第5回 なぜ、まず「ストレージ仮想化」を検討すべきなのか:「攻めのIT」時代のストレージの基礎知識
「ストレージ仮想化」は、目新しいトピックではありませんが、まず取り組むべき有益な技術群だといえます。その理由を解説します
あらためてストレージ仮想化を取り上げる理由は、これがSDS(Software Defined Storage)の目指すものの一部を、すでに実現していることにあります。「今、ここにあるSDS」というわけです。最近、汎用コンピューターで動かすストレージソフトウェア製品だからといって、それをSDSと呼ぶメーカーやリセラーがいます。しかし、ソフトウェアベースのストレージ製品は以前から多数存在しています。ハードウェアコストを節約できるだけなら、「SDS」という言葉をわざわざ使う意味はありません。だいたい、それは「Software Based Storage」であり、「Software Defined Storage」という言葉が持つニュアンスからかけ離れています。
SDSという言葉の価値は、ストレージ運用に関する従来の制限を取り払うこと、そして、データ管理サービスを、必要なデータに対して柔軟かつ適切に適用できるようにすることを目指すという点にあります。ストレージ仮想化は、そうした機能を、部分的にではあるものの、現時点で提供しています。従って、SDSに真の意味での関心を持つユーザーは、まず現在のストレージ装置が備えるストレージ仮想化機能に注目し、その活用を考えるべきです。
ストレージ仮想化といっても意味は広いですが、ここではシン・プロビジョニング(Thin Provisioning)、ストレージ階層化管理、そしてストレージ仮想化アプライアンスを取り上げます。
あらためて、シン・プロビジョニングのメリットとは
シン・プロビジョニングでは、各アプリケーション(論理ボリューム)に対し、それぞれが現在利用している容量だけを割り当てることができます。一方、物理的なディスクストレージシステム上では、どの論理ボリュームにもまだ割り当てられていないストレージ容量は、全論理ボリュームに共通の空き容量としてプールしておくことができます。そして、各アプリケーションの必要に応じて、プールされた空き容量から払い出しを行うことができます。
従来は、アプリケーションごとに将来のデータ量増を予測し、保険として多めに容量を確保していました。ストレージに対して、無駄になるかもしれない大きな初期投資をしなければならなかったのです。ところがシン・プロビジョニングのおかげで、スモールスタートして、段階的に効率の良いストレージ容量の調達ができるようになりました。
ストレージ階層化管理も大きく進化している
ストレージの階層化という概念は、メインフレームの時代からありました。利用頻度が低下したデータは、順次、より安価な記憶媒体に移動させるというものです。しかし、当時の階層化管理では、ボリューム単位でのデータ移動しかできませんでした。一方、現在注目されているストレージ階層化管理は、ブロック単位できめ細かな記憶媒体間の自動的な移動を実現しています。単一アプリケーションを構成するさまざまなデータについて、アクセス頻度などに応じて、フラッシュ、SAS HDD、SATA HDDなどに、自動的に配置するようになっているのです。
これにより、フラッシュのような、現在のところ高価な記憶媒体を、必要なデータに対して効率的に適用できるようになります。また、フラッシュを使ったストレージと、HDDを使ったストレージとの間で、意識的にデータを分割配置して運用するような手間が省けます。
この技術は、アクセス頻度による自動配置に限らず、ある時期に高速なストレージI/Oが必要になると分かっている処理に、高速なストレージ媒体を割り当てるためにも活用されています。例えば、夜間バッチや期末の処理量が増える業務、ストレージの更改に伴うデータ移行の高速化などに生かされています。
SDSの現実解としてのストレージ仮想化アプライアンス
ストレージ仮想化アプライアンスにも、技術的にいえば細かな違いはありますが、ここではサーバーと物理ストレージ装置の間に挿入して利用するアプライアンスに限定することにします。こうしたアプライアンスは、配下に接続されたストレージ装置の、いわば「頭脳」になります。これらのストレージ装置を、素の記憶媒体のように扱い、全てを束ねて1つの論理領域を構成することもできますし、複数の論理領域に分割することもできます。いずれにしろ、サーバーやアプリケーションからは、ストレージ仮想化アプライアンスしか見えません。
こうした製品の大きなメリットは、ストレージ装置間のデータ移行が楽に行えること、そして、バックアップやレプリケーションをはじめとするデータ管理サービスを、多様なストレージ装置に対して、共通に適用できるようになることです。アプライアンスの機能によっては、複数装置にまたがったデータ階層化管理も行えます。
デメリットとして、配下に接続されたストレージ装置が、どれほど高度な機能を備えていても、これらを生かせなくなってしまうことや、ストレージ仮想化アプライアンスを全てのストレージI/Oが通るため、これがパフォーマンス上のボトルネックになりがちなところにあります。
それでも、既存のストレージを生かしながら、物理的なストレージ装置の持つ制約をある程度取り払うことのできるストレージ仮想化アプライアンスは、SDSの現実解として検討する余地が十分あります。
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