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ヴイエムウェアのマルチクラウド戦略は、DevOps時代の情シスの役割を支えられるか「vCloud Airの次」とは

ヴイエムウェアは今後数年をかけて、マルチクラウド管理関連製品を拡充し、将来の事業の柱にしていくという。具体的に何をやろうとしているのか、同社Software-Defined Data Center部門担当上席副社長兼ゼネラル マネージャのRaghu Raghuram氏に聞いた。

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 米ヴイエムウェアは、2016年に入って、「vCloud Airの次」を語り始めている。5月20日に、CEOのPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏が来日した際に語ったのは、「マルチクラウド戦略」だった。

 ヴイエムウェアはこれまで、プライベートクラウドについてはVMware vSphere、パブリッククラウドについては自社のサービスであるvCloud Air、および同社プラットフォームを採用したパートナーによるサービスのvCloud Air Networkを念頭に置き、「Software Defined Data Center」という言葉に同社のハイブリッドクラウド戦略を含めてきた。

 だが、Gelsinger氏は2016年初め、同社の業績説明カンファレンスコールで、vCloud Air Networkについては今後も力を入れていくものの、vCloud Airについては、フォーカスを絞って提供していくと宣言した。これ以降、同社はマルチクラウド戦略について語るようになっている。

 来日したGelsinger氏に、「パブリッククラウドではAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureが急成長し、多くの企業が利用するようになってきている。(マルチクラウド戦略について語る前提として、)この事実を受け入れ、その上で自社の価値を発揮するということなのか」と聞くと、そうだと答えた。

 ヴイエムウェアは、今後数年をかけて、マルチクラウド関連事業を柱に育てていく。社内データセンターに加えてクラウドを対象とし、これまでと同様な価値を生み出していくのだという。

 「VMware vSphereは非常に大きな魅力を持った製品であり、このために多くの企業に使われてきた。10台のサーバを1台にまとめられ、サーバのプロビジョニングにかかる時間は月単位から分単位に短縮された。そしてコンパック、デル、HPなど、どの会社のサーバであっても、vSphereを動かしている限り関係がなくなった。ヴイエムウェアが有名になった理由はここにある。

 私たちは今後、(クラウドを対象として)これと同じことをもう一度実行する。複数のクラウドを、均質に安全で十分に管理された環境にすることだ。企業がAzure、AWS、IBM、富士通などのクラウドサービスを併用していたとしても、これらは全て顧客にとってリソースだととらえることができる。ヴイエムウェアはこれらを安全に管理できる環境に変える。これがヴイエムウェアの未来だ」

 このマルチクラウド戦略において、VMware NSXが重要な役割を果たすことは明らかだ。この製品では、まもなくAWSやAzureなど、オンプレミスと複数のパブリッククラウドにまたがる、まさにマルチクラウドの仮想ネットワークを実現する。そして、単に複数クラウドを含めた単一のネットワークを構成できるというだけではない。同社が「マイクロセグメンテーション」と呼ぶ仮想ネットワーク内のさらにきめ細かな論理分割により、ネットワークセキュリティを積極的に高められる。また、各種のセキュリティ製品と連携して、各種のセキュリティ機能を特定の論理ネットワーク空間(あるいはアプリケーション)に、選択的に適用できるようになる。

 一方、マルチクラウド管理製品についてはどうだろうか。

 ヴイエムウェアには「vRealize Automation(vRA)」というクラウド運用自動化ソフトウェアがある。セルフサービスポータルを提供するとともに、アプリケーションをパッケージ/スクリプト化して、デプロイ作業を自動化する機能を備える。vRAはvSphereのみならず、AWSへのアプリケーション投入も自動化できるようになってきており、「パブリッククラウド対応」が進みつつある。だが、こうした機能だけでは、ヴイエムウェアの事業の柱といえるほどの価値が提供できるとは思えない。

 そこで、Gelsinger氏と共に来日したSoftware-Defined Data Center部門担当上席副社長兼ゼネラルマネージャ、Raghu Raghuram(ラグー・ラグラム)氏に、ヴイエムウェアのマルチクラウド戦略は具体的にどのような技術・製品を目指しているのかを聞いた。

各クラウドサービスの機能を生かし、ポリシー管理を実現する


Software-Defined Data Center部門担当上席副社長兼ゼネラルマネージャ、Raghu Raghuram氏

 ヴイエムウェアのマルチクラウド戦略における管理とは、現在のvRAの拡張に過ぎないのだろうか。

 Raghuram氏はこれを否定する。「DevOpsの時代における情報システム部門の役割とは何か」という命題に応える製品に進化するのだという。

 「vRAではAWS対応を強化したし、まもなくAzureにも対応する。だがこれはマルチクラウドを実現する手段の1つに過ぎない。真のマルチクラウド対応を目指すなら、社内の開発者とクラウドサービスAPIの間に割り込まずに済むようなやり方を見出す必要がある。現在のクラウド管理製品に見られるアーキテクチャの欠点は、クラウドのAPIを抽象化してしまい、あたかも単一のクラウドであるかのように見せることだ。それだけでは十分でない」

 「(社内の)開発者は、それぞれの理由でクラウドを選択し、そのAPIを使う。AWSのAPIが使いやすいから、AWSを使うという人は多い。開発者はクラウドAPIを直接使うことを望んでいる。これを隠してしまっては意味がない。顧客企業が求めているのは、アプリケーションのデプロイメントを開発者に任せる一方、アプリケーションやポリシーを企業として管理できるような仕組みだ。顧客企業は私たちに開発者をコントロールすることを望んでいない」

 そこでヴイエムウェアのクラウド管理製品は今後、コントロール機能に徹するのだという。Raghuram氏はこれを、ネットワーク製品に例えて説明する。

 「ネットワーク製品には、データプレーン、コントロールプレーン、管理プレーンがある。データプレーンは、ポートAからポートBにパケットを転送する機能だ。コントロールプレーンは、ルーティングテーブルなどを設定する機能、管理プレーンは、このネットワーク環境をモニターする機能だ。クラウド利用では、アプリケーションがサービスと接続する。これがデータプレーンだ。コントロールプレーンでは、アプリケーションが適切なサービスと接続できるようにし、このアプリケーションが特定のサービスをどれくらい使えるのかを制御するなどの機能を果たす。将来の情報システム部門は、アプリケーション自体ではなく、ガバナンス、セキュリティ、コントロールに責任を持つことになる」


複数のクラウドにまたがる共通基盤をつくる。だがあくまでもセキュリティや全体管理、ガバナンスだけを提供する

 将来のヴイエムウェアのクラウド管理製品では、複数のパブリッククラウドサービスにわたり、「開発者にどのサービスのどのような機能の利用を許すのか」といった権限管理の機能を提供する。また、利用状況を計測し、コスト配賦や全体的なコスト最適化にも生かせるようにしていく。

 権限管理については、例えばAWSには「Identity and Access Management」という機能がある。ヴイエムウェアの将来製品では、こうした各パブリッククラウドサービスの機能を、企業社内で運用されているActive Directoryと結び付け、中立的な立場から、これら全てから独立したポリシーの設定・適用機能を提供していくという。

 また、このポリシー管理機能を通じてVMware NSXの設定を制御することにより、企業の社内データセンターと複数のクラウドサービスにまたがる単一の論理ネットワークを構築した上で、その内部をきめ細かく分割できるようになる。

 ヴイエムウェアはこのマルチクラウド戦略を、数年にわたり段階的に製品として実装していくという。2016年にはネットワークとマルチクラウド管理で初期の機能を実装し、これをさらに強化していく。さらに2017年をめどに、ストレージ関連でもマルチクラウド対応の新たな仕組みを提供するという。

 2015年にRaghuram氏にインタビューした際、同氏はActifioが提供しているようなコピーデータ管理などに非常に興味があると語っていた。では、クラウドをまたがるデータ散在の問題に、具体的にはどう対応しようとしているのか。

 「今後に向けたデータプラットフォームとして面白いのはクラウドだ。そこで私たちは、『クラウドでVMware VSANに何ができるのか』を新たなテーマとして考えている。その答えを知るには、今年ではなく、来年(2017年)のVMworldに来る必要がある」

 しかし、VSANは(技術的にいって)VMwareのためのストレージではないかと聞くと、「どんなことでも起こり得る。ソフトウェアだからだ」とRaghuram氏は答えた。

 「既に話した通り、私たちは、『顧客企業が自身の利用しているITリソースを、どこに存在していてもコントロールできる』ようにすることを支援したいと考えている。そしてデータは、ITリソースの重要な要素だ」

 具体的にどのような姿になるのかは、まだ開発の初期段階であるため言えないという。だが、単なるデータ仮想化でもないし、クラウド上にストレージソフトウェアを動かすということでもないとRaghuram氏は断言する。一方、「VSANの価値は、アプリケーションとひも付いた形で、データの制御と管理をすることだ」と話し、メタデータ管理を軸に、ストレージ管理の新製品を開発していることを匂わせている。

情報システム部門の今後の役割とは何なのか

 「私たちのマルチクラウド戦略は、ネットワーク製品だけでもない。管理製品だけでもない。ストレージ製品だけでもない。全てが統合された、『IT(全体)を対象とするコントロールプレーン』だ。現状では、誰もこうした機能を提供していない。とてもユニークな取り組みだ」とRaghuram氏は続ける。

 「ポイントは、『将来のDevOps時代における情報システム部門の役割とは何か』を考えることにある。開発者はどのようなクラウドサービスにも、プログラマティックにアクセスできるようになってきた。情報システム部門の管理外で、こうしたサービスを用い、アプリケーションを構築できる。では、情報システム部門の今後の役割とは何なのかということだ」

 ヴイエムウェアは、同社の顧客と将来の情報システム部門のあるべき姿について語り合い、その結果をソフトウェアとして実装しようとしているのだという。

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