「ウオーターフォールかアジャイルか」ではなく「目的に最適かどうか」、“本質を見極める視点”が勝負を分ける――グロースエクスパートナーズ:特集:アジャイル時代のSIビジネス(3)(1/3 ページ)
クラウドの浸透などを背景に、「SIビジネスが崩壊する」と言われて久しい。だが顕在化しない“崩壊”に、かえって有効な手立てを打てず不安だけを募らせているSIerも少なくないようだ。本特集ではSIビジネスの地殻変動を直視し、有効なアクションに変えたSIerにインタビュー。SI本来の在り方と行く末を占う。
ビジネス展開に一層のスピードと柔軟性が求められている今、それを支えるシステム開発・運用についてもクラウドネイティブな技術、新しい技術が注目を集めている。だが言うまでもなく、最新の技術を使えば全てを解決できるわけでもなければ、技術そのものが課題を解決してくれるわけでもない。技術を選び、使いこなし、正しく適用する、すなわち人の力があって初めて、技術は意味を持つ。また、それがSIer本来の能力、役割ではなかったか――。
今回は、グロースエクスパートナーズ 執行役員 アーキテクチャ事業本部長 兼 ビジネスソリューション事業副本部長の鈴木雄介氏にインタビュー。SIerにとって「本当に大切なこと」を聞いた。
「ITの戦略的活用」で企業に歴然とした差
「顧客と共に成長して行くパートナー」を意味するグロースエクスパートナーズは2008年に設立。システムコンサルティング、システムインテグレーション、Webマーケティングなどのクリエイティブプロデュースを主事業として、大規模なエンタープライズ企業を中心に、製造、流通、金融、医療、通信といった各業種に顧客を持つ。「持続可能な革新をもたらすICTサービス提供」を目指し、ウオーターフォールに象徴される伝統的なSI手法にも対応しながら、顧客企業のビジネス目的に応じて必要なプラクティスや技術があれば進んで取り入れる、柔軟な開発体制を1つの特徴としている。
同社執行役員 アーキテクチャ事業本部長 兼 ビジネスソリューション事業副本部長を務める傍ら、日本Javaユーザーグループ会長、日本Springユーザーグループ幹事などのコミュニティ活動でも知られる鈴木雄介氏は、「SIビジネス崩壊」などと指摘されている近年の状況について、次のように話す。
「SIはソフトウェアの開発力を外部に持つという、日本企業における歴史的経緯の下に生まれた業種です。受託開発というビジネスモデルやSIという概念をなくす必要はありませんし、なくなることもないと思います。まだ非効率なところも少なくありませんが、今置かれた状況の中で、顧客企業のビジネス目的を支援する上では何をどう効率化すべきなのか、より良いシステム提供を目指して、日々取り組み続けられるか否かが重要だと考えます」
IT投資の回復傾向も受けて、現在は同社も含め、増収を続けるSIerは多いが、好況がこのまま継続するとは見ていない。「今の好況はリプレースのタイミングと景気の追い風を受けているだけであり、需要が一巡する来年から再来年にかけては、期待するほど需要は伸びない状況になっていく」と考えるためだ。ただ、リプレース・改修案件が中心的な中でも、ユーザー企業のニーズは着実に変わりつつあるという。
「速く、安くというニーズは昔から同じですし、既存システムの改修要望も依然として多いです。しかし大きく変わってきたのは、“ITを戦略的に使う”ことができる企業と、それが苦手という企業の差が歴然とし始めていることです。実際に、多くの経営者の方がそうした課題認識を抱いていると思います」
この「ITの戦略的な活用」とは、「売上への寄与」や「コスト効率向上」といった目的に対して、「ITには何を任せ、人は何をやるべきかをきちんと考え、実行すること」だという。エンタープライズでは、ビジネスの全てをITだけで回せるわけではなく、人が手をかけなければ、サービスとして、ビジネスプロセスとして完結しない場合が多い。よって、ビジネス目的を達成するためには、単にシステムを導入するのではなく、ビジネスプロセスにしっかりと埋め込む必要があるわけだ。
「実際、単に『システムを開発して納品してほしい』ではなく、『企業として変わっていくために、パートナーとして協力してもらえないか』という形で、数多くのご依頼をいただいています。エンタープライズは人がいないとビジネスが成り立ちません。そこを顧客企業と共に考えながら、いかにより良いビジネスプロセスに変えていくか。ここを担えることがSIerという仕事の面白いところです」
関連記事
- なぜDevOpsは正しく理解されてこなかったのか?〜ベンダーキーパーソンが徹底討論〜(前編)
IoTやFinTechトレンドの本格化に伴い、DevOpsが今あらためて企業からの注目を集めている。だがDevOpsは、いまだ正しい理解が浸透しているとは言いがたい状況だ。そこで@IT編集部では、国内のDevOpsの取り組みをリードしてきた五人のベンダーキーパーソンによる座談会を実施した。前後編に分けてその模様をお伝えする。 - 若手は居場所をなくさないために積極的に主導権を取れ――今のSIerの現実
本連載では、システムを外部に発注する事業会社の側に立ってプロジェクトをコントロールし、パフォーマンスを最大化するための支援活動をしてきた筆者が、これまでの経験を基に、プロジェクト推進の勘所を解説していく。 - 「アジャイルか、ウォーターフォールか」という開発スタンスでは失敗する理由
ビジネスにアジリティが求められている現在、システム開発にも一層のスピードが求められている。だが最も大切なのは、各開発手法の是非ではなく「役立つシステム」をスピーディに開発すること。ただ速く作ることではない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.