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「まず経営幹部が作った」、ノーコード開発で1万7000のアプリを生み出したLIXILは、アプリ開発の民主化をどう進めてきたかアプリ乱立の収束も割り切って進める

LIXILは「全従業員が開発者」を目指し、ノーコードアプリ開発ツールの全社展開を進めている。2021年10月に始まったこのプロジェクトで、既に約4000人の従業員が約1万7000のアプリケーションを開発した。

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 LIXILは2022年6月24日、同社におけるアプリ開発の民主化について説明した。ノーコードアプリケーション開発ツール「Google AppSheet」を使い、これまでに約4000人の従業員が約1万7000の業務アプリケーションを生み出したという。

 Google Cloud主催の説明会で、LIXILの岩崎磨氏(常務役員 デジタル部門 システム開発運用統括部 リーダー)は、ノーコードアプリ開発の推進に関する承認を得る際、経営幹部にアプリを作ってもらったことで、全社展開に勢いをつけられたと話した。

「経営幹部は皆、ノーコードアプリ開発の経験がある」

 ノーコード開発ツールを使ったLIXILにおけるアプリ開発民主化プロジェクトは、2021年4月に始まった。RPAによる定型業務の自動化は以前から進めていたが、それだけではデジタルトランスフォーメーション(DX)につながるといえない。

 一方、デジタル部門には業務の改善や効率化のためのアプリケーション開発のリクエストが多数寄せられていた。このままでは、優先度的に後回しになったり、費用対効果が合わずに却下となったりといったケースが増えるばかりで、デジタル部門が業務部門におけるイノベーションのボトルネックになる。

 それならば、「業務部門はコントロールやガバナンス上、アプリケーションを開発してはならない」という従来の発想を転換し、現場をよく知る人たちが、自身で業務の改善や効率化を実現するアプリケーションを開発できるようにすればいい、というのがノーコードアプリ開発の全社展開の出発点だったという。


LIXILにおける、ノーコード開発全社展開のこれまで

 ツールとしては、 ノーコードアプリ開発ツールとしての使いやすさ、BigQueryなどLIXILのデータ活用基盤との親和性からAppSheetを採用した。

 プロジェクトのメンバーは、まず各業務部門に説明して回り、次に2021年の夏には、全社的な承認を得る活動に移った。この活動の一環として、役員をはじめとした経営幹部を対象に、ワークショップを3回にわたって開催、実際にアプリケーションを作ってもらった。

 「(ノーコードの推進で)重要なのは、経営幹部の認識を合わせること。そのために一番いいのは、役員を含めて全員にノーコードでアプリケーションを開発してもらうことだった。これで経営幹部は皆、ノーコードアプリ開発の経験を持つことになった。リーダーができることで、各部門のメンバーにとってのリアルな動機付けになった」(岩崎氏)

 デジタル経験がない中間管理職も、「できない」とは言えなくなったという。

ノーコードの全社展開では現場主導をさらに強める

 承認を受けたデジタル部では、2021年10月に全社展開を開始した。8名から成るノーコードアプリ開発推進チーム(「CoE(Center of Exellence)チーム」)を結成すると共に、業務部門からは、約250名の「チャンピオン」と呼ぶ普及リーダーを募り、初期ルールの策定や教材の作成などを一緒に進めたという。

 「現場主導の推進を強く意識してきた。チャンピオン同士の横のつながりと、 ナレッジやノウハウの共有が非常に重要なポイントになってくる」と、LIXIL デジタル部門 コーポレート&共通基盤デジタル推進部 主幹 次世代開発基盤チーフプロダクトオーナーである三浦葵氏は説明した。

 そのチャンピオンにしても、活動が小さくまとまってしまいがちだ。そこで各部門にデジタル化コアチームを作って部門内での横展開をさらに進めたり、それ以外の従業員ほぼ全員にも明確な役割を与えたりし、部門全体への展開を盛り上げていくことが重要と考えているという。


CoEチーム、チャンピオンから、さらに各部門全体の巻き込みを目指す

 LIXILでは、ノーコード開発ツールの全社展開から9カ月で、約4000人の従業員が約1万7000のアプリを開発、そのうち680が本運用に至っている。

 今後は大規模な社内システムへのノーコード開発の適用も可能になってくると、三浦氏は説明した。

 例えば人事部門では、人事システムにおけるノーコードの適用領域を定義し、メンバー自らが開発する取り組みを、グローバルで進めているという。

 また、若手社員が、画像認識AI機能と連携したアルミ形材棚卸しアプリを開発した例もある。これは、アルミ形材の写真を撮影して送信すると、AIが本数を返すことで、棚卸し業務を支援するアプリケーション。

 「このレベルのアプリをユーザー側で実現したということ自体、私自身ものすごく驚いた。こういった潜在的なデジタル人材の発掘と育成が、企業のより大きな発展につながる可能性がある」(三浦氏)

 「社員全員が開発者」に向けたLIXILの取り組みは道半ばだ。これまでは、ノーコード開発を知り、試すという意味合いが強いものだったと三浦氏は話した。今後は、活用を拡大して効果を高めていく。また、こうした働き方が従業員に定着していくことを目指すという。

ノーコードアプリの乱立をどう考えるか

 では、アプリケーションの乱立については現在どう考え、今後どうしていきたいのか。岩崎氏は次のように説明した。

 乱立問題は、アプリ開発の民主化では避けて通れない。 従来は、業務部門の開発を統制してきたが、このこと自体がイノベーションの阻害要因になってきた。そこで、現在は乱立を許容している。乱立してもいいから、 多数の人がアプリ開発を経験し、できるということを知ってほしい。ただし、ノーガバナンスでやってしまうと収拾がつかなくなる。そこでCoEチームが、本リリースの可否を判定している。

 乱立問題は、将来収束させる必要がある。ただし、従来とは異なり、アプリケーション開発にかかるコストは低い。このため、(いったん開発されたアプリケーションの一部が使われなくなっても)「無駄は少ない」と割り切って組み立てようと考えている。

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