「SDN Japan 2013」レポート〜SDNでネットワークは変わる? 変わらない?:広がる! SDNの世界探訪(2)(3/3 ページ)
2013年9月18日〜20日に開催された「SDN Japan 2013」では、エンジニアとしての、そして事業者やユーザーとしての本音がかいま見えるパネルディスカッションが行われた。その模様の一部を紹介する。
2020年には東京中がSDNに?
SDN Japan 2013最後のセッションは、パネルディスカッション「SDNが拓く未来のICT環境とは」だ。実行委員長でもあるストラトスフィアの浅羽登志也氏がモデレータを務め、NECの加納敏行氏、ブロケードコミュニケーションズシステムズの小宮崇博氏、ミドクラの加藤隆哉氏、NTTコミュニケーションズの山下達也氏をパネリストとして迎えた。
加納氏は「SDNはまさに1st Generationの段階、多様性の時代にある。次に2nd、淘汰・新生の時代がやってくるが、何が消えて何が生まれるのか。それを予測することが非常に重要」と述べた。
加納氏によれば、次の世代のためには、(1)アプリケーション/サービス、(2)オープンプラットフォーム、(3)オープンテクノロジという観点で考えたとき、(1)非ネットワーク開発者に使ってもらうための環境を整備する、(2)安定・安全なオープンソースの提供とコミュニティのコントリビューション、(3)SDNのコンセプトと中長期技術ロードマップの構築が必要であるという。
小宮氏は、「『ハードウェアはコモディティ化するのでは?』と聞かれることが多いが、私もそのとおりだと思う。汎用的なチップを使ってソフトウェアでコントロールするというのは世の流れといえる。ソフトウェアに投資していくのが今後のビジネス。なぜなら、サーバ向けチップが頭打ちになっているチップベンダがハイパフォーマンスなネットワーク向けチップを作りはじめているからだ」と述べた。「SDN業界に投資して、市場を元気にしてほしい」
「SDNはいろいろな領域を包括しているが、Zigbee、6LowPAN、Bluetoothといった本当のエッジデバイスの領域には、まだ開発と参入の余地がある。ここの研究はおもしろいと思うし、実際に行っているところもある。また個人的には、例えばSDNとSDDCや認証サービスなどを組み合わせることによって、新しい価値・収益源を生むと考えている」(小宮氏)。
加藤氏は「SDNの未来とその可能性」というスライドを表示し、「IT/ICT産業に何をもたらすのか」「“SDN産業”となりうるのか」という疑問をキークエスチョンとして挙げた。
今のIT/ICT産業は、キャリア/ISP産業、ネットワーク産業、コンピュータ産業という3つの分野が切り分けられていて、それぞれユーザー向けにパッケージングして提供するという世界になっている。「そこにSDNというアーキテクチャがプラスされると、産業・既存構造のくくり直しが起きるのではないだろうか。どうなるかは分からないが、SDNが触媒となって産業の構造が変わる可能性がある。IT/ICT産業のプレイヤーやユーザーに変革を迫る、第二・第三のIT革命だと思っている」(加藤氏)
NTTコミュニケーションズの山下氏は、「社内では通信キャリアとして“自動化”“内製化”“オフショア化”を強く求められている。だからSDNに飛びついているという状況。OpenFlowのスイッチが1つあれば、いろいろなことができる。そうしたユースケースをどんどん出していくべきだと思っている。またキャリアやデータセンター向けのネットワークはなかなか進むのが遅い。その点で、SME/SOHO向けのソリューションという話は非常に興味深い」と述べた。また、「ポリシーの違いもあって国際相互接続はなかなかうまくいかない。インタードメインでのキャリアサービスの相互接続にSDNが使えるとありがたい」ともしている。
さらに山下氏は、もし同社が完全にSDNを活用する企業となったら「組織構造を変えないとSDNを使いこなせないだろう」とした。これは、加藤氏が述べる「業界の再編」縮図ともいえるのではないだろうか。
システムインテグレーションビジネスに影響も
まず浅羽氏が「技術や標準化の進む方向性」について尋ねると、加納氏は「これまでは標準化したものをみんなが使うという状態だったが、SDNではUNIXのように、ソースコードを配布するとみんなが使う、という世界に変わるのではないだろうか。問題は、国ごとにセキュリティやビジネスのポリシーが違うことで、それをSDNでどうやり取りするかという課題が残される」と答えた。
山下氏は「各キャリアが持つコントローラが横につながってポリシー交換などができるようになると、利用者もハッピーになるはずだ。とは言え、まだまだ議論がされていない、チャレンジングな領域だ」
続いて「SDNに何を足したらどんな新ビジネスが期待できる?」と浅羽氏が問うと、小宮氏は「VDI(Virtual Desktop Infrastructure)」を挙げた。「このためにはActiveDirectoryのような認証を外に出す仕組みが必要で、これをビジネス化できると思う」とした。
「理想のIT/ICT基盤とは?」という疑問に対して、加納氏は「コンピュータ、ストレージ、ネットワークが連動するものと考えれば、すべてがワンパッケージでローミングしてくれるサービスがほしい。ネットワークだけじゃなく、データやアプリもローミングしてくれればいいと考えている。ユーザーに環境が付いてくるイメージだ」と述べた。
山下氏は「SIerは、今キビしい環境にある。SDNで、部品を組み合わせるだけで顧客の要望が叶えられるようになり、SEが楽になって利益が出てくるといい。例えばイベントなどでは『1週間だけ100Gがほしい』といった要望が出る。帯域オンデマンドのようなものがいい」とした。
続いて浅羽氏は「オープンの文化が日本市場に合わないという声があるが」と尋ねると、加藤氏は「欧米のユーザーには、インソースで何とかしてしまうという文化があるのに対し、日本のユーザーはアウトソースしてしまう。そのため、SDNで水平分業化しても日本では使えないのではないだろうか。逆に、ユーザーが使えるところまでリパッケージするSIerが、スキルやノウハウを蓄積して生き残るだろう。その意味で日本特有の進化を遂げるかもしれない」と述べた。
「人を介在する運用を含めたサービスを“日本のこころ”として輸出したい」
SDNで“おもてなしTOKYO 2020”を
最後にコメントを求めると、加納氏はパネラー全員の意見として「せっかく2020年のオリンピックが誘致されたのだから、東京にSDNを入れてしまおう。全スタジアムを100ギガでつなぎ、すべての映像はクラウドに8Kで蓄積されて世界中から参照できる。そして、その成功例をパッケージとして海外に輸出できればよいと考えている。“おもてなしTOKYO 2020”をSDNの晴れ舞台としたい」と大きな構想を掲げた。
業界の最先端にいるパネリストらが、こぞって全東京のSDN化を目指したいという。いやが応でも7年後に期待してしまう。
OpenFlow 1.3の相互接続性検証は「前よりも簡単」――米イクシアのホー氏
Open Networking Foundation(ONF)の相互試験ワーキンググループ(Testing&Interop WG)でチェアを務めるマイケル・ホー氏(米イクシアコミュニケーションズ シニア・プロダクト・マネージャー)は、SDN Japan 2013の最終日に「テスターベンダから見たSDN/OpenFlowテストの必要性について」と題するセッションを行い、OpenFlowおよびSDNの相互接続性検証テストの現状と今後について紹介した。ONFでは、いわゆるSouthband APIの検証だけでなく、Northband API、あるいはマネジメントや光(オプティカル)といった分野も含めた大きな構想を描きつつ、テスト作業を進めているという。
同氏が所属するイクシアコミュニケーションズは、いわゆるテスターのメーカーだ。パフォーマンステストだけでなく、機器が標準仕様に準じて動作しているかどうかを検査するコンフォーマンステストのための製品も提供しており、2013年6月に開催された「Interop Tokyo 2013」では、ShowNetとSDN ShowcaseでOpenFlow 1.3に関する相互接続性の検証をデモンストレーションした。
ホー氏によると、実はOpenFlowの相互接続性検証作業は、分散型アーキテクチャに基づく従来のルータやスイッチなどよりも「簡単だ」という。というのも、BGPをはじめとするルーティングの検証では、機器それぞれの間で総当たり式に検証を実施する必要があった。しかし「OpenFlowの場合は、基本的にコントローラとスイッチとの間でのみ検証を行えばよい」(同氏)。
ただ、OpenFlowという仕様は、今なお拡張を続けている。Northband APIや東西方向のトラフィック処理、あるいはVXLANをはじめとするSDNを取り巻く他の仕様との共存も含め、取り組むべき分野はまだまだあるそうだ。
特に、現在ONFが直面している課題が「OEM、いわゆる管理機能だ。SNMPで求められていたのと同等の管理機能をOpenFlowも求めている。これをネイティブでどのように提供するか、マイグレーションワーキンググループで議論している」(ホー氏)。
また、繰り返しになるが、OpenFlowの仕様は拡張を続けている。バージョン1.3までに、マッチフィールドやパイプライン処理の方式、あるいは冗長性確保など、内容に多くの変更が加わっている。あらゆる面で拡張可能な仕様だけに、今後、それをどのようにハードウェアに載せていくか、拡張性とパフォーマンスをどのように両立していくかという部分も検討課題の1つだ。このテーマについては、インテルやブロードコムといったチップメーカーも加わったチップ・アドバイザリー・ボードで、最新のチップセットを活用しながらOpenFlowの進化に追随していけるよう議論しているという。
実装の形は、「コストとパフォーマンスの兼ね合いになるだろう。『そこそこのパフォーマンスを低コストで』となればソフトウェアが向いているし、パフォーマンスを重視するならばハードウェアになる。業界としては、その中間的なものを求めているように思う」(ホー氏)。
「ネットワークをプログラミングし、柔軟にパスを作成するという意味で、OpenFlowは最適な技術。ベンダ独立で、豊富な機能セットを備えている。ITサービスとデータセンターの最適化によって、新しいサービスや機能の実現を可能にするだろう」とホー氏。こうした活動を通じて、SDN、ひいてはNetwork Function Virtualization(NFV)も包含した、「エンドツーエンドのプロビジョニングが可能で、最適化された次世代ネットワークを実現していきたい」と述べている。
(編集部)
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