“紙”のベネッセ、アプリ開発のアジャイル×内製化でジャンプアップ:高校生の学習スタイルのハイブリッド化を推進中
開発体制をアウトソースから内製に変え、開発手法もウオーターフォールからアジャイルに移行したベネッセの開発チーム。事業部門と同じブースで“チームで”作り上げたアプリの成否やいかに――。
「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」などの教育サービスで知られるベネッセ。教材が毎月届き、提出した解答用紙に赤ペン先生による丁寧な採点やコメント、アドバイスが入って返ってくるという優れたシステムは昔も今も変わらない。
しかし現在講座やコースによっては、専用タブレットやAI学習アシスタントといったデジタルデバイスや、スマートフォンアプリを利用したデジタル教材が、教材冊子との相乗効果で、それぞれのカリキュラムを、より一層充実したものへと押し上げている。
同社では近年、子どもたちの学習をサポートする各種ソフトウェアの内製化が進んでいるという。その内実を、「進研ゼミ高校講座アプリ」の開発を行うデジタル開発部のエンジニア小西啓佑さんと、同アプリの企画、運営を担当する高校生事業本部の佐藤夏紀さんに伺った。
高校講座のデジタル化
今も多くの高校での勉強は「紙」ベース。紙の教科書を使い、紙のノートに学習した内容を書いて整理している。とはいえ、身の回りにデジタルデバイスが当たり前のようにある今の子どもたちの環境。「進研ゼミ高校講座」では2011年度のiPod touch(※)を利用したサービスを皮切りにデジタルサービスの提供を進めてきた。
高校生になると、スマートフォン所有率が高いことや、解答の記述量などからもオールデジタルではなく、紙教材とデジタル教材の組み合わせ学習を提供。スマートフォンでは暗記・動画での理解や学習ナビゲーション。紙教材では、演習・記述問題などアウトプットと学習効果が高まる媒体でのブレンド学習を提供してきた。
だが、これらの進化は決してスピーディーなものではなかった。なぜなら同アプリは、学習教材同様、年間計画で企画し、開発もウオーターフォールで進められていたからだ。バグ修正はしても、新機能の追加は年に1回しか行えなかった。
ウオーターフォールからアジャイルへ
日常的にさまざまなスマートフォンアプリを使いこなしている高校生には、飽きさせない工夫が必要だ。また、足りない機能が見つかったり、新しいサービスのアイデアが出たりしても、年1回のアップデートでは実現まで最長1年間待たなければならない。このままではいけない。何とかしなければ――。
ベネッセがそこで決断したのが、開発手法の移行だった。ウオーターフォールからアジャイルへ。短いサイクルで開発を行うことで、優れたアイデアをすぐに機能として提供していこうという試みである。
ただし、これを実現するためには、外部の開発会社に委託していた開発業務を内製化しなければならない。また、事業部サイドの教材やコンテンツの企画チームとの密接な連携が必要になる。
そして2017年、アジャイル開発への移行がスタートした。
本格的なアジャイル開発第一号プロジェクトに従事し、現在、スクラムマスターとして力を発揮しているのがデジタル開発部の小西さんだ。小西さんは、大学の理工学部から大学院へ進み、光学機器メーカーの研究開発部門を経て、2018年、同社に転職してきた。
「前職で教育関連分野の研究開発に携わったのがきっかけで、教育業界に興味を持ち、本格的に取り組みたいと思い、転職しました」(小西さん)
競合他社も検討したが、長年にわたる民間教育のノウハウを持ち、教育の世界に深く根差している点に魅力を感じて同社を選んだそうである。
アジャイル開発への移行で苦労はなかったのだろうか。
「前職では1人で推進するプロジェクトが多く、要件定義から設計、実装、テストまで全て自分でやっていたので、違和感はありませんでした」(小西さん)
とはいえ「既存アプリの仕様を調べようとしたら、仕様書が整っていなかった」という、お約束のような出来事には遭遇しているそうだ。
スクラムマスターの役割については、入社後に勉強したそうだ。また、開発を進めるためのツールについても入社後に学んだ。
スクラムについて勉強していく中で、いわゆる教科書的な“スクラム開発手法”ではカバーできない業務ケースなどもあり、自分たちのやりやすいように開発スタイルをカイゼンしてきたという。
現在は、自身のような新規担当者向けに「“ベネッセでの”スクラム開発の業務遂行マニュアル」を、プロダクトオーナー向け/スクラムマスター向けの両面から作成し、横展開活動を行っている。
「現在は、2週間のスプリントを回し、2、3カ月ごとに成果をリリースしています」(小西さん)
アジャイル型開発では、チケットドリブン型の開発になることが多いが、どのようなツールを使っているのだろうか。
「企画、開発メンバーが同じブース内で作業していることもあり、気になったことがあれば“いつでも”“その場で”検討ができるよう、あえてアナログな付箋をつかったカンバン方式を採用しています」(小西さん)
開発部署のフロアを見回すと、アジャイル開発チームのブースは壁一面に付箋が貼られていた。プロジェクト管理ツールを導入することも可能だが、チームメンバー間のコミュニケーションを活性化するためにアナログの付箋を導入している。
新機能も続々、マーケティングにも寄与
デジタル教材によって会員の学習状況をリアルタイムに把握できるというメリットがあるが、ベネッセではこれをどう生かしているのだろう。
「デジタル化のメリットを共有しやすいように、企画部門のフロアに大画面ディスプレイを設置して、デジタル化された教材から把握できる会員の活用ログをリアルタイムで表示しています」(佐藤さん)
どの教科で会員からの質問が多いか、どの解説映像の人気が高いか、毎日どれぐらいの時間利用しているかなど、教材の企画、制作にフィードバックできる材料が大幅に増えた。また、スマートフォンのプッシュ通知機能を使い、学習進度が遅い会員へのフォローアップも行えるようになったという。
アジャイル開発にした効果は既に出始めている。
2018年8月に実装した、TODOをリストアップして知らせる「やることリスト」という機能がある。活用ログを分析したところ、この機能の利用者は他の機能の利用者に比べアプリの訪問率が非常に高いということが分かった。
そこで「やることリスト」機能について会員へヒアリングしたところ「スケジュール管理機能がほしい」という声が寄せられたのが2019年3月。要望を受け、カレンダー形式で表示し一目で分かるように改善した「やることカレンダー」としてリリースしたのが2019年6月。企画からリリースまで3カ月という短期間で行えた。
やることカレンダーのリリースにより、アプリの継続利用率に大きな効果が出ている。年に1度のリリースだったウオーターフォール時代には、講座開講の4月時点の利用者のうち、8月まで利用している会員は3割程度だったが、アジャイル開発を行うようになり、8割が継続利用してくれるようになった。これを受けて、次期開発ではカレンダー機能をさらに強化し、学習計画の配信機能をアドオンすることが既に決まっている。
会員の生の声を聞けるのも、同社の開発の面白いところだ。
「カレンダーアプリの開発過程では、プロトタイプを複数作成して、高校生に使ってもらいながら問題点を洗い出していきました」(佐藤さん)
直近では、会話型のAIエンジンをアプリに導入し、キャラクターの「たま丸」と会話しながら、やることが分かる「たま丸ナビ」も実装した。「進研ゼミ高校講座アプリ」の進化は、まだ始まったばかりだ。
野望は学習の一元化ができるサービス
「進研ゼミ高校講座アプリ」の開発をけん引するお二人に、仕事の面白さを聞いた。
「ユーザー層が明確で、『成績を上げたい』『志望校に受かりたい』と目的も明らかなので開発がやりやすいと感じています。また、開発した機能がどれぐらい使われているのかが数字で見えたり、高校生の生の声を聞けたりするのもやりがいにつながります」(小西さん)
「プログラマーから『技術的には、こんなこともできる』というアイデアが出てきて、それがヒントになり新しいサービスが誕生することもあります。チームで新しいことにチャレンジできるところが面白いと感じます」(佐藤さん)
進研ゼミの本格的なアジャイル開発は「進研ゼミ高校講座アプリ」が第一号だ。アプリの成功を受け、「高校講座に続け」とばかりに続々とアジャイル開発に移行するプロジェクトが登場しており、社内エンジニアの人数も増えている。
お二人に、将来の目標を伺った。
「個人的には、学校と放課後の勉強をシームレスにサポートするシステムやサービスを築きたいと考えています。ベネッセは学校に教育プラットフォームを提供する『Classi』という事業も展開しています。そうした事業部と協力し合いながら、子どもの教育にもっと深い形で関わっていきたいです」(小西さん)
「デジタル化の波は学校現場も徐々に押し寄せていて、高校生の学習スタイルも時代と共に変わってきています。日本はデジタル学習の分野が他国に比べて進んでいないと言われています。デジタルだからできることも上手に活用して、日本で育つ子どもたちに、他の国に負けない学習・体験をしてもらえる学習環境を提供していきたいです」(佐藤さん)
紙の教材とデジタルの教材、学校教育と学校外教育という異なる文化の両方にアプローチしているベネッセという環境は、働く場としても、将来の可能性という面でも、とても魅力的だ。
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