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マルチクラウドを使いこなすテック企業は、人材育成どうしてる? 3社のCTOが語ったことサイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、Layer Xの選択(3)

マルチクラウドを使うテック企業は、人材育成をどうやっているのか。サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、LayerXの3社の技術部門トップが語り合ったセッションから、その内容をお届けする。

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 2022年4月19日〜28日、Google Cloud主催のデジタルカンファレンス「Google Cloud Day: Digital '22」が開催された。3日目の特別講演には、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー(以下DeNA)、Layer Xの3社の技術部門トップが一堂に会したパネルディスカッション「Tech Leader に聞く、マルチクラウド活用における技術選定とそれを支える組織」が行われた。

 この内容を伝える連載の最終回として、本稿では人材育成に関して3社それぞれが取り組んでいる内容について紹介する。

「エキスパート」として認定されたエンジニアが人材育成を推進

 複数のクラウドサービスを適材適所で使い分けるマルチクラウド環境を適切に設計・構築・運用するためには、多種多様なクラウド技術に精通し、かつ日々進化を続ける技術トレンドに常にキャッチアップしなくてはならない。「エンジニアのスキルアップ支援」は、マルチクラウドを本格的に導入・運用しようとする企業にとって欠かせない取り組みだと言える。


左からサイバーエージェントの長瀬慶重氏、DeNAの小林篤氏、LayerXの松本勇気氏

 ちなみにサイバーエージェントでは、特定の技術領域に長(た)けたエンジニアを社内でエキスパート認定する制度を設けている。この制度について、同社 常務執行役員(技術担当) 長瀬慶重氏は次のように説明する。

 「エキスパートに認定されたエンジニアは、その領域に関して高い技術力を発揮し、普段の開発業務に貢献するだけではなく、社内の他のプロジェクトへの技術支援や会社全体の人材育成もミッションとして課されます。このように弊社ではエンジニアを評価する際、技術の習熟度だけでなく、フォロワーシップやオーナーシップなどの観点から社内に影響力を発揮できるかどうかも重要視しています」

 エキスパート認定されたエンジニアは、自身にアサインされているメインの開発業務に加えて、稼働時間全体の2〜3割程度をこうした社内の人材育成や技術支援に充てるようにしており、その活動内容は人事評価の対象になる。またこれらの活動に充てる予算やコストは、自身が所属する部門だけでなく、他の部門とも公平に案分しているという。

 さらに、変化が激しい技術トレンドにエンジニアがキャッチアップできるよう、2021年11月に「リスキリングセンター」を社内に新設し、新技術の学びの場を提供することでエンジニアにキャリアアップやキャリアチェンジの機会を提供している。

自由に触りながら学べるクラウドの「サンドボックス」を提供

 DeNAでも、社内のエンジニア人材を育成するための独自の制度を幾つか設けている。同社は2018年から3年間かけて社内の全てのシステムをクラウドへ移行し、現在では多くのシステムがクラウドネイティブのアーキテクチャに基づき開発されている。

 そのため、特に最新のクラウド技術に関する教育施策にはかなり力を入れているという。具体的には「クラウド研修」という社内研修制度を設け、クラウドネイティブの開発スキル習得の機会を提供している。この取り組みについて、ディー・エヌ・エー 常務執行役員 CTO 小林篤氏は次のように説明する。

 「日々の開発業務の中でもクラウドに関するスキルは自然と蓄積されていきますが、普段あまり触る機会がない技術に関しては、実地経験だけではなかなか深い知識を身に付けることができません。そこで研修を通じてこうした領域を補い、マルチクラウドに関する幅広いスキルを身に付けてもらうよう支援しています」

 なお、こうした研修のコンテンツは、外部のパートナー企業の協力を得ながら制作しているという。

 さらには、エンジニアの学習用に特化したクラウド環境も用意しているという。特定の予算内であれば自由に使えるクラウド環境を「サンドボックス」として提供し、実際にエンジニアに手を動かしてさまざまな機能を試してもらうことで、より実践的なスキルを身に付ける機会を提供している。

社内外で勉強会を開催してスキルを広く共有する

 LayerXは、サイバーエージェントやDeNAのような大手テック企業に比べると企業規模が小さく、エンジニアチームの規模も約30人と比較的少人数なこともあり、一人ひとりが特定の技術領域に特化するのではなく、「全員フルスタック」を標榜して全員が全ての技術領域に幅広く関わるようにしているという。

 これを実現するために同社では、エンジニア同士の情報共有や技術交流の場を極めて重視している。そうした施策の一つとして、クラウドも含めたインフラの構築・運用をコードベースで自動化する“Infrastructure as Code”の取り組みを進めている。これによりクラウドインフラの構築・運用を効率化するとともに、コードを介したエンジニア同士のスキル共有の促進を図っている。

 もう1つ同社が創業時から重視している取り組みが、社内勉強会を通じたスキル共有だ。例えば新たなクラウドサービスを使うことになった場合は、その発起人が自ら資料の輪読会のような催しを企画するなど、エンジニア同士で自発的に勉強会を開催して知見を共有するカルチャーが社内に根付いているという。

 また、同社 代表取締役 CTO 松本勇気氏によれば、社内でのスキル共有だけにとどまらず、社外のコミュニティも積極的に巻き込んだオープンな勉強会やイベントなども頻繁に開催しているという。

 「先日も社外の方々と一緒に、SaaSのアーキテクチャをテーマにした1000人規模のイベントを開催したばかりです。弊社自体は小さな組織なのですが、こうして社外のコミュニティを巻き込んでいくことでさまざまな知見をかき集めて、学びの質を高めていくような取り組みも積極的に進めています」

部門やチームを越えた人的交流を活性化するための施策

 一方、サイバーエージェントやDeNAのような大規模な企業では、エンジニアはチームやプロジェクトに分かれて働くことが多いため、小規模な企業に比べるとチームや部門を越えたエンジニア同士の交流が自然発生しにくい。そのためDeNAでは、社内コミュニティを活性化させるためのさまざまな施策を講じているところだという。

 「どうしても事業ごとにエンジニアが固まりがちで、事業を越えたエンジニア同士の交流が自然発生するような機会がなかなかありませんでした。そこで昨年から、事業の垣根を越えた交流を活性化するための取り組みを始めています。現場から自然発生するような形が望ましいので、会社としての支援は費用の援助などにとどめていますが、徐々にスキル共有や交流などの場が自主的に開催されるようになってきています」(小林氏)

 なおサイバーエージェントでは、同様の活動を促進するための専任チームを社内に公式に設けているという。具体的には「デベロッパーコネクト」という、社内のエンジニア同士のつながりを活発化することをミッションに掲げたチームを設けて、チームの垣根を越えた情報共有のための専用サイトや、さまざまな社内イベントの運営を通じてエンジニア同士のコミュニケーションの活性化に努めている。

 「このチームが企画した社内のオンラインイベントを通じて、昨年はのべ1000人のエンジニアが新たに接点を持つことができました。一方、コロナ禍以降はオフラインでのエンジニア同士の交流の場が一気に失われてしまったので、今後は感染対策にしっかり気を配った上で、リアルの場での人間関係の構築にも力を入れていきたいと考えています」(長瀬氏)

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