初めてのクラウド導入、パブリック/プライベートクラウドの失敗しない選び方:事例:博報堂アイ・スタジオの高付加価値クラウドへの挑戦(2)(1/3 ページ)
集中するリリースタイミング、高可用性、高トラフィックへの対応……広告業界特有の過酷な経営環境変化に対し、デジタルプロモーション分野のスペシャリスト集団、博報堂アイ・スタジオはどう立ち向かったのか? IT担当者が語るプライベートクラウド導入体験記。
前回は、システム整備に一層のスピードと柔軟性が求められる広告業界のインフラ要件についてお話ししました。高可用性、高トラフィックへの対応など、弊社のインフラに求められている要件は、現在、多くの企業でも重視されているものです。そこで弊社がIaaSを導入した経緯や、実際に使って分かったパブリッククラウドのメリット/デメリットを、一つの参考としていただくべくユーザー視点でまとめてみました。
そのメリットをひと言でいえば、「ヒト」「モノ」「カネ」「ジカン」といわれるビジネスリソースのうち、「カネ」と「ジカン」の2つに対して圧倒的なパワーを持つことです。そこで弊社では「圧倒的なインフラ基盤であるクラウド環境は、今後、サーバー環境の中核を担う技術になるだろう。これは何としてもこの波に乗らなければいけない。パワー不足な面や、セキュリティ面の気になるところも、やり方次第では何とかなるんじゃないか」―― そんな感覚を覚えた辺りから、第三の選択肢としてプライベートクラウドの模索を始めていくことになるわけです。
ただ、「プライベートクラウドを導入する場合、何から手を付ければよいのか」「物理サーバーを運用してきた既存環境に対して、どのようなステップで導入するのか」「どういったものを導入するのか」など、いざ取り組もうとするとさまざまな疑問が噴出しました。そこで弊社では、その辺りから疑問や課題を整理して計画を進めていくことにしました。今回は、その導入までの経緯をご紹介します。
導入のステップと導入内容の検討
導入のステップを検討する上で、最初に配慮すべきは「すでにホスティング事業を展開している」ということでした。前回詳しく書きましたが、このホスティング事業とは、サーバーリソースの運用を担う一般的な意味でのホスティングではありません。弊社の場合、「広告からの誘導を受け止めるランディングページを支えるWebサイトの構築・運用をサービスとして提供する事業」のことを指しています。
言うまでもなく、これらは高負荷、高トラフィックの中での可用性が重視されます。プロモーションやキャンペーンを支えるWebサイトの構築・運用を担う弊社としては、クライアントの機会損失につながるような事態は、何としても避けなければならないためです。従来は社内の物理環境でこれを行っていましたが、インフラ整備のスピード、繫閑差への柔軟な対応を実現する上でIaaSの利用に乗り出し、さらに効率化するためにプライベートクラウドの導入を考えたわけです。
これから新たに事業を始める場合であれば、「世の中全体を見回して、ターゲット顧客や市場ニーズを考えていく」ことになったのかと思うのですが、以上のようなホスティング事業によって、すでに多数のクライアントが存在しています。そこで、サービス提供のインフラ刷新を検討するに当たり、まずは既存のクライアント調査から始めました。ステップとしては、以下のような具合です。
- クライアント調査、見込み客調査
- 今までの担当案件の見直しと仕様の確認
- クラウド製品の調査
- 管理者の観点によるクラウド基盤への機能要望のまとめ
- 初期の確保リソース量検討
- 収益シミュレーション
- RFPの策定
- インフラとベンダーの選定
- インフラとベンダーの決定
- 仕様調整・構築
- 勉強会やお披露目の準備
以下では、各項目についてどのようなことを検討したか、個別に振り返りたいと思います。
1.クライアント調査、見込み客調査
弊社のクライアントは全業種に存在しています。よって、クラウドやサーバー環境に対する考え方、そこに寄せるニーズも業界/クライアントごとに異なります。特に、クラウドアレルギーといいますか、黎明期に起こったいくつかの事故を懸念されているクライアントもありました。
よって、「パブリック/プライベートクラウドを導入する場合、その話をいつごろ報告すべきか」「どの程度の実績が出てから報告すべきか」など、クラウドに対する弊社とクライアントの温度感の違いに配慮することから始めました。
2.今までの担当案件の見直しと仕様の確認
「パブリック/プライベートクラウドを使う場合、それまで応えてきた各クライアントの要望に応えていけるのか」という課題もあります。オンプレミスでホスティング事業を行っていた際は、案件相談をいただく際、クライアント側のガイドラインにのっとったSLAの要望をいただくことなどもありました。こうした各社各様の要望に、クラウド基盤という新しいインフラ上でどう対応していくのかは非常に大きな問題でした。この辺りは社内に複数のユーザー部門が存在する皆さんも同様ではないでしょうか。
3.クラウドサービスの調査
新しいクラウド基盤を選ぶ機会が得られたので、チームのみんなで自分たちに合うクラウドを探すことになり、まずは多数のパブリッククラウド(IaaS)を調査しました。提供事業者は結構ありますし、それらを実際に使ってみることはクラウド基盤選定の上で非常に参考になりました。
それぞれチームスタッフが実際に利用してみて、各自の業務と照らし合わせ、「この機能は便利、使いにくい、絶対欲しい」といったように独自で調査を行いました。
少し手間は掛かるのですが、今後のインフラの方向性を決める大きなタイミングなので、「実際にサーバーを立ててみてどうだったか」「ネットワークの設定をしてみてどうだったか」「それらを変更してみてどうだったか」などを把握した他、仮想サーバーの増台、テンプレート化、インスタンスのコピーなど、一連の作業を全て行ってみました。
4.管理者の観点によるクラウド基盤への機能要望のまとめ
クラウド化により作業は効率化されますが、運用はチーム全員で回す作業です。サービスの利点を有効に生かす上では、スタッフそれぞれの考えの取りまとめも重要です。弊社の場合は、以下のような意見や疑問が交わされました。
もちろん、インフラ選択・導入・活用の方向性はプロジェクトの方向性を決める人が決定してもよいかと思うのですが、スタッフみんなでクラウドに対する考え方や機能要望を一度議論してみた方が良いでしょう。私たちは一度パブリッククラウドを使ってみた上で、以下のような項目について、それぞれの観点から感じたことを議論してみました。
- クラウドってこういうもんだろ論
- 世の中の将来的なインフラはこうなっていくんじゃないか
- 少し大きめのストレージ(10Tなど)が必要な場合は大丈夫なのか
- 物理サーバーとの連携ができるのか
- 導入実績はあるのか
- バックアップはどういう方式で取られているのか
- Webベースの管理画面は欲しいのか
- リソースの拡張方式と量や納期はどうなっているのか
- 回線の帯域はどの程度保証されるのか
- セキュリティは今までと同程度に保てるのか
基本的に、これらの情報はRFP作成やベンダー選定で必要になりますので、その意味でも、使用感、効果も含め、選定以前に一度議論をしておくべきかと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.