ディスラプターに負けたくない:久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(2)(3/3 ページ)
競合するのか、協業するのか、それには前提条件がある。スピードと俊敏性の足かせとなる盲点とは?
ディスラプターに負けないために、あなたは何をすべきか?
さて、当連載の主役である「あなた」の話に移ろう。
あなたが勤めている企業、あるいはあなた自身が関わっているビジネスの土俵に、いざディスラプターが参入してきたらどうなるだろうか? もちろんディスラプターには負けたくないと思うに違いない。
当然のことながら、負けないためには、企業として、あるいはそのビジネスとして、収益を確保し続けるための方策を練るだろう。では、「あなた」が考えるべきことは何か?
多分方策としては大きく分けて次の2つの大方針があり得る(もちろん他にも有効な策があるかもしれない。それはあなた自身で考えてみていただきたい)。
2つの大方針、それは「ディスラプターと真っ向から競合して戦う」か、あるいは「協業してWin-Winの関係を構築する」か、すなわち「競合」か「協業」かである。ここではこの2つについて、その前提条件を考察してみたい。
まずは「競合」の条件だが、競合するには自らにイノベーションを起こす力がなければ話にならない。これが前提条件となる。ディスラプターが持つのと同等、あるいはそれ以上の発想力が求められるし、何よりスピード感、俊敏性が必要だ。最低でも既存のビジネスモデルに新たな価値を加え、サービスを通して顧客やユーザーにそれを提供できる能力が必要だ。「複数の製品(製品が含まれる場合)、ITテクノロジー、サービスの組み合わせから構成されるサービス」――すなわち全く新しい価値を創造して利用者にコト(新たな体験・サービス)を提供する必要がある。しかも、これに長い期間をかけてはいけない。
一方、「協業」の条件だが、協業とはディスラプターがイノベートした(もしくはイノベートしようとしている)サービスに飛び込み、ディスラプターのサービスと自らの革新的なサービスとで補完関係を築き、相乗効果を生むことだ。よって「複数の製品、テクノロジー、プロセス、サービス、組織から構成されるサービス」を管理する能力があなた自身やあなたの組織側にも(場合によってはグローバルなスケールで)求められる。そして何より、ディスラプターと歩調を合わせるためにはスピード(俊敏性)が必要だ。これらが前提条件となる。
競合するにせよ、協業するにせよ、あなたは絶望的な気持ちから目まいを覚えているかもしれない。どちらの方針に進むにせよ、自社には求められるようなスピード感が出せるだろうかと。もしお勤めの企業が大企業の場合、社内リソースは潤沢にあっても、スピード感、俊敏性の観点では逆に、組織の規模や階層の深さ、独自の慣習が足かせとなって、到底求められるレベルに至らないのではないかと。
そんなあなたにお勧めなのが、今からGRCに取り組んでおくことだ。いつ来るか分からない“いざ”という時に備えて、GRCの成熟度を高めておくことをお勧めする。なぜか? それはGRCが、どんな方針下でも前提条件となるスピード感の最大の阻害要因になり得るからだ。そしてこれが多くの企業で往々にして盲点となっている。
サービスをビジネス革新の中心に据えたディスラプターに負けないためには、協業するにせよ、競合するにせよ、ユーザーにパーソナライズされたサービスを提供していく必要がある。冒頭のアウトドア製品の企業の例で見たように、ユーザー情報を扱う以上、GRCを有効・確実にする必要が必ず出てくる。いざというときになってからGRCに取り組んだのでは遅過ぎる。スピード・俊敏性をいかんなく発揮するためには、GRC有効化までの助走期間を今のうちに取っておくことが必要だ。
実のところ、地域・期間限定とは言え、テスラが勝手に顧客の低スペック車を高スペック車にソフトウェア更新したことに対しても批判がなかったわけではない。この件を美談として受け止める向きが大勢を占めているのは、ユーザー向けサービスを提供するテスラ社のGRCに対して暗黙の信頼感があるからに他ならない。
GRCを内包するサービスマネジメントの概念、これらの考え方をまとめたフレームワーク(概念と考え方)は実は既に存在する。ITILやSIAM(Service Integration and Management)だ。何よりIT組織はすでにITサービスマネジメントという取り組みで複数のテクノロジーやプロセスを管理する経験は積んできている。今まさにその貴重な経験をディスラプターに負けない新たなビジネスイノベーションに活かす時が来ている。
組織や企業の意思決定プロセスに革新をもたらすことは一朝一夕ではかなわないかもしれない。しかし、GRCへの取り組みを開始しておくことはずっとハードルが低いと考える。ぜひ、あなたが牽引者となってGRC成熟化を加速してほしい。
著者プロフィール
久納 信之(くのう のぶゆき)
ServiceNow ソリューションコンサルティング本部 エバンジェリスト
米消費財メーカーP&Gにて長年、国内外のシステム構築、導入プロジェクト、ITオペレーションに従事。1999年からはITILを実践し、ITSMの標準化と効率化に取り組む。itSMF Japan設立に参画するとともにITIL書籍集の日本語化に協力。2004年からは日本ヒューレット・パッカード株式会社、その後、日本アイ・ビー・エム株式会社においてITSMコンサルタント、エバンジェリストとして活動後現在に至る。「デジタルビジネスイノベーション=サービスマネジメント!」が標語・座右の銘。EXIN ITILマネージャ認定試験採点を担当。著書として『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』『ITIL実践の鉄則』『ITILv3実装の要点』(全て技術評論社)などがある。
鉾木 敦司(ほこき あつし)
ServiceNow ビジネス推進担当部長
日本ヒューレット・パッカード株式会社に19年間勤務。顧客システム開発プロジェクト、ハードウェア・プリセールス、ソフトウェア・プリセールス、プリセールス・マネージャー、ソフトウェアビジネス開発に従事。2017年より現職。一男三女の父であり、30年後も多くの日本企業が世界中で大活躍する野望実現のため、サービスマネージメント・プラットフォームの重要性啓蒙活動にいそしむ。電気情報通信学会発表論文に『OSS市場と市販製品の動向-市場成熟度が製品シェアに与える影響』がある。
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