企業のIT基盤を変革する“クラウドOS”とは何か:Windows Server 2012 R2登場(1)(1/2 ページ)
2013年10月18日(日本時間17日)、Windowsの最新サーバOS「Windows Server 2012 R2」と統合管理ツール「System Center 2012 R2」が正式リリースとなった。前回のバージョンアップからまだ1年。この早いリリースサイクルは、ユーザーや管理者、開発者を少なからず動揺させているに違いない。本連載では、Windows Server 2012 R2とSystem Center 2012 R2の導入で、企業のIT環境やエンドユーザーの現場はどう変化するのか、新バージョンに実装された新機能を中心に探ってみる。
マイクロソフトは現在、“クラウドOS(the Cloud OS)”というビジョンに基づいて製品やテクノロジを開発、提供している。「Windows Server 2012 R2」は、そのクラウドOSの中心となる重要な製品だ。
マイクロソフトは数年前、同社のビジネス戦略のかじをクラウドへと切った。2010年にはPaaS(Platform as a Service)のパブリッククラウド「Windows Azure Platform(現在のWindows Azure)」のサービスを正式に開始した。2013年4月にはWindows AzureでIaaS(Infrastructure as a Service)のサービス「仮想マシン」を開始しており、サービスメニューの多様化をどんどん進めている。
「クラウドOSとはWindows AzureのOSなのか?」と言えば、そうではない。Windows Serverが従来担ってきた、マイクロソフトが「オンプレミス(社内設置型)」と呼ぶ企業内のIT基盤を支えるサーバOSとしての役割はこれまでと何ら変わらない。Windows Server 2012 R2は、クラウドとはまったく関係なしに、オフィスの片隅でファイルサーバとして利用することもできる。
一貫した1つのプラットフォームを提供
マイクロソフトの目指すクラウドOSのビジョンとは、仮想化、ストレージ、ネットワーク、ID認証基盤、運用管理、アプリケーション開発といった、現在のITを構成する要素に対して、マイクロソフトのクラウドであるWindows Azure、マイクロソフト以外のサービスプロバイダのクラウド、そしてオンプレミスのプライベートクラウドや従来型のIT基盤に、一貫性のある1つのプラットフォームを提供することである。IT基盤をパブリッククラウドとオンプレミスの両方に展開し、ハイブリッドな環境で運用することも可能だ。
クラウドOSの中心となるWindows Server 2012 R2は、サーバ仮想化テクノロジである「Hyper-V」が、一貫性のあるクラウド基盤を提供する。そのクラウド基盤の上では、Windows Serverはもちろん、LinuxやUNIXも動く。OSがWindows Serverであれば、Visual Studio 2013で開発したアプリケーションを、パブリッククラウドでもオンプレミスでも最適な場所に配置できる。.NET FrameworkやIIS/ASP.NETの一貫性のあるアプリケーション実行環境があるからだ。そして、「System Center 2012 R2」は、パブリッククラウド、オンプレミスのプライベートクラウド、および従来型のIT基盤に対して、一貫性のある、そしてハイブリッド運用が可能な統合管理環境を提供する。
クラウドOSという言葉にほんろうされる必要はない。従来のIT基盤を運用しているなら、それをWindows Server 2012 R2にアップグレードするだけでも、社員に対しては生産性を高める新たなサービスを提供し、IT基盤ではリソース使用や管理の効率化を図れるだろう。クラウド的なものはそこにはないが、そこから自社のIT基盤をクラウドに拡張していくことは可能だ。また、プライベートクラウドを構築したければ、必要なツールセットはSystem Center 2012 R2に含まれている。
アップグレードをお勧めする3つのポイント
Windows Server 2012 R2は、Windows Server 2008 R2 SP1以降のWindows Serverからのインプレースアップグレード(直接的なアップグレードインストール)が可能である。特に、既存のWindows Server 2012からは、運用中の構成やデータを維持したままスムーズにアップグレードできるはずだ。なぜなら、Windows Server 2012 R2のほとんどの役割と機能はWindows Server 2012ですでに実装されているもので、Windows Server 2012 R2では改善と新機能の追加が行われたに過ぎないからだ。OSとしてのコアな部分はWindows Server 2012からほとんど変わらないのである。
ではどこがどう変わるのか。筆者は次に示す「Hyper-V」、「ファイルサービスと記憶域サービス」、「BYODへの対応」の3つの分野に注目している。
最新のHyper-V
Windows Server 2012 R2には最新バージョンのHyper-Vが搭載される。Hyper-VはWindows Server 2008で初めて登場し、OSのバージョンアップとともにそのスケーラビリティと機能性を強化してきた。最新のHyper-Vの注目点は“第2世代”仮想マシンの登場と、クラウド基盤としてのHyper-Vの強化である。詳しくは、本連載第2回で説明する。
ファイルサービスと記憶域サービスの強化
Windows Server 2012では、物理層に近い記憶域サービスからアプリケーション層のファイルサービスまで、大幅に機能が強化された。例えば、記憶域スペース、シンプロビジョニング、データ重複除去、iSCSIターゲットサーバ、スケールアウトファイルサーバといった新機能である。Windows Server 2012 R2は、記憶域スペースでSSD(Solid State Drive)を利用したライトバックキャッシュと記憶域階層の機能を備える。
また、Windows Server 2012以降ではファイル共有プロトコルのSMB(Server Message Block)がSMB 3.0にバーションアップされ、SMB共有フォルダにHyper-Vの仮想ハードディスクやSQL Serverのデータベースを配置できるようになった。それぞれ、「Hyper-V over SMB」や「SQL Server over SMB」と呼ばれる機能だ。
BYODへ対応
Windows Serverはこれまで、Active DirectoryのドメインメンバーになっているWindowsクライアントPCやデバイスに対してさまざまなサービスを提供してきた。Windows Server 2012 R2では、ドメインメンバーではないPCや、ドメイン参加機能を持たないPCやデバイス(iOSを含む)に対しても、デバイス認証に基づいた社内リソースへのシングルサインオンアクセスを提供できる。この機能は、「社内ネットワーク参加(Workplace Join)」と呼ばれ、Active Directoryフェデレーションサービス(AD FS)の機能拡張とWebアプリケーションプロキシという新しい役割により実現される。
Windows 8/8.1のあのUIを採用
Windows 8では、かつては「Metro UI」、現在は「Modern UI」と呼ばれる、タッチ操作を意識した、まったく新しいUIが採用された。新しいUIは、Windows Server 2012以降のGUIにも採用されている。「サーバOSにこのUIはどうなの?」あるいは「サーバをタッチ操作する人なんているの?」という意見や疑問を聞くことがあるが、この機会に1つの回答(ただし、筆者の私見)を示しておこう。
Windows Server 2012以降のサーバは、「サーバーマネージャー」を使用してローカルまたはリモートから管理できる。基本的な管理作業は「サーバーマネージャー」だけで行えるし、詳細な構成や自動化はWindows PowerShellを使える。サーバOSにGUIはそんなに重要ではないのだ。実際、Modern UIのスタート画面を使う機会はほとんどないだろう。
Windows Server 2012以降のリモートデスクトップサービスは、セッションベース(旧ターミナルサーバー)および仮想デスクトップインフラストラクチャ(VDI)の機能が統合・強化されたことは、多くの読者がご存じのことだろう。セッションベースのデスクトップは、Windows Server 2012以降のサーバOSに対するリモートデスクトップ接続だが、ユーザーが操作するデスクトップはWindows 8やWindows 8.1と共通のエクスペリエンスを提供する。リモートデスクトップ接続時にもタッチ操作が可能なので、タブレット端末からも快適に使える。これが、サーバOSにModern UIが採用された、最大の理由だと筆者は考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.