Windows Server 2012 R2がリリースされた。この最新サーバーOSは、マイクロソフトがクラウドサービス「Windows Azure」で得た技術の知見をわずか1年という短い期間で切り出し、オンプレミス環境下でも適用可能にしたものだ。R2のメリットとその使い方について、日本マイクロソフト Windows Server製品部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの岡本剛和氏、Publickey編集長の新野淳一氏が対談した。
即効性のあるWindows Server 2003マイグレーション
新野 Windows Server 2012 R2では、数多くの新機能が搭載されました。今回は、R2の新機能をどうやって使えばよいか、こんな使い方があるというヒントを伺いたいと思います。
岡本 まずご紹介したいのは、Windows Server 2003からのマイグレーションです。IDC Japanによると、2003サーバーが2012年末時点では45万台程度稼働していると言われていますが、それらは2015年7月にサポート終了を迎えるので、何らかの対処をしなければいけません。
その一つの方法になるのが、P2V(Physical to Virtual:物理サーバーから仮想サーバーへの移行)です。今までのWindows Server 2003の物理環境を、そのままWindows Server 2012 R2の仮想環境に移行し、利用を継続するという形です。Windows Server 2012 R2に搭載されたHyper-VはWindows Azureで培った技術を受け継いだことで大幅にスペックが強化され、以前に比べて集約度を上げることができますし、仮想ディスクの高速化も図られています。Windows Server 2003をゲストOSとして利用し続けるのは、サポートライフサイクルの観点からお勧めできませんが、可及的速やかに移行する必要があるときには十分に活用していただけます。
新野 Windows Server 2003のマイグレーションを行う場合、まずどこから着手すれば良いでしょうか。
岡本 一口にマイグレーションといっても、企業内にはさまざまなシステムが稼働していると思います。例えばアプリケーションサーバーを移行する場合、単純にアプリケーションだけを切り替えれば良いというのではなく、ユーザートレーニングを含めて大掛かりな取り組みが必要で時間がかかります。それに対してファイルサーバーは、ワークロードが簡易で移行しやすいと言えます。
Windows Server 2012 R2では、階層化ストレージ機能が搭載されており、ストレージのパフォーマンスをコスト効率良く向上させることができます。また、同じデータが含まれるようなケースでは重複除去機能によりディスク容量を大幅に圧縮したり、NICチーミング機能により可用性を高めるのも容易です。
新野 つまり、ファイルサーバーをWindows Server 2012 R2に移行すれば、性能が向上して運用コストを削減できるわけですね。
システムの可用性を向上させる障害/災害対策
岡本 Windows Server 2012 R2は、障害/災害対策にも有効です。主な使い方としては、クラスタの構築、Hyper-Vレプリカの活用、クラウドバックアップが挙げられます。
Windows Server 2012をリリース以来、多くのお客さまにご利用いただいているのがクラスタ関連の機能で、システムの可用性を上げるための取り組みが広がっていることがうかがえます。Windows Server 2008以前は、Enterprise Editionなどの上位エディションしかフェールオーバークラスタリング機能を利用できませんでした。その機能が、2012からはStandard Editionにも標準で搭載されているので、これをもっと使っていただきたいと考えています。
ただし、フェールオーバークラスタを導入できない場合も考えられます。そこで、もっと簡易に可用性を高める仕組みとして用意したのが、Hyper-Vレプリカです。Windows Server 2012 R2のHyper-Vレプリカは、同期頻度が30秒、5分、15分から選択可能になり、同じデータセンター内では簡易的なクラスタのように構成し、そこから別のサイトにレプリカを作成できるようになっていますので、障害対策と災害対策を一つの仕組みで実現できるでしょう。
新野 企業のニーズとしては、Hyper-Vレプリカの方が多いでしょう。クラスタを構築するには、アプリケーションまでフェールオーバーに対応させなければなりませんし、コストも掛かります。瞬時にフェールオーバーする必要のあるほど大事なシステムは、実はそんなに多くありません。情報系のシステムであれば、手動でシステムを切り替えても良いケースはあります。可用性とコストのバランスを考えると、Hyper-Vレプリカのカバー領域は大きいと思います。
岡本 Hyper-Vレプリカは、すでに多くのお客さまにご利用いただいています。その大きな要因として、非常に簡単に構築できるため、システムを柔軟にできる点が挙げられます。システム的には仮想マシンのレベルですから、多くの場合ゲストOSの中の設定を変更する必要はありません。さらに言えば、Windows Server 2003マイグレーションで、Windows Server 2012 R2のHyper-Vの上にP2Vすると、このHyper-Vレプリカによって障害/災害対策が可能になります。今までクラスタリングが組めなかったところにも、メリットを享受できるところが大きなポイントです。
障害/災害対策では、クラウドバックアップという使い方もあります。これは、Windows Azure Backupと組み合わせることによって、今のシステムを、遠く離れたクラウド上にバックアップできるものです。クラウドを見据えた障害/災害対策が実現できます。
クラウド移行を支援する活用法
新野 クラウドの話題が出ましたが、クラウドをオンプレミスと組み合わせたときに、どのように活用していこうかという使い方も気になります。
岡本 Windows Server 2003のマイグレーションに着手したいくつかのお客さまは、Active Directoryから移行を始めています。なぜなら、Active Directoryが、アプリケーションをはじめ、すべての基盤になっているためです。単純にActive Directoryのドメインコントローラーを最新のWindows Serverに置き換えるケースもありますが、中にはドメインコントローラーのクラウド化にチャレンジする企業もあります。
ドメインコントローラーのクラウド化は、災害対策に有用です。自社のデータセンターに設置したActive Directoryの認証に依存している場合、災害によって自社のデータセンターが利用できなくなってしまえば、すべてのシステムが止まってしまう恐れがあります。そこで、Windows AzureのIaaSにドメインコントローラーを設置するわけです。
新野 これはニーズが多そうですね。Active Directory基盤の運用は、止めてはいけないため、情報システム部門にとっては大きな負担です。それをWindows Azure上で稼働させれば、災害対策になるし運用を任せることもできます。例えば、Office 365を導入したりBYODを進めていったりすると、どうしてもインターネット上で認証したいというニーズが出てきます。Active Directoryをクラウド側に持って行くというニーズは、これから増えそうが気がします。
岡本 業務システムもクラウド側に持っていくと、それぞれ有機的につながりながら動くようになります。そこで、管理システムを共通化し、オンプレミスとクラウドの管理ツールを分けないことで、管理・工数を下げてサービスレベルを向上させることが重要になります。Windows Server 2012 R2では、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境を共通の基盤で運用管理する仕組みを提供しています。
さらに、マイクロソフトが蓄積したクラウドからの学びを最も享受していただくポイントとなるのが、自動化の仕組みです。複数のシステムをまたいだ形で自動化を実現し、そこに共通のインターフェイスをかぶせて容易に運用管理しようというものです。いわゆるクラウドの仕組みをオンプレミスの中に持ってくることで、管理工数を大幅に下げ、ひいては管理コスト全体を下げていくわけです。
新野 今までの自動化は、バッチファイルなどの“基本的にマシンの中の自動化”でした。けれども、クラウドになると分散システム全体の自動化が求められます。複数のマシン、場合によってはネットワーク認証も含めてトータルで自動化するので、自動化のレイヤーを一段上げる必要があります。インフラを含めて全体を連携するという意味で、新しい自動化を実現するには新しいテクノロジーを取り入れていかないといけません。
変化するクライアントデバイス環境にも対応
岡本 別の視点での使い方としては、クライアントデバイスの移行という課題にチャレンジをする中で、新しいワークスタイルを支える基盤を構築することもできるでしょう。
Windows Server 2012 R2はBYODにも有効です。マイクロソフトでは、「Windowsだけではなく、自分の好みのさまざまなデバイスを使いたい」というニーズがあることも認識しています。全部使わせないという方法もありますが、どんなに対策していても管理されていないデバイスが入ってくる可能性は否定できません。そこで、Windows Server 2012 R2とSystem Center 2012 R2、あるいはWindows Intuneと組み合わせたBYOD対応の機能を提供しています。
さらに、VDI(Virtual Desktop Infrastructure)もあります。データをローカルに残さないVDIを活用すれば、セキュリティを担保するとともにアプリケーションとデバイスのライフサイクルを分離できます。Windows Server 2012ではWAN回線にも対応していますから、モバイルデバイスを外に持ち出しても、VDIを使っていただくことが可能です。
最後にホスティングサービス事業者さま向けに用意しているのが、Windowsのワークロードを提供するための基盤を構築するという使い方です。そのソリューションとして、Windows Azureのインターフェイスをそのまま利用できるWindows Azure Packがあります。これを利用すれば、Windows Azureで培った知見を事業者さまのシステムに統合することができます。しかし、サービス提供のためのユーザーインターフェイスをお持ちの事業者さまでは、既存のシステムに統合したいと考えることもあるでしょう。これに対しては、Hyper-V基盤や、自動化の仕組みを統合できるService Provider Foundation(SPF)を提供しています。
新野 ここまでお話を伺って思い浮かんだのは、クラウドで培われた技術をオンプレミスにうまく持ってくることで相乗効果を出している点です。いまのサーバー技術はソフトウェア面だけでなくハードウェア面でも、クラウドが進化を先導しているのは間違いないでしょう。また、クラウドは運用スケールも桁違いです。
これにより、マイクロソフトも開発方法を大幅に変え、“クラウドの実運用”で得たノウハウをオンプレミスに還元する方法に変更されました。その際に、ただ移植するだけでなく、有機的に連動しようとしている点が感じられます。
今後も、クラウドの勢いは止まらないでしょうが、オンプレミス環境が完全に無くなることもないでしょう。そう考えると、技術面ではクラウドがけん引しつつ、運用管理面では、いかにオンプレミスとクラウドを融合させ、あたかも一つのシステムであるかのように運用できるようになることが今後の課題です。マイクロソフトは、まさにそこに向かって進化を進めているのが感じられます。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2013年11月20日