第37回 転職成功とはまだ言えない――ユニクロの店舗システムを支える女性エンジニアの真意:マイナビ転職×@IT自分戦略研究所 「キャリアアップ 転職体験談」
「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなたのキャリアプランニングに、ぜひ役立ててほしい。
結果はまだ言えない、なぜなら……
「転職が成功したかですか? 結果はまだ言えません」――そう言って、にこやかに笑うのは、誰もが知るカジュアルウエアブランド「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングで働く、沼澤園生(ぬまざわそのお)さんだ。
新卒で大手外資グループの金融SIerに就職。その後自分を見つめ直し転職を決意、2013年2月にファーストリテイリングに入社した。そんな沼澤さんに、転職のきっかけと今を聞いた。
【転職者プロフィール】
沼澤園生さん(29歳)
株式会社ファーストリテイリング
業務情報システム部(2013年2月入社)
【転職前】
大手外資グループの金融SIerにて、SEとして金融系システム開発プロジェクトの要件定義を担当
↓
【転職後】
ファーストリテイリングにて、店舗にて要員計画や人件費、シフトを管理ができるシステムを担当。各店舗の店長と連携を取りながら、改善に取り組む
超文系な学生時代
現在ファーストリテイリングのIT部門で働く沼澤さんは、学生時代は「PCなんて全くダメ」だったそうだ。「商学部で株や経済を学びました。特にグローバル企業の状況などに興味がありました」。ITとはまったく接点がなく、「PCはWordも使えないレベルで、卒業論文では英文を全角で書いて怒られました」と笑う。
そんな彼女が就職先として選んだのは、大手外資グループの金融SIerだった。「『課題』に対し何かを変えられるような仕事をしたい」と考え、外資系のIT企業を選んだという。「エンジニアとは、自分で問題を見つけ、システムで課題解決をする人たちだと考えていました。ITはいわゆる『3K』的な仕事だとは知っていましたが、そうなるかどうかは自分次第なので」。
就職してからプログラミングを覚えた。研修で習ったのはJavaだが、金融系の基幹システムのメインはCOBOLだ。中国・大連に行く機会もあり、マネジメントの手法も学んだ。入社2年目にはお客さまとの要件定義の打ち合わせに参加できることになった。
「それまでお客さまとは距離がありましたが、直接会って話をするようになって、多くのことを学びました」。エンジニアは上司が守ってくれるような職種ではなく、自分が要件をきっちり定義しなければならない。たとえ若手でも、お客さまにとっては一人前のエンジニアだからだ。「『責任とは重いものだな』と実感しました」。
責任もあるが、やりがいもあった。「何をシステムに盛り込むべきか、優先順位はどうすべきか、お客さまも迷います。その考えを整理して、提案できるのは楽しかった」と沼澤さんは振り返る。「もちろん、緊張もしましたけれど」。
結果が見える仕事をしたい
若くして金融系システム開発の要件定義を担当し、責任とやりがいのある日々を送っていた沼澤さんは、26歳となった2013年に転職した。エンジニアとしてある意味王道を歩んでいた彼女が転職を考えるようになった背景には何があったのだろうか。そこには、彼女なりの考えがあった。
金融系のシステムは「できて当たり前」の世界。正確でなければならないし、決まったことの実行に意義がある。自分なりの「付加価値」を付けるのは御法度だ。「金融系にオリジナリティは不要なんです」。そして大規模プロジェクトならではの、期間が長いこと、つまり「自分のやったことの結果が見えない」ことも不満の一つだった。
もう一つ、転職を考えるきっかけとなったのは「ライフスタイル」の問題だ。当時、沼澤さんの残業時間は過剰な状態が続いていた。朝8時に出社して、客先でのレビューが深夜からスタートするなど、激務だった。肉体的にも精神的にも余裕のない働き方で、「そこまでやる必要があるのだろうか?」と思ったという。「結婚」というライフイベントも意識していたので「ちゃんとした環境に身を置かなければダメだ」と思った。
転職活動は、「働く環境が良いこと」「課題解決ができること」「自分が何をやっているのか、成果が分かること」「短期で結果がでること」を希望条件として行った。転職エージェントや転職サイトを使って活動を行い、社長の著書を読んで考え方に共感したファーストリテイリングに転職することにした。
ユニクロ店長のライフラインに携わる
ITを専門に扱う企業ではなくアパレル企業を選択したことについて、沼澤さんは「面白い業種の中で、今までのキャリアが生かせるのは、一般企業のIT部門ではないかと思いました」と言う。「ユーザーとも近いから、楽しそうだし、分かりやすそうだと思いました」。
沼澤さんは現在、ユニクロ店舗で店長が利用するスタッフ管理システムに携わっている。「今の仕事は、とにかく『反応が早い』です。システムに変更を加えると、店舗からすぐにレスポンスが返ってくる。金融系だとこうはいきませんでした。今になって気が付きましたが、正直に言うとこれまではちょっと『退屈』だったのかもしれません」。
沼澤さんが携わっているのは、店舗スタッフのシフトスケジュールを組んで、人件費を管理するシステムだ。「このシステムでスタッフの過剰労働や人件費の使い過ぎなどが分かります。また、店長は稼働計画を組んだ上で、人員が足りなければスタッフを採用するといったアクションにつなげられます」。
沼澤さんは、実際に店舗に向かい、繁忙期には現場で販売スタッフとして手伝うこともあるという。「店長にストレスなく使ってもらって、安定運用ができるようにしないといけません。現場の店長は『店舗で働いたこともないような本社の人間が……』と思うかもしれませんが、システムに関しては店長よりも業務に詳しく、提案できる自信もあります」と話す。沼澤さんの目は真剣だ。
辞めるときが一番、仕事が楽しかった
ここまで聞くと、金融系SIerへの就職は失敗で、アパレルへの転職は大成功だったのではないかという印象を受ける。しかし、沼澤さんは意外な反応を見せる。
「最初の就職は失敗だったとは思いません。自分で選んだ仕事です。確かに、自分には合わないと思ったこともありますが、仕事に自分を合わせることも必要だと思います。自分に合わないから転職だという考えでは次につながらない。だから、転職活動をしながら、『今の仕事の良いところや楽しいところ』をたくさん考えました」。
そんな考えの持ち主だから、転職活動終了時には、自己分析をきっちり行い、仕事の意義や喜びを理解していた。「(前職では)辞めるときが一番、仕事が楽しかったかもしれません」と述べる。
転職は「まだ」成功していない
ファーストリテイリングは今、極力残業をしない働き方を全社的に推進している。勤務時間8時間をどのように使うのかは、個々の社員に任されている。
システムの運用を任されている沼澤さんにとって、それはときに難しい問題でもある。実際システムトラブル時は残業して対応せざるを得なかった。そのとき上司が「まずやれること、やれないことを決めること」と言ってくれた。
「ファーストリテイリングは、いろいろなことを自分で決めなくてはならない会社です。自分の仕事が何なのかは、他の会社に比べ不明確だと思います。だからこそ、ここでは『言われたからやる』のではなく、限られた時間の中で、何を『やるのか』だけではなく『やらないのか』も自分で判断しないといけません。これに気が付くまで2年くらいかかりました。それまでは、かなり悩みました」。
最後に沼澤さんに、この転職は成功だったかと聞くと、しばらく考えてから「結果はまだ言えません」と答えた。
「成功だった」とはまだ答えられないとのことだが、「転職して良かった」ことは否定しない。「自分にとっては、家族との時間も増やせたし、成長できる環境にも出会えました。でも、まだ不完全。組織に対して自分ができることがまだあると思うのです。この点に関しては、終わりはありません」。
ファーストリテイリングに入社したときの人事部の資料に「しっかりしている人」と書かれていたという沼澤さんは、自分がシステム、企業、そして社会に何ができるのかを常に考えている。「これまで聞いてきた店舗の要望を基に、自分の付加価値を考えながら、新しい仕組みを作り上げたい」と沼澤さんは話す。その目には、大きな自信と希望が隠れていた。
業務情報システム部 部長 岡田章二さんに聞く、沼澤さんの評価ポイント
面接の際はこれまでの主な言語経験がCOBOLしかなく、スキルや技術面で十分とは思えませんでした。しかし、本質的な理解力や地頭の良さから、成長できそうなポテンシャルを感じて採用を決めました。
入社半年ぐらいたって、領域のリードをお願いするようになってから、私の期待以上の成果を見せてくれるようになりました。正直驚きました。
沼澤さんは、現場の立場で思考し、難しい課題でも最後まで進めてくれます。少々責任感が強過ぎて、無理をし過ぎてしまう面が上司としては心配ですが、一緒に問題解決について議論できる頼もしいパートナーです。
今後も大きく成長し、この会社で自己実現してくれると確信しています。
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