GoogleはG Suiteへの機械学習の適用で、どう働き方を変えようとしているのか、総責任者に聞いた:「働き方改革」には矛盾がある(2/2 ページ)
GoogleはG Suiteについて、従来から「人々の働き方を変えるもの」だとしてきた。だが、この製品群自体が今、機械学習の適用によって大きく変わろうとしている。Google Cloud G Suite部門バイスプレジデントのプラバッカー・ラガバン氏に、ユーザーは今後、G Suiteにどんなメリットを期待できるのかを聞いた。
2つ目の例として、人の言語についての理解がかなり進んできました。そこで電子メールやドキュメントを書いているときに、機械があなたの意図を理解し、一部の文面を埋めることができます。
「Smart Reply」の例。文脈に即した返信文の候補が画面下部に表示され、選択するだけで答えられる。返事を選択した後に文を追加、修正することも、もちろんできる。特に、移動中などに素早く返事をしたい場合に、よく使われているという
例えば、Gmailの「Smart Reply」という機能は、既に8通の返信のうち1通の割合で使われるようになっています(注:Smart Replyは、これまでGmailの別アプリケーションであるInboxで提供されてきた機能)。私は今後、さらにこの比率が上昇することを願っています。とはいえ100%にはなり得ません。熟考して、複雑なメッセージを送らなくてはならないことがあるからです。例えば、自分の担当するプロジェクトがうまくいかなかったことを上司に説明するメッセージは、マシンラーニングでは作れません。
一方で、私たちが日常的に書いていることの大部分は、機械が真似し、自動化できるということです。長い文章であっても、大部分はお決まりの内容です。全てがクリエイティブなわけではありません。オリジナリティにあふれ、クリエイティブな部分だけを人が書き、あとは機械が埋めるという姿に変わっていくべきです。これに向けた機能を強化していきます。
私たちは、あなたが文章を書いている間にどのような検索を行ったか、何を参照したかを知ることで、あなたがドキュメントのインタフェースを離れることなく、自動的に参照先から情報を埋めることができます。あなたがメインの作業をしているアプリケーションを離れなくて済むことは非常に重要です。アプリケーションを離れるたびに時間が失われるからです。
機械が生成するコンテンツだからといって、価値がないわけではありません。あなたのアイデアを分かろうとする人は、その背景も理解しなければならないからです。詳細な説明は機械に任せ、あなたはメインのアイデアに集中できます。リポートに3日間かけるのではなく、数時間で済ませ、次のプロジェクトに取り掛かれます。生産性を大きく向上できますし、「働き方改革」にもつなげられます。こうしたことのために、私たちは、機械学習を使いたいと思っています。
――電子メールのスレッドで誰かが添付したスライドなどを、後から探すのは面倒ですよね。こうした作業を簡素化してくれるような機能は考えていないのですか?
いい質問です。Gmailでは、実験的な役割も含め、新たなインタフェースとしてInboxを登場させました。このInboxで、メールスレッドの下のパネルに添付ドキュメントを一覧表示しています。
Inboxで成功したアイデアは、Gmailに取り込むことにしていますが、この特定の機能に関してはまだ課題があります。多数のスライドファイルがスレッドに添付されているとき、「サムネイル表示されるスライドはこれにしたい」という意見もあるのです。私たちはこのように、適切なユーザーエクスペリエンスやメタファーとはどういうものかを追求していかなければなりません。ユーザーの洗練度によって異なりますし、モバイルデバイスの使用時にはまた使い勝手が異なります。
いずれにしても、メールスレッドというコンセプトは重要です。スレッドに関わる人たちの集合的な記憶として機能するからです。「ミニプロジェクト」とすら言えます。
アドホックアプリケーションのノンプログラミング開発ツールも提供へ
――日常的な、カジュアルなアプリケーションについては、どのような戦略を描いていますか?
ERPなどの大掛かりなアプリケーションの他に、ロングテール的に各部署やプロジェクトだけのために作られるアプリケーションがあります。
私たちのこれについての考え方は、開発者を雇って開発する必要があってはならないということです。「ローコード(low code)環境」と呼んでいます。Google社内にはユーザー自身がアプリケーションを作れるツールがあり、2000ものアプリケーションが作られています。ソフトウェアエンジニアが作ったものは1つもありません。マーケティング部門や人事部門の人たち自身が作成したものです。
これは「App Maker」と呼ばれていますが、G SuiteのAPIを使うもので、複雑なことはできません。シンプルなワークフローを実現するものです。この社内ツールは、(G Suiteの新サービスとして)早期採用プログラムを開始しました。既に顧客は、数百のアプリケーションを作っています。これが、あなたの言う「カジュアルなアプリケーション」をまさにターゲットとしています。2017年中には一般提供を開始する予定です。
人々の働き方を観察し、「生産性」の正しい意味を見出す
――Google Cloud Next Tokyo 2017の展示会場では、従業員の行動を、G Suiteの利用情報から把握するデモが行われているのを見ました。こうした活動は何を目指して行われているのですか?
私たちは、効率性や生産性を、どうすれば適切に計測できるのかを真剣に考えています。各人が何時に出社したのかはあまり関係がありません。あなたが作成したドキュメントを、社内の多くの人たちが参照するようになったとしたら、あなたの影響力が全社に広がっていると考えることができます。
考えてみれば、これは新しい考え方ではありません。Google検索のページランクは、影響力の広がりを計測したものです。これを応用し、さらにマトリックスについて実験しています。ダッシュボードで活動ログを分析し、この部門は迅速に活動している、シンガポールのオフィスはきびきび活動しているなどを知ることができ、次に、こうしたところが他と異なるところはどこなのかを示すことができるようになります。
顧客企業もこうした分析結果を使って、どういった活動が成功に結び付きやすいのかを探ることができます。ある部署に属する人々が、多数の電子メールを送っているからといって、成功しているとは言えません。逆に、あなたの電子メールが全て、多数の人々に向けられているなら、「いい仕事をしていない」と言えます。多くの人たちの邪魔をしているだけだからです。アクションアイテムを伝える電子メールは複数の人ではなく、1ユーザーに送るべきです。このように、私たちは計測によって、チームの生産性や効率のより的確な指標を見出し、これを上げる手段を提供しようとしています。
「働き方改革」は矛盾を含むが、生産性の本質につながる
――「働き方改革」は日本で重要なキーワードとされ、あらゆるITベンダーがソリューションを喧伝しています。Googleはこの点で、他とどのように異なるソリューションを提供できますか?
働き方改革という考え方は、冷静に言えば矛盾を含んでいます。「働く量を減らしながら、もっと結果を出せ」というのは厳しい要求です。しかし、生産性のエッセンスにつながると考えます。生産性のエッセンスとは、各プロジェクト、各判断など、どんな生産性タスクでも、最初は多数の選択肢に始まり、最終的には1つに落ち着くということです。
物理学には、「混沌から整頓された世界へ行くには仕事が必要」という法則があります。組織でも同じだと思います。何をすべきか混乱した世界から、あるべき姿に移行するには、多くの努力を必要とします。
最初の蒸気機関は、効率が5%に過ぎなかったとされています。その後さまざまなエンジンが開発され、同じ距離を移動するために費やす燃料は減りました。働き方改革も、「消費する燃料を減らしながら、もっと長い距離を走れ」と言っているようなものです。この矛盾を解決する唯一の方法は、最も時間を費やしている作業を見つけ、これをなくすことです。
一般にこれまで企業は、何が重要かをあまり考えずに、「2時間あるから処理すべき書類を全部処理しよう」と考えるように、社員を訓練してきました。しかし、「処理した書類の量=生産性の高い仕事」ではありません。自分にとって重要な仕事をどう選択し、どんなアイデアを生み出すかが肝要です。
従って、G Suiteのようなツールがすべきことは、「処理リストのことは気にしなくていいです。単純な仕事は機械が処理しますから。あなたは自分で重要だと思うことに注力してください」ということです。煩雑な仕事からユーザーを解放し、重要な仕事をきっちりとこなすことで、評価されるように持っていこうとしています。私たちITベンダーができることは、これしかありません。
このようにして、蒸気機関からジェットエンジンまでの進化と同様なことを、組織の活動にももたらすことが不可欠だと考えています。
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