事業部間の連携不足がDXを阻害 アクセンチュアの調査レポート:全社横断でDXに取り組む企業と隔たり
アクセンチュアは、調査レポート「デジタル変革の投資を最大化する5つの指針:部門の枠を超えたコラボレーションがもたらす効果」を発表した。DXに取り組む企業の多くが、事業部間の連携不足で投資効果を十分に得られていないとしている。
アクセンチュアは2020年7月3日、調査レポート「デジタル変革の投資を最大化する5つの指針:部門の枠を超えたコラボレーションがもたらす効果」を発表した。同調査は、日本を含む11カ国の経営幹部1550人を対象に、2020年2月に実施した。デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業の多くが、事業部間の連携不足で投資効果を十分に得られていないとしている。
アクセンチュアによると、2017〜2019年にかけて企業がDXへの投資を増やしたことで、日本企業のコストが5.4%上昇したという。日本企業はDXへの投資で13.2%の年間収益の増加を見込んでいたが、実際には平均5.3%の増加にとどまっているとしている。全世界で見ても同様だ。DX投資でコストが約6%上昇し、11.3%の年間収益増加を見込んでいたものの、6%の増加にとどまった。
アクセンチュアは、その原因が部門間の協力や連携の欠如にあり、無駄なコストを生んでいると指摘する。同社の調査によると、「デジタル関連の投資が企業の収益を引き上げることはない」と回答した割合は、日本企業の72%、全世界の64%を占めた。
アクセンチュアでインダストリーX.0事業のマネジング・ディレクターを務めるNigel Stacey氏は、「企業の成長に伴い、組織がサイロ化する傾向にある。部門ごとに機能を集約させた組織では、部門内のニーズを優先して、部門間の連携が阻害されやすい状況が生まれる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で企業のDXが加速する今、閉鎖的な組織の課題が改めて浮き彫りになった。組織全体のデジタル化が阻害され、事業の復旧の遅れと成長の停滞を招く大きなリスクになる」と述べている。
DX投資で収益を生み出す「チャンピオン企業」の特徴
このように、多くの企業がDX投資の効果を思ったように得られていない中、部門の枠を超えたコラボレーションに成功して収益を上げている企業があった。アクセンチュアではそうした企業を「チャンピオン企業」と定義し、その特徴を分析した。
チャンピオン企業は、その他の企業に比べて大幅に業績を向上させていた。日本のチャンピオン企業はDXで収益を27.7%増やしていた。これはその他の企業(11%)の2倍以上に当たる。全世界で見ても、チャンピオン企業は収益を、その他の企業(6.6%)の4倍に当たる27.1%増加させていた。
チャンピオン企業は、DXへの投資額もその他の企業より大きい。日本では1.6倍、全世界では1.5倍だった。チャンピオン企業はEBIT(Earnings Before Interest and Taxes:金利税引前利益)の増加率も大きく、日本では、その他の企業の7.3%に対して19.8%、全世界では同2.1%に対して7.3%だった。
こうしたチャンピオン企業の特徴は、事業戦略の中で全社規模でのDXの実行計画を組み込んでいることだ。「デジタル変革全体を統括し、各プロジェクトを成功に導く経営幹部がいる」と回答したチャンピオン企業の割合は、日本では80%、全世界では82%を占めた。
さらに、従業員同士のつながりや部門間連携を促すプロジェクトに優先して取り組んでいた。例えば、IoT(Internet of Things)デバイスの管理やエンジニアリングデータのデジタル化などだ。そして、デジタルソリューションとプラットフォームの相互運用を実現している。「複数のデジタルプラットフォームを連携してコミュニケーションを活性化している」と回答したチャンピオン企業の割合は、全世界で71%に及んだ。
アクセンチュアでインダストリーX.0事業のマネジング・ディレクター兼グローバル・リサーチ責任者を務めるRaghav Narsalay氏は、「景気後退のさなかでも、企業はDXを推進する必要がある。ただしDXを成功させるには、部門横断での連携が必要だ。部門間のコラボレーションは、効率や生産性と同様、困難な状況下での事業の成功や他社との差別化を図る重要なバロメーターになりつつある」と述べている。
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