もしも、ギークタレント池澤あやかさんが実在の有名IT企業に転職するとしたら?――エンジニアなら、誰しも興味があるのではないだろうか。
本連載はそんな架空の設定の下、池澤さんにさまざまなIT企業で「エンジニアとして」面接を受けてもらう。
前回、転職準備を終えたばかりの池澤さん、今回はいきなり「Yahoo! JAPAN」でおなじみのインターネットサービス界の巨人「ヤフー」に応募すると言いだした。
ヤフーは2016年10月1日に、東京ガーデンテラス紀尾井町に移転したばかり。同時に、春の新卒一括採用を辞め、30歳以下であれば誰でも通年応募ができるようにした。年間で約300人採用していく方針だという。
池澤さんの転職活動にピッタリのタイミング。ならば応募しないわけにはいかないだろう。
池澤あやか大ピンチ! ヤフーの入社の実態は??
いきなり、オフィス内の個室に通される池澤さん。案内するのは、執行役員 CMO(チーフ モバイル オフィサー)の村上臣氏だ。
マンションの1室かと思いきや、そこは村上氏の執務室だった。村上氏とはヤフーが主催する開発イベント「Hack Day」を通じて面識がある池澤さん。どうやら妙案を思いついたらしい。
「村上さん、私をヤフーで雇ってくださいませんかっっ! ヤフーってコネ入社が存在したりしないんですかね?」(池澤さん)
いきなり直球勝負に出た池澤さん。
そのストレートさに一瞬たじろぐ村上氏だったが「残念ながら、当社にコネ入社の枠はありませんよ(笑)」と冷静なお答え。わずか数秒で玉砕した池澤さんであった。
しかし村上氏によると、コネ入社はないけれど「社員紹介制度」ならあるとのこと。これは、同社の社員が同社に入社を希望する人を紹介するというもの。ただし、いわゆるコネ入社と違い、一般応募と変わらぬ選考過程を通過する必要がある。社員からの紹介であることは、ある程度考慮されるものの、同社の採用基準に満たなければ、もちろん不採用だ。
この話を聞いたとたん、池澤さんの瞳に再び希望の光が満ち溢れた。
「村上さんぐらい偉い人からの紹介だったら、絶対採用されるんじゃありませんか?」(池澤さん)
しかし、そう甘くはなかった。村上さんによると、「あはは、役職は関係ありません。実際に、僕からの紹介で不採用になった人もいますよ」とのこと。
「そもそも、池澤さんは、ウチでどんな仕事に就きたいの?」という村上氏の問いに「企画もできるエンジニアです!」と即答する池澤さん。
「なるほど。池澤さんだとフロントエンジニアかな。わが社はPHPでの開発が多いけれど、Rubyのエンジニアももちろん募集していますよ」と村上さんは求人状況について説明してくれた。
ヤフーは、Webデザイナー、フロントサイドやサーバサイドの設計・開発、システムインフラの設計・構築、データサイエンティストといったエンジニアから、サービス企画、各種営業、マーケティング、人事に至るさまざまな職種を常時募集している。現在、同社の採用サイトには120種類以上もの職種の情報が掲載されている。
その理由は「スピード感を保つために、できるだけ内製化しよう」という同社の方針にある。例えば新たなデータセンターを建設する場合は、土地の調達から自社で行っているという。村上氏の言葉を借りれば「物理層(レイヤー1)のさらに下、レイヤー0の仕事もあります(笑)」ということだ。
「120職種以上……! そんなに募集しているなら、私が入れるところもありそうですね」、とほほえむ池澤さん。
いやいや、池澤さん。120種類といってもエンジニア以外の職種もかなりあるんですってば……。ともあれ池澤さんは、村上氏からの社員紹介制度で採用面接に臨むことになった。
「人事担当者には、僕からもよく言っておきますよ(ニヤリ)」との村上さんの言葉に、少し勇気付けられたのであった。
採用責任者vs.うつくし過ぎるプログラマーのガチ面接
いよいよ面接が始まる。
面接官はヤフーの採用責任者、コーポレート統括本部 人財開発本部 人財採用部長の金谷俊樹氏だ。切れ味鋭く、社内では“カミソリのダニ”という別名があるとかないとか………。
「はじめまして。池澤あやかと申します」
転職活動はもちろん就職活動の経験もない池澤さんは、本格的な採用面接が初めて。あいさつの後何から話し始めればいいのか分からず、静寂とともに気まずい雰囲気が面接室内に広がった。
「お話は村上から聞いていますよ。エンジニア志望ということですね。まずは、これまでの職務経歴をお聞かせください」と、金谷氏が助け舟を出してくれた。
そこで池澤さんはこれまでの職務経歴を自己紹介。360°カメラで撮影した写真を傘の内側にプリントするサービスについて話しだした。
すると金谷氏、「その仕事で1番苦心したところはどこですか?」
「コンセプトを固めるところです。360°撮影できるカメラを対象にしたサービスだとユーザー数が自ずと限定されてしまうため、普通のデジカメで撮影した写真も使えるようにしてはどうかという意見が後から出されました。しかしそれでは、もともとのコンセプトが失われてしまいます。そういった意見を調整しながら魅力あるサービスを生み出せたと思います」(池澤さん)
金谷氏が質問を変えてきた。「その仕事でご自身が最も貢献したと思えるところはどこですか?」
「貢献……ですか。どこだろう? やっぱりアイデア出しの段階でしょうか。360°撮影できるカメラの特徴を生かして、今までにないサービスを考え出すというところだったと思います」(池澤さん)
金谷氏の次なる質問は「エンジニアとして、ヤフーのサービスをどのように変えていきたいですか?」という、より突っ込んだものだった。
「え! ヤフーのサービス? どう変えよう? え、変えるの? 私が?」(池澤さん)
これは完全に想定外の質問だったようで、戸惑いを隠せない様子の池澤さん。もっと企業研究しておけば良かったという後悔と、何か答えなきゃという焦りから、なかなか言葉が出てこない。
ここでまたもや金谷氏の助け舟が。
「では、ヤフーで、どのようなことを実現していきたいですか?」と、自分目線で考えられるよう質問を置き換えてくれた。これならば池澤さんも堂々と答えられる。
「これまでもいろいろなサービスやコンテンツを作ってきたので、ヤフーでも、人をビックリさせたり、笑わせたりするようなコンテンツを作っていきたいです」(池澤さん)
金谷氏がさらに問う。「そうしたコンテンツを作ることで、どのようなことに貢献できると考えますか?」
「何かとストレスの多い世の中なので、驚きや笑いで多くの人たちのストレス解消や癒やしにつなげます。ヤフーはユーザー数が多いので、そうしたコンテンツを、より多くの人に届けられると思います」(池澤さん)
最後の答えは上出来のように見えたが、果たして……。
金谷氏のワンポイントアドバイス
- 企業研究は大切。商品やサービスの課題なども自分なりに見つけておくべし
- 自分を採用したらどのようなメリットがあるのかを言語化しよう
採用! 不採用?――面接の結果やいかに
いよいよ結果発表だ。金谷氏に、池澤さんをエンジニア志望の応募者としてご判断いただく。
「まことに残念ですが、不採用です」(金谷氏)
金谷氏の厳しい言葉に、落胆する池澤さん。「え、ダメですか!?……頑張ったのに……」
金谷氏は、不採用の理由は2つあるという。
1つ目は、池澤さんは「ヤフーという企業の中で自分は何ができるのか、何をやりたいのか」が“曖昧”であったことだ。企業は「この人を採用したら、どのようなメリットがあるのか」を知りたいので、応募者には「何ができて、どの部分に貢献できるか」を明確にしてほしいのだ。
これは具体的であればあるほど良い。「これまで、エンジニアとしてこういうことをやってきたから、ヤフーのサービスのこうした部分を、こう変えていきたい」と説明できれば、評価はぐっと高まるはずだ。
2つ目は、池澤さんの志向が、エンジニアリングに立脚していなかったこと。エンジニアよりも、企画やコンテンツに興味があるように感じたそうだ。前述の120種類以上の職種の中にはサービス企画やコンテンツ制作もあるので、その職種で応募すれば、ヤフー社員池澤あやかは誕生するかもしれない。
ここで再び村上氏が登場。ヤフーの行動指針、「ヤフーバリュー」を説明してくれた。
ヤフーバリューは、「All Yahoo! JAPAN」「個のチカラ」「発見・提案・改善」「圧倒的当事者意識」「やりぬく」の5つ。
エンジニアに対しても、自社のサービスに興味を持ち(圧倒的当事者意識)、それらのサービスをどうしていきたいかをきちんと考える(発見・提案・改善)ことを当然期待しているという。エンジニア1人1人がそうして意識や技術を高めること(個のチカラ)で、ヤフーのサービスのクオリティも向上していく。人の成長がサービスの成長につながるという考え方だ。
一方で、ヤフーで働くメリットは3つあるという。
1つ目は、自分で開発したサービスでより多くの人の課題を解決できるという「やりがい」。2つ目は、優秀な人財が多く、一緒に働くことで自身の技術や意識も自ずと高まっていく「成長感」。そして3つ目は、新オフィスの「快適な環境」だという。
金谷氏のワンポイントアドバイス
- 何ができるのか、やりたいのかを明確に
- 志望職種は、自分の志向に本当に合っているかを確認する
やっぱり、ここで仕事がしたい〜!(池澤さん)
最後に、同社の新オフィスを見学させていただくことにした。
新社屋移転に伴い、国内最大級のフリーアドレスオフィスを構築したという同社は、ノートPCを持って、好きな席で仕事ができる。オフィスフロアだけでなく、後述する社員食堂やコワーキングスペース「LODGE(ロッジ)」で仕事をするのもありだ。しかも、月に5日までなら、在宅で仕事をすることも認められている。
執務室内は机をジグザグに配置し、通路を歩く人と人とがあえてぶつかるようにしているという。そこからコミュニケーションが生まれ、新たなイノベーションがもたらされることに期待しているのだ。
オフィスの階下には、コワーキングスペース「LODGE」がある。402.3坪という広大な面積を持つLODGEは、社外の人も利用できる施設で、作業スペースやミーティングスペースはもちろん、キッチン、スタジオがある他、社員食堂、カフェなども併設されている。
取材時も、3Dプリンタで何かを制作している人や、集中してプログラム開発を行っている人、ランチタイムやコーヒーブレークを楽しむ人など、社内外のいろいろな人たちが思い思いに利用していた。
「わ〜。これ、私も使っていいんですか?」と、池澤さんの目が輝く。
LODGEは、ヤフー社外の人も身分証明書を見せれば利用できる。転職こそかなわなかったが、池澤さんももちろん利用可能だ。
「取材が終わったら、私、ここで作業していきますね」(池澤さん)
LODGEに残った池澤さんは、つかの間のヤフー社員疑似体験を堪能したのであった。
池澤あやかさんの感想
コワーキングスペース「LODGE」がすてき! ヤフーに転職を考える人も、そうでない人も、一度は利用すべきね
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