチェック。「三国大洋のメモ」(ZDNet)「世界エンタメ経済学」(マイナビニュース)のコラムも連載中。
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