エンタープライズでも「GPUは有効」――画像処理に特化したプロセッサという“誤解”を払拭するNVIDIA:用途に合わせて、どのような分野でも活用可能
エンタープライズ領域でのGPUの活用はVDIにとどまっており、シミュレーションやデータサイエンス、AR/VRでの活用はあまり認知されていない――そうしたエンタープライズでのGPU活用に関する“誤解”を払拭すべく、NVIDIAが力説する「GPUの有効性」とはどのようなものなのだろうか。NVIDIAの担当者に話を伺った。
レンダリングにかかる時間は年間65億時間以上
ビジュアルコンピューティング分野における技術者や開発者は、日々の業務の中でさまざまな困難に直面している。例えば、映画製作やエンターテインメントの分野では、コンテンツの高品質化により、コンテンツのレンダリングに年間65億時間以上を費やしているという。また、製造業では、製品の設計から製造までのワークフローは効率化されたものの、その結果、毎年3万種類の新製品が発売されることとなった。
さらに建設業界では、2022年までに世界の建設投資が12兆9000億ドルに達すると報告されている。その結果、毎日250京バイトのデータが生成され、この膨大なデータを効率的に処理するために、2020年までにアプリケーションの80%がAI(人工知能)を搭載すると予測されている。こうした困難は、ほぼ全ての業種・業態の課題であり、変化の激しい市場に対し、いかに迅速かつ柔軟に対応できるかが重要なポイントになっている。
NVIDIA Quadro デスクトップ製品ライン担当マネジャーのNick Suh氏は、「従来型のCPUアプリケーションの能力では、既に処理できないレベルにデータ処理量が増大しており、あらゆる業種・業態の困難を克服するためには、GPUの能力が不可欠です。GPUが優れているのは、数千のコアによる超並列高速演算を可能にしたことで、スーパーコンピュータにも搭載されています。」と話す。
GPU(Graphics Processing Unit)の強みは、デスクトップPCやデータセンターだけではなく、ユーザーの用途に合わせて、どのような分野でも使え、簡単にスケールできることだ。2018年に発表されたNVIDIAの新しいプロフェッショナル用途向けGPU「Quadro RTX」は、「Turingアーキテクチャ」に基づいて開発されており、従来のCUDAコアに加え、AI、ディープラーニングの性能を向上させるTensorコア、高速なレイトレーシング演算を可能にするRTコアを搭載。従来よりも、数十倍高速なデータ処理を実現している。
この新しい「Quadro RTX 6000/8000グラフィックスカード」を搭載した「NVIDIA RTXサーバー」(以下、RTXサーバー)は、GPU処理能力をあらゆる業種・業態で有効に活用することが可能だ。仮想化やレンダリング、データサイエンス、シミュレーション、5G(第5世代移動通信システム)に向けたVR(仮想現実)/AR(拡張現実)ストリーミングなど、ビジュアルコンピューティングの活用範囲をデータセンター内で大きく拡大できるようになる。
従来型のアーキテクチャに比べればGPUのコストは低い
NVIDIAが実施したQuadro RTX 6000のパフォーマンス測定では、1台のQuadro RTX 6000で2個の一般的なCPUを搭載したサーバーの約17倍、2台のQuadro RTX 6000は約35倍のパフォーマンスを実現している。
また、データサイエンス分野において、CPU搭載サーバーとQuadro RTX 8000のデータ分析のパフォーマンスを比較すると約10倍の差がある。データ分析を高速化することで、余剰の時間でこれまで90%の精度だった分析を95%に向上することも可能だという。単に速いだけでなく、より正確に分析できることもQuadro RTX 8000のメリットの一つになっている。
Suh氏は、「Quadro RTX 6000のパフォーマンスは、例えば製薬業界におけるプロテインを複雑化させたり、結合の仕方でどのような効能が得られるのかをビジュアルにシミュレーションしたりするような分野において有効です。一方、Quadro RTX 8000のメリットは、例えば米国の銀行が全米で住宅ローンの複雑なシミュレーションを実施する分野などで有効になります」と説明する。
カナダのVFX制作会社Image Engineでは、米国の映像ストリーミング配信事業会社NetflixのSFテレビドラマシリーズ「ロスト・イン・スペース」の特殊効果でRTXサーバーの初期評価を実施している。
Image Engineは、ロスト・イン・スペースのために作成されたシーンのレンダリングを一般的なCPUとGPUで比較。CPUで38分かかるレンダリングを、Quadro RTX 8000により6分に短縮した。次に、120フレームで構成されるショット全体をレンダリング。CPUで76時間かかる処理を、Quadro RTX 8000は3時間に短縮している。これにより、25倍の高速化を実現。また、5年間にかかる電力コストを比較すると、6万8000ドルというCPUのコストに対し、Quadro RTX 8000は1万ドルだったという。
Suh氏は、「CEOのJen-Hsun Huangは、“GPUをたくさん買えば、その分だけお金が節約できる”というジョークを言っています」と話している。
2019年12月にサーバー向けQuadro RTX 6000/8000を発表
RTXサーバーは、データセンターで高速かつ高性能なコンピューティング機能を提供できる非常に柔軟なレファレンスデザインに基づいている。強力な仮想ワークステーションのサーバーとして構成できるのはもちろん、レンダリング、データサイエンス、シミュレーション&サイエンスビジュアライゼーション、5Gに向けたVR/ARストリーミングなど、複雑なワークロードをさまざまな方法で高速に展開することができる。
例えば、「NVIDIA Quadro仮想ワークステーション(Quadro vDWS)」を利用することで、物理的にQuadroグラフィックスカードを搭載したワークステーションと同等のメリットを仮想化環境で活用することができる。
「日々の業務を行うだけのライトユーザーから、高度な分析を行うハイエンドユーザーまでのニーズに最適なコストで応えることができるので、経営視点でも大きなメリットがあります」(Suh氏)
また、レンダリングでは、デスクトップからデータセンターまで、エンド・ツー・エンドでレイトレーシングの高速化を実現。データセンター向けではCPUに比べ18倍、デスクトップ向けでは旧GPUの6倍の高速化を実現した。データサイエンスでは、データの分析加工を可能にし、モデリングを行って、ビジュアライズを実施する。特に、ビジュアライゼーションでは大きなコンピューティングパワーが必要となるが、ここでもRTXサーバーが効果を発揮する。
さらに、シミュレーション&サイエンスビジュアライゼーションでは、これまでオフィスでしかできなかった地震の予知や天気予報のような高度な解析シミュレーションを、モバイルデバイスを使い、現場で解析することができるようになる。AR/VR(拡張現実/仮想現実)ストリーミングは新しい分野だが、5Gの登場により、高帯域幅、低遅延のメリットを提供できるので、高品質のAR/VRを実現することが可能だ。
「RTXサーバーにより、さまざまな分野でのGPUの活用が一気に普及することが期待できます」(Suh氏)
その他、データセンター向けソリューションとしては、2019年12月にQuadro RTX 6000/8000の新製品が発表された。新しいサーバー向けQuadro RTX 6000/8000の最大の相違点はファンレスでラック型サーバー搭載に適した熱設計になっていること。また、ディスプレイ用のアウトプットもないサーバー用途に特化したモデルとなっている。これにより、仮想化サーバー用途からテレコム分野、大規模データセンターにも最適な仕様になっている。
RTXサーバーの活用例としては、米国カリフォルニア州のディズニーランド内に新たに完成したテーマランド「Star Wars:Galaxy's Edge(スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ)」で、ミレニアムファルコン号の没入型アトラクションを、最新のQuadro RTX を8基搭載したシステムとプロジェクターを接続した仕組みで実現しているという。
エコシステムを強化する「NVIDIA Omniverse」を開発中
NVIDIAのGPUは、Hewlett Packard Enterprise(HPE)の「Superdome」や「ProLiant」、Dell EMCの「PowerEdge」などにOEM提供され、かなりの台数が市場に提供されている。しかし、まだ課題も残っている。
Suh氏は、「エンタープライズ向けのGPUは、まだVDI(仮想デスクトップインフラストラクチャ)での利用にとどまっており、シミュレーションやデータサイエンス、AR/VRなどの分野でも有効であるということが認知されていません。特に、データセンターでもGPUが利用されていることは知られていません」と話す。
そこでNVIDIAでは、インフラ、ハイパーバイザー、ソフトウェア、クライアントなど、各分野のパートナー企業とともにエコシステムを構築している。例えば、インフラ分野では、HPEやDell EMC、Lenovoなど、ハイパーバイザー分野では、VMware、Red Hat、Citrix Systems、ソフトウェア分野では、Microsoft、VMware、Citrix Systemsなど、クライアント分野では、LGなどだ。
また、SDK(ソフトウェア開発キット)を提供することで、ソフトウェアベンダーがGPU対応のアプリケーションを容易に開発できる取り組みも推進している。既にパートナー企業は、SDKを使って開発したレンダリングやシミュレーション、仮想化などのアプリケーションを、エコシステムを通じて提供している。さらに、NVIDIAでは、エコシステム強化の一環として、リアルタイムグラフィックスに向けたスタジオワークフローを簡略化するオープンコラボレーションプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」の開発を進めている。
NVIDIA Omniverseは、自身がハブとなって「Autodesk Maya」や「Adobe Photoshop」「Epic Games Unreal Engine」などの業界標準アプリケーションをリアルタイムに接続するための仕組みを提供する。また、Pixarの「Universal Scene Description(USD)」技術や、自社のMDL(マテリアル定義言語)にも対応。複数のアプリケーション間で、モデリングやシェーディング、アニメーション、ライティング、視覚効果、レンダリングなどの情報をリアルタイムに交換できるようになるという。
NVIDIA Omniverseエコシステム マネジャーであるAnuj Aggarwal氏は、「NVIDIA Omniverseは、グローバルで開発環境を統一するためのプラットフォームです。NVIDIA Omniverseを利用することで、開発者は、いつでも、どこからでもコラボレーションが可能になります。異なるアプリケーションで作業している他の技術者とリアルタイムに情報を交換できるだけでなく、同時に複数のツールで反映された変更も確認できます。また、ツールベンダーは、GPUの進化をNVIDIA Omniverseが吸収することから、GPUの進化に合わせてツールを修正する必要がなくなるメリットもあります」と話す。
NVIDIAでは、最終的にOmniverse SDKを提供する計画だ。Aggarwal氏は、「Omniverse SDKを利用することで、グラフィックスのシミュレーションをする場合に、既に開発したグラフィックスがあれば、それを変更することなく、NVIDIA Omniverseに追加して再利用できるようになります。これにより、使い慣れたツールで、最新の技術を簡単に活用できるようになります」と話している。
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