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データ基盤のクラウド移行後半年で社内利用が16倍に――NTTドコモが挑んだモダナイゼーションと意識改革「クラウドシフトにより確かに競争力を得られる」

NTTドコモが持つ大量のデータをいかにしてオンプレミス環境からクラウド移行したのか。「AWS Summit Online 2022」で行われた講演「NTTドコモが挑んだデータ基盤のモダナイゼーション 〜システムが足枷にならない意識改革と基盤〜」の様子をお届けする。

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 昨今DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI開発など、さまざまな場面で自社の持つデータを利活用する動きが活発だ。従来使っていたオンプレミス環境の基盤にためたデータを利活用することも可能だが、柔軟性の高いクラウド基盤にデータを移してデータ活用を実施する流れは近年加速している。

 NTTドコモでは、オンプレミス環境にあったデータ基盤をクラウド移行し、全社でデータ利活用の取り組みが活性化したという。どのように変革を進めたのか、2022年5月25〜26日に開催された「AWS Summit Online 2022」のセッション「NTTドコモが挑んだデータ基盤のモダナイゼーション 〜システムが足枷(あしかせ)にならない意識改革と基盤〜」にNTTドコモの日影浩隆氏(情報システム部 データ基盤担当 担当部長)が登壇し、データ基盤のモダナイゼーションについて語った。

データ基盤が抱えていた課題


NTTドコモの日影浩隆氏

 NTTドコモといえば日本国内の主要な携帯電話通信業者のうちの1社だ。携帯電話契約数は8385万件、dポイントクラブ会員数は8721万人と、扱うデータ規模の大きさは一目瞭然だ。

 そんなNTTドコモでは、データは従来のオンプレミス環境で管理され「データの増加に対応できない」「最新ツールが使えない」「データ項目集が古い、不十分」「障害のリカバリーに長時間かかる」といった課題を抱えていた。最も課題に感じていたのは、データの蓄積、加工、可視化機能や開発ツール、リソースなどが一体化されて互いに影響し合っていたことだという。「これらの課題を乗り越えるべく、他部署からの要望もありデータ基盤のクラウドシフトを決めた」(日影氏)

 クラウド基盤への移行を進めるに当たり、日影氏は「利益に貢献できるシステムであること」「セキュリティなど、データを扱う責務を全うするシステムであること」の主に2つを重視したという。

データ基盤のクラウド移行、何をしたか

 ではどのようにしてデータ基盤のクラウド移行を進めたのか。まず日影氏は既に実施した3つの施策を紹介した。


クラウド移行のため実施した施策

クラウドシフトに専念できる環境づくり

 まずは既存オンプレミス環境からのクラウド移行を実施するために、既存のIT部門から専門チームを切り離した。エース級のメンバーを2〜3人引き抜き、既存の業務から切り離した状態でクラウド移行に専念させた。エース級のメンバーを引き抜くのは、既存開発の効率低下や品質の懸念など既存システムへの影響が懸念されていたものの、それをリスクとして受け入れる形で「変化への挑戦」を進めたという。

IT部門全体のキャッチアップ――利用者目線への回帰

 以前は、オンプレミスということもあり分析環境は画一的だった。そこで、どんなデータベースや環境を用意したらいいのか、IT部門では管理職が分析の知見を高めたりチームでAWS(Amazon Web Services)研修を受講したりしてデータ分析業務への知見を高めた。「IT部門全体で利用者目線をキャッチアップし『要望に応じた個別分析環境を用意すべき』という結論を出せた」(日影氏)

データカタログの整備

 画一的環境から個別の分析環境へ、オンプレミス環境からクラウドに移行する中で、日影氏はデータカタログに不足があることに改めて気付いたという。以前の環境にもデータ項目集は存在していたが、スプレッドシートに書いてあったりドキュメントベースの仕様書だったりでアナログな整備状況かつ、専門用語ばかりで利用者が利用しづらいものとなってしまっていた。

 そこで、クラウド移行と合わせてデータカタログもデジタル化し、IT部門で一元管理することを目指した。「このための周辺業務はIT部門のモチベーションも低い部分もあったが、『手作業のメンテナンスは限界』『メンテナンスが遅れると問い合わせが増える』という共通認識もまた同様にあった。これをすることで自分たちも楽になるというモチベーションの源泉は存在していたので、一念発起して実施した。変革後はデータカタログを準備して、データを増やすとき、変更があるときにメンテナンスする仕組みを整えた」(日影氏)

 上述の施策の結果、新しいクラウド基盤の活用が利用部門で急速に広がった。新しくできた個別のデータ分析環境は2021年7月から2022年1月の半年で16倍、利用部門のアカウント数は7倍にまで増加した。それにもかかわらず、スケールしやすいクラウドの特性もあり、オンプレ環境と比べてデータ補正のリカバリー時間や環境提供までの工数が大幅に減少したという。


新基盤利用数の推移と効果

新基盤利用拡大で表出した新たな課題

 利用部門のデータ活用拡大、IT部門の業務効率化と良いことずくめに思えたクラウド移行だが、新たな課題が浮上してくる。IT部門がボトルネックになることへの懸念とコストの問題だ。

分析環境構築を利用部門に移譲しIT部門のボトルネック化を防ぐ

 新しいクラウド基盤の運用開始時から、クラウド個別の分析環境をIT部門主体で作成するフローは「いずれIT部門自体がボトルネックとなる」「このまま環境数が増えるとIT部門だけでは面倒を見きれない」という認識がIT部門の中で広がったという。「環境自体を利用部門に作ってもらう、というマインドシフトが自然発生した」(日影氏)

 そこで、データ基盤のクラウド化後は、利用部門側でも分析環境や個別基盤を作成することを許容した。また、これからデータ活用に取り組む利用部門に対しては、事前にIT部門が用意したさまざまなパターンの分析環境の中から必要なものをピックアップする方式も備えた。これにより、データ分析の環境構築に不慣れな利用部門の要望にも、ある程度データ活用に慣れた利用部門の要望にも、応えられるようになった。


新基盤では利用部門がデータ分析の環境を選べるように

 「既存基盤では、IT部門が提供する決められた形の分析メニューしか利用できなかった。新基盤では、データ活用をこれから始める人に対して、IT部門が提供するさまざまなパターンの分析環境を学べる社内研修を受講することを勧めるようにした。データ活用を実施中の利用部門に対しては、自身でのAWSやそれ以外のクラウドサービスを使った環境構築も許可しており、各種接続方法(Amazon S3経由、プライベートリンク独自のAPI)や受け渡すデータ(大量一括、日次など)を各種用意している」(日影氏)

コスト問題

 クラウド活用によりしばしば発生するのがコストの問題だ。クラウド環境ではオンプレミス環境とは異なる形のコストコントロールが必須といえる。NTTドコモでもまた、利用部門が急増したことにより、利用料が高騰。2021年7月から2022年1月にかけて利用料は10倍に膨らんだという。

 「このままではクラウド利用料が経営を圧迫してしまう」と危機感を覚えた日影氏は、IT部門、SIerを含めたコストガバナンスに関する勉強会をAWSと共同で実施し、クラウド利用料についての意識を深めるように手を打った。IT部門だけではなく、SIerも含めた理由について日影氏は「SIerに、今までのオンプレミス環境のときにしていた『CPU使用率100%です』といった報告ではなく、『利用料がどうなのか、それは最適な状態なのか』を報告してもらうよう、クラウド基盤を利用するための意識改革をSIerも含めて実施した」と振り返った。

システムイメージ

 今回紹介したクラウド環境におけるシステムイメージは下記の通りだ。日影氏は「使用しているAWSサービスは一般的なもの。データの規模は大きいが、特別なサービスを使っているというわけではない」と語る。


NTTドコモのデータ基盤におけるシステムイメージ

 「データカタログやデータ分析Labと書かれている部分が、個別の分析環境やデータカタログ。この部分をメッシュにできるよう柔軟性を持たせている。中心にあるデータレイク、データ運用基盤はしっかりとしたコアとして一元管理している。右側は、さまざまなサービスノードやサービスシステムを示している。いろいろな基盤からデータを受け取れるようにメッシュな構成にしている」(日影氏)

まとめ

 経済産業省の『DXレポート2.1』には、「企業が競争上の優位性を確立するには、『素早く』変革『し続ける』能力を身に付けること、企業文化(固定観念)を変革することが重要」であり、そのために必要なこととして「SaaSやパッケージソフトウェアの活用」が挙げられている。日影氏は、クラウド基盤に移行し、IT部門と利用部門の意識改革をしたことで、データ基盤の柔軟性と利用部門におけるデータ活用の活発化を実現したNTTドコモの取り組みを「この講演のためにDXレポート2.1に目を通したが、そこに書かれている内容を今思い返すと実施できていた」と振り返る。

 「クラウドシフトにより確かに競争力を得られる。社内の意識も変わって、クラウド移行したデータ基盤はデータ活用の武器になったと確信している」(日影氏)

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