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新型コロナで広がる公共部門のAWS利用、日本での本格的な立ち上がりは?「クラウドならでは」がカギ

新型コロナ禍で、世界の公共部門におけるAWSの活用が急速に広がったという。日本ではどうか。新型コロナは国内の公共部門におけるクラウド利用の本格的な立ち上がりにつながるのか。第二期政府共通プラットフォームについても聞いた。

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 アマゾンウェブサービスジャパンは2020年7月2日、新型コロナウイルス感染症対策に絡め、日本および世界の公共部門でのAmazon Web Services(AWS)の利用状況を説明した。

 米国では、9つの連邦政府機関がAWSを活用し、新たなサービスの展開や業務調整を進めたという。また、14の州政府がAWSを使って失業保険給付金関連のコールセンターを設置したという。

 米ロードアイランド州では、緊急事態宣言から9日後の2020年3月18日、旧来のCOBOLベースの保険給付処理システムでは急増が見込まれる申請を処理しきれないと判断、非営利団体RIPLとAWSの支援を受けた。4月7日には、新型コロナに伴う失業補償の申請受付開始と同時に、AWS上で新たな申請受付アプリケーションが立ち上がり、その日だけで同州の歴史上最高である1万6000件を処理したという。次にAWSの「Amazon Connect」を使ったコールセンターを10日間で構築し、4月19日には稼働を開始した。自動音声/Web応答システム(IVR/IWR)を活用することで、受付対応能力は、従来の同時74件から、1分間当たり1000件に増強できた。さらに「Amazon Lex」を使ったチャットボットの構築で、コールセンター人員の負荷を軽減できたという。


AWSが2020年6月30日(米国時間)に開催した「AWS Public Sector Summit」の基調講演で、米ロードアイランド州労働訓練局のディレクターは、連邦政府からの緊急対応に関する補助金を、申請対応人員の増強ではなくITに投資したことで、不可能を可能にした、他のどの州よりも先を行くことができたと胸を張った

 数週間で構築された上記のシステムにより、同州は人口の20%に当たる20万件の申請を受け付け、処理できたという。


ピーター・ムーア氏

 AWS ワールドワイド公共部門アジア太平洋地域・日本担当マネージングディレクターのピーター・ムーア(Peter Moore)氏は、「世界中の公共部門で過去2カ月間に、それまでの2年間を超えるイノベーションが起こった」と話した。テスト・開発段階にあったプロジェクトは本番への導入が加速し、既存システムでは不可能だったさまざまなアプリケーションがAWS上で実現したとした。

 では、日本はどうか。アマゾン ウェブサービスジャパン 執行役員 パブリックセクター統括本部長の宇佐見潮氏によると、「『第4次産業革命』という呼び方だけでは火が付かなかった公共部門のデジタル化だが、図らずも新型コロナは既成の価値観を破壊する大きなきっかけとなった」という。

 新型コロナ禍をきっかけとした国内におけるAWSの活用例としては、LINEによる「新型コロナ対策パーソナルサポート@東京」を通じた収集データに基づく慶応義塾大学の行動変容分析、大阪府の「大阪コロナ追跡システム」、医療関係者間コミュニケーションアプリ提供企業アルムと遠隔画像診断の京都プロメドによる在宅読影システムなどがあるという。また、既存のAWS顧客である遠隔医療サービスのMICINは、契約医療機関数が10倍以上に伸びたという。

 一方、「GIGAスクール構想」が前倒しとなり、医療では診察から処方までをスマートフォンやPCで完結できる規制緩和の議論が進み、さらに国と自治体、国の省庁間の連携のための情報連携基盤構築の必要性が認識されるなど、新型コロナ禍は社会のデジタル化、クラウド化を加速していると宇佐見氏は話した。

 それでも、新型コロナをきっかけとしたクラウド活用は、例外的なものだという考え方もあるだろう。より幅広く日本の公共部門で使われるために、AWSとしては何をやっていこうとしているのか。


宇佐見潮氏

 「例えば名古屋大学医学部の『健康医療信託システム』では、機械学習/AIを活用し、住民から預かった健康情報を分析することで、高齢者医療の改善のための知見を得ようとしている、こうしたイノベーションが起きている。クラウドというと、『基幹システムを載せられるのか』といった議論になりがちだが、私たちがしなければならないのは、クラウドがイノベーションを起こす原動力だと理解してもらうこと。さまざまな事例を還元していきたい」(宇佐見氏)

 日本は世界の多くの国々に比べ、公共部門でのクラウド利用が遅れている。だが、世界各国における試行錯誤の経験を活用し、短期間でキャッチアップできると宇佐見氏は話した。

 ただしそれには、人材を育てる必要があるという。デジタル/クラウド人材に加え、従来のIT資産に関する知識やノウハウを持っている人たちを組織横断で集約し、ITベンダーも協力しながらクラウドに向けた知識を蓄積していかなければならないという。米国やシンガポールなどの政府は、こうした知識・ノウハウを集約するため「Cloud Center of Excellence」(クラウドCoE)を設立しており、日本でも働きかけていくとしている。

 日本政府の第二期政府共通プラットフォームをAWSが受注することが正式に決まったが、これについては政府が公表したスケジュール以外、現時点で話せることがないという。だが、器ができただけではリフト&シフトしか行われない、あるいは利用が進まないということも考えられるのではないか。そう聞くと、宇佐見氏は次のように答えた。

 「レガシーのマイグレーションでは従来通りのシステムしか動かない。新しいユースケースを作り、(クラウドならではの)価値を生むためには、どういった発想をしていけばいいのか。ワークショップを行うなどしていきたい」

 クラウドならではの活用が進むためには、人材の集約、クラウドCoEが重要なカギとなってくることは間違いない。

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