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日本政府がAWSを採用したからといってデジタル化が進むわけではない理由ほぼ月刊AWS(3)(1/2 ページ)

Amazon Web Servicesを採用した日本の中央官庁向け共通IT基盤が稼働を開始しました。他の公共機関や、場合によっては民間もクラウド調達の参考にできそうな、新たな調達方法が考案されています。ただし、本当の課題解決はこれからだと考えられます。

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 「第二期政府共通プラットフォーム」と呼ばれる日本の中央省庁向けクラウドが、Amazon Web Services(AWS)を基盤として稼働しました。これに先立って政府が定めたクラウドサービス調達の枠組みについて、アマゾン ウェブ サービス ジャパンは2020年10月13日、「幅広い公共機関によるクラウド利用のひな型になる」と説明しました。

 内閣官房IT総合戦略室と総務省行政管理局が2020年8月に出した「第二期政府共通プラットフォームにおけるクラウドサービス調達とその契約に係る報告書」には、これについていろいろ興味深いことが書かれています。一言でいうと、「官公庁における調達のやり方と、クラウドサービスの契約・利用形態には大きな乖離(かいり)があるが、これを埋めるための工夫を行った」ということになります。

 ただし、公共機関がクラウドを活用しやすくなったとしても、「既存の基盤で動いていたシステム/アプリケーションをそのまま(いわゆるリフト&シフトで)移行するだけでいいのか」という、重要な課題が残ります。基盤を入れ替えるだけでは、「デジタルトランスフォーメーション」には全くつながりません。アプリケーション開発のやり方が変わっていく必要があります。実はこれについても、政府が興味深い仕組みを作り上げようとしていることが分かりました。

 今回の「ほぼ月刊AWS」では上記の2つの課題、つまりクラウドサービスの調達とデジタルトランスフォーメーションについて、政府レベルでどのような取り組みが進められているのかをまとめました。

「単価契約」で調達における課題に対応

 まず、官公庁における調達のやり方と、クラウドサービスの契約・利用形態の乖離について取り上げます。

 こうした乖離の最たるものとして、「従量課金の壁」があります。官公庁は、調達の際に総額ベースで入札を行わなければならないことになっています。一方パブリッククラウドは、基本的には利用した量と時間などに応じて支払う従量課金が特徴です。従量課金だからこそ、実際に利用されなかった分は支払う必要がなくなります。また、値下げを行った場合、その効果を直接利用者が享受できるようになります。

 そこでまず、コストメリットを最大限に享受するために直接契約を行うことが望ましいですが、少なくとも今回はあきらめたと、上記の報告書は述べています。理由は、契約についての考え方に、政府とAWSで大きな乖離があったことにあります。

 報告書によると、これまで政府のIT調達は、成果物の見返りに支払いを行うこと、契約不適合の場合は損害賠償額に制限がないこと、契約期間が定められていること、といった要件に基づく請負契約を前提としていました。しかしパブリッククラウドサービス(今回はAWS)における契約の考え方は、これらの要件を満たすようなものになっていません。

 また、AWSのようなパブリッククラウドサービスでは、請求書に基づく支払いに関連した事務処理や、ドル建てを円建てに変換して請求する処理が発生します。

 そこで、利用報告書などの作成処理を担う中間業者を立て、政府はこの事業者との間で請負契約を結ぶことにしたといいます。入札の結果、2020年6月にはこの中間業者として日立システムズが選ばれました。

 さて、中間業者の入札を総額ベースで行ったのでは、クラウドの良さを生かせないことになってしまいます。そこで編み出されたのが「単価契約」といいます。

 この場合の単価契約とは。利用が想定されるサービスそれぞれについて、応札業者が円建ての単価を提示して競争するものです。落札した業者は、契約でこのサービス単価を約束します。

 具体的には、入札で政府側がサービスごとに想定利用量と公開されている単価を示し、これに対する割増(割引)率を応札業者が入力することで、従量課金部分の金額が自動的に算出されるようになっていたとのことです。これに間接業務など、他のコストを加えた合計金額を応札業者が示し、これを基に業者の選定が行われました。最終的な契約に明記されているのはあくまでも単価なので、実際の利用量が減れば発注側の支払額は減ることになります(支払いは年度末ではなく月単位です)。

 逆に利用量が想定よりも増えれば、支払額も増えます。では、予算を超過してしまうリスクをどう回避するのでしょうか。報告書は、クラウドサービス上で稼働するシステム間で利用リソースを融通し合うことで、対応できると述べています。

 上記ではコストに実際の利用量を反映できますが、クラウドサービスによる単価の変動にはどう対処するのかという問題が残ります。これについては、「契約期間にサービス一覧の定価が変動する場合は、契約時と同等の割引(割増)率で利用できるものとし、新たなサービスが追加利用される場合は定価の△△%割引(割増)で利用できるように契約書に記載することとした」としています。

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