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NVIDIA「EGX Edge Supercomputing Platform」を発表――5Gのネットワーク仮想化がエンタープライズITにもたらすものとはOpenShiftを搭載しエッジでのKubernetesなどの動作を最適化

NVIDIAが発表した「EGX Edge Supercomputing Platform」や5G関連技術はエンタープライズITに何をもたらすのか。活用事例とともに解説する。

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 NVIDIAは2019年10月21日(米国時間)、米国で開催中のイベント「MWC19 Los Angeles」で基調講演を行い、CEOのJensen Huang氏は、「EGX Edge Supercomputing Platform」やそれを利用した5G関連技術などを発表した。

EGX Edge Supercomputing Platformとは

 EGX Edge Supercomputing Platformは、2019年5月に発表された「NVIDIA EGX プラットフォーム」を拡張し、クラウドなどのネットワークエッジでAI(人工知能)/ディープラーニンングなどの高負荷演算を処理するためのハードウェア仕様だ。

 NVIDIA EGX プラットフォームは、NVIDIAが仕様を策定し、ソフトウェアやGPUなどを提供して、PCメーカーなどのEGXパートナー企業が製品を製造するもの。2019年5月時点では、GPUを利用するコンピュータシステムの定義として、「Jetson Nano」などの超小型システムから「NVIDIA Tesla T4」サーバまで広くカバーしていた。

 これに対して、EGX Edge Supercomputing Platformは、GPUをV100などのTensor Coreを持つものに限定し、ネットワークエッジで高性能サーバとして利用するための仕様を定義したもの。簡単にいえばNVIDIA EGX プラットフォームの高機能版といえる。他社との差別化ポイントとしては、NVIDIAの高性能GPU演算ボードや、2019年に買収したMellanoxのテラビットイーサーネットカードを搭載する。

NVIDIAが発表したEGX Edge Supercomputing Platform。写真はレファレンスモデル

 従来のネットワークエッジでは、システム全体の遅延を少なくするため、ネットワークエッジでは処理をできるだけ短時間にとどめ、データ処理は、サーバ側に任せることにし、サーバ側の負荷はロードバランサーなどにより分散させていた。しかし、大量のIoTや高性能な周辺デバイス機器、あるいは、ロボット、自動運転に使われるアプリケーションは、1つの機器やシステムから大量のデータを生み出す。今後もこうした機器が増大し、例えば、IoT機器は、数年以内には、ユーザーが使う機器の総数を超え、さらに増大すると予測されている。

 その数と個々が生成するデータを考慮すると、CPUやサーバシステムの性能向上では対応し切れなくなるとされ、データが通過する多数のネットワークエッジでのデータ処理が最近増えつつある。

 例えば道路の監視カメラは、従来画像をサーバで直接処理していた。このため、多数のカメラを設置するためには中央サーバをそれ以上に強化する必要があった。しかし、エッジコンピューティングを導入し、ネットワークエッジでカメラ画像から物体認識を行わせると、サーバ側は、認識された車だけを処理すればよく、同規模のサーバでもより多くのカメラに対応することが可能になる。EGX Edge Supercomputing Platformによって、ネットワークエッジなど多数のデータが通過する場所で高負荷の演算処理を「挟み込める」という。

 基調講演では、デモンストレーションも行われた。

EGX Edge Supercomputing Platformを利用したデモンストレーション。ネットワークエッジで物体認識を行わない場合(写真左)に比べ、物体認識を行わせると同性能のサーバでもより多くのカメラ画像を処理できるようになる
監視カメラのデモンストレーションは、MWC19会場のNVIDIAブースでも行われていた。多数のカメラ画像のそれぞれで物体認識が行われ、認識された自動車には、緑の枠が付く

EGX Edge Supercomputing Platformの活用事例、提携

 基調講演でNVIDIAは、このEGX Edge Supercomputing Platformを利用した製品は、Dell Technologies、Hewlett Packard Enterprise、Lenovo、QTC、Supermicroの5社から、併せて20製品が出荷予定であるとした。また、これらの製品がWalmart、BMW、P&G、Samsung Electronics、NTT東日本、およびサンフランシスコ市、ラスベガス市の合わせて7組織に採用されたことを発表した。

 このうちWalmartは、200以上のGPUを利用し、スマート店舗などからの情報を処理するために、同社の研究所で開発を進めているという。


NVIDIAがWalmartと提携して開発中の「スマート店舗」のデモ。棚のセンサーとカメラを使い、無人店舗に入った顧客の誰がどの商品を持ったのかを認識できる

 またNVIDIAは、EGX Edge Supercomputing Platformに関して、Microsoft、Red Hat、Ericssonなどと提携を行ったと発表した。

 Microsoftは、「Microsoft Azure」にEGX Edge Supercomputing Platformを導入し、これを利用できるようにするようだ。これにより、Azureを使って構築されるクラウドサービスも、ディープラーニングのような負荷の高い処理をエッジ側と「挟み込める」ようになる。

 Red Hatとの提携では、同社の「OpenShift」をEGX Edge Supercomputing Platformに搭載し、エッジでのKubernetesなどの動作を最適化するという。後述する5Gのネットワーク仮想化は、コンピュータの仮想マシンではなく、コンテナ技術を利用して行われる。比較的リアルタイム性の強い処理が必要になる通信システムでは、起動時間が伸びてしまう仮想マシンよりも、短時間で起動可能なコンテナ技術による仮想化やマイクロサービス化が想定されている。この点からいえば、SDN(Software Defined Network)という方が正確かもしれない。

 Ericssonは、EGX Edge Supercomputing Platform上に世界初のGPU搭載「5G-VRAN」を搭載したという。VRANとは、携帯電話ネットワークで利用する基地局同士のネットワーク「Radio Area Network」(簡単にいうと、基地局同士を接続してネットワークを作り、その上でコアネットワーク側と接続するもの)を仮想化したもの。RANは、IT系のネットワークでいえば、エッジに当たる部分だ。

5Gのネットワーク仮想化の可能性

 5Gでは、コアネットワークの「仮想化」を目標としている。コアネットワークとは、携帯電話のネットワークの中心部分。かつての電話でいえば、「交換機」を使った電話システムに相当する。4Gまでのネットワークの定義は「物理的」なものだった。3Gで携帯電話ネットワークのデータ通信は、IPネットワークに移行し、携帯電話ネットワークは、コンピュータ業界でいう「ルーター」で構成されるようになった。4Gでは、3Gまであった、「回線交換」を廃し、コアネットワーク全体を「パケットネットワーク化」した。5Gでは、これを「仮想化」するのが目標だ。

 IT系データセンターでは、常識となりつつあるNFV(Network Functions Virtualization)やSDN技術を使い、携帯電話のコアネットワークを構築する。仮想化、ソフトウェア化することで、サービスの導入や構成の変更などを柔軟に短時間で行えるようになる。

 Ericssonは、NVIDIAのEGX Edge Supercomputing Platform上で、5GのVRANを構築した。これには、OpenShiftなどが使われている他、NVIDIAが提供するソフトウェアなども利用されているという。

 これは、「Aerial」と呼ばれ、cuNVF SDKとcuBB SDKから構成される(cuは、NVIDIAのGPUプログラミング言語であるCUDAを利用しているという意味)。cuNVFは、パケット処理をGPUで行うためのもので、GPUDirect対応ネットワークインタフェースカードを使い、GPUメモリとネットワーク間でパケットを送受信するためのもの。これにより、通信パケットをGPUのパイプラインで直接処理することが可能になる。cuBBは、5G信号の処理をGPUで行うためのもの。cuBBに含まれるcuPHYソフトウェアが、5Gの物理層の信号処理を行う。従来は、こうした部分は専用ハードウェアで処理されていた。他社のソリューションでは、ここにFPGA(Field-Programmable Gate Array:利用者が回路を定義して設定できる半導体デバイス)などのハードウェアを利用することが多い。信号処理をGPUで行うことで、ソフトウェア化が可能になったわけだ。

 Aerialに関しては、各国の事業者が評価を始めており、国内では、KDDIとソフトバンクが評価中であるという。


NVIDIA創業者でCEOのJensen Huang氏。MWC19開催前日に基調講演を行った

 ディープラーニングにおける「学習」を高速化させるというGPUの利用で、大きく評価されたNVIDIAだが、演算の高速化により、さらなる領域を拡大しつつある。今回のVRANの構築は、同社の通信業界への参入を意味するものとなった。

 ただし、5Gのネットワーク仮想化に関していえば、先行するIT、半導体業界の多くの企業が注目している。既存のエンタープライズ向け技術を利用できるからであり、2年ほど前から、IT系、半導体系企業の5G対応のアナウンスが増えつつある。

 また5Gには、企業の敷地内で運用可能な「ローカル5G」などの方向性もある。これまでコアネットワーク向け機器は、事業者しか買わないものだったが、ローカル5Gにより多くの企業が導入する可能性も出てきたように、5Gは意外とエンタープライズと近い位置にあるともいえる。あるいは、エッジコンピューティング、NFV、SDNといったITのトレンドは、通信業界をも飲み込んだともいえる。そのため、5Gビジネスの可否が、IT系大手企業の今後を左右する可能性も出てきた。コンピュータメーカーや大手半導体メーカーを相手にNVIDIAがどのような動きを見せるかは、ちょっとした「見もの」といっていいだろう。

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