「『作る』から『やめる』へ」、創業130年のアサヒがパブリッククラウド、コンテナにたどり着いた理由:リフト&シフトは最後の手段(1/2 ページ)
「アサヒビール」などで知られるアサヒグループホールディングスは、2018年頃から業務システムのパブリッククラウドでの構築・運用を進めている。「クラウドネイティブ・ファースト」が方針で、リフト&シフトによる単純な移行は最後の手段とする。背景には、同グループの事業における根本的な変化があるという。
「アサヒビール」などで知られるアサヒグループホールディングス(以下、アサヒグループ)は、2018年頃から業務システムのパブリッククラウドでの構築・運用を進めている。「旧来型のシステムからの脱却」が方針で、リフト&シフトによる単純な移行は最後の手段とする。背景には、同グループの事業における根本的な変化があるという。アサヒグループの間接業務・IT戦略策定業務を担うアサヒプロマネジメントのITイノベーション戦略部マネージャー、清水博氏が、2020年1月30日に開催された「Google Cloud Anthos Day」で説明した。
数年前は「コンテナといえば、船に積まれるコンテナのことしか知らなかった」。国内の一般企業でパブリッククラウドに業務システムを移す例は、当時既に増えていたが、アサヒでは全くといいほど使っていなかった。それが変わってきた背景には、同グループの事業が根本的に変化してきたことに対する認識があると、清水氏は話した。
アサヒといえば国内ビール市場におけるシェアトップ(2018年)のビール事業で知る人が多い。だが、積極的なM&Aなどにより、グループの事業内容は大きく変化している。アサヒグループの総売り上げにおける国内アルコール飲料事業の比率は現在4割強で、他は国内ソフトドリンク事業、国内食品事業、海外事業で構成されている。中でも成長が著しいのは海外事業。子会社は139社、工場は70カ所に達し、2018年度にはグループ売り上げの34%を占めたという。
「従業員も、今や海外が国内よりも多い。業務ITに関しても、日本固有のやり方ではもう通用しない。グローバルに出ていく上でのIT基盤とは何かを考えなくてはならなくなってきた」(清水氏)
「デジタルトランスフォーメーション」などの言葉を出すまでもなく、ITはグループのさまざまな事業におけるカギとなりつつある。例えば国内の製品販売活動でも、人の営業力だけで通用する時代ではなくなり、データを駆使した「エビデンス」に基づく提案が求められるようになっている。
アサヒグループでは業務システムを全て自社のデータセンターで運用してきた。しかし、自前のシステムを運用する負荷は大きく、新しいITへの取り組みにリソースを割けない状況になっていた。
「運用のやり方を再定義しないと、(新しい時代に向けたITに)追随できない」(清水氏)。業務を妨げない運用保守の実現と、運用保守コストの最適化を目的に、パブリッククラウドの採用を進めることにしたという。
これまでリフト&シフトによるパブリッククラウドへの移行もしていなかったアサヒグループは、「後発なので新しいチャレンジをすべきと考えた」。
そこで第1の方針に掲げたのは、「『作る』から『使う』へ」以前に、「『作る』から『やめる』へ」。つまり、既存システムをそれぞれクラウドへ持っていく判断をする前に、「このシステムは退役できないか」と考えることだったという。
使い続ける必要がある既存システムについては、同じクラウドでも、できるだけ運用負荷の低い手法を検討することにした。つまり、可能な限りSaaS(Software as a Service)を採用し、それが困難であればPaaS(Platform as a Service)、それも難しければ、再構築/改修後にIaaS(Infrastructure as a Service)へ移行する。リフト&シフトでのIaaSへの移行は最後の手段とする。リフト&シフトを避ける理由は、既存アーキテクチャのままでは可用性を確保した運用が困難だからだ。
そこでアサヒグループとして注目したのがコンテナを使ったクラウドネイティブなアプリケーションアーキテクチャ。前述の通り、コンテナについては知識が深くなかったが、専門家の話を聞いて納得したという。
「コンテナは『スイミー 小さなかしこいさかなのはなし』に出てくる小さな魚たちのようなもの。1匹1匹は小さくとも、多数集まることで、大きな魚を追い払うこともできる強さが得られる」
コンテナをベースとして、ニーズに応じてスケールアップ/ダウンし、一部のソフトウェア/ハードウェアが壊れても動き続けるシステムを構築・運用できる。しかも、スケーリングや復元は秒以下の単位で自動的に行われるため、運用負荷は低い。
「『壊れない』から『いつでも復元できる』に発想を変えることができた」
急速に変化する市場で迅速な手を打つためのITシステムとは
清水氏は、コンテナをベースとしてクラウド上に構築し、業務システムで新たな価値を提供する取り組みとして、小売業向けのビール量販業務を支えるシステムの例を紹介した。新システムは2018年11月に稼働を開始。現在は「Google Cloud Platform (GCP) 」と「Microsoft Azure」で稼働し、毎週50〜60TBのデータを処理しているという。
このシステムは、スーパーマーケットなどの量販店を対象とした、ビールの棚割り管理業務を支援するものという。
「カテゴリーマネジメント」として世界中で行われているこの業務では、例えばスーパーマーケットチェーンからビール商品棚の運営を任され、売り上げの最適化をテーマとしてこれを行う。
こうした業務の現場は、近年大きな変化に見舞われているという。商品ニーズが多様化すると共に、商品サイクルが短期化し、旧来の営業スタイルだけでは対応できなくなっているのだ。
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