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アンナ・カレーニナの法則(Anna Karenina Principle)とは?AI・機械学習の用語辞典

「成功には必要条件を全て満たさなければならないが、失敗は1つ欠けるだけで起こる」という原則。文学作品の一節に由来し、生態学や経営学など幅広い分野で引用されてきたが、近年では機械学習の分野においても言及されるようになった。

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用語解説

 アンナ・カレーニナの法則Anna Karenina principle)とは、「成功するためには必要条件を全て満たさねばならないが、失敗は一つの欠陥で簡単に起こる」という原則である。この名称は、ロシアの文豪レフ・トルストイ(Leo Tolstoy)氏の小説『アンナ・カレーニナ』の冒頭の一文「幸福な家族はみんな似たようなものだが、不幸な家族はそれぞれに異なる不幸を抱えている」(All happy families are alike; each unhappy family is unhappy in its own way.)に由来する(図1)。

図1 「アンナ・カレーニナの法則」のイメージ
図1 「アンナ・カレーニナの法則」のイメージ

 この法則を最初に言い始めたのが誰か明確には分からないが、最初に学術的に広めたのは、生態学者ジャレッド・ダイアモンド(Jared Mason Diamond)氏である。彼は著書『銃・病原菌・鉄(Guns, Germs, and Steel)』で、動物の家畜化の成否を説明する際に「アンナ・カレーニナの法則」を引用した。例えば、ある動物が家畜化に成功するには、「人間に従順」「繁殖が容易」「成長が速い」「病気に強い」といった複数の条件を全て満たす必要がある。条件を1つでも欠けば家畜化は失敗する。つまり成功は、こうした条件が全てそろったときにしか現れないと主張したのだ。

 現在ではこの原則は、経営学、心理学、経済学など幅広い分野で応用されている。例えば経済的に成功した企業の事例を分析すると、多くの場合、「資金」「人材」「市場選定の適切さ」など、必要と考えられる全ての条件を満たしていることが共通点として浮かび上がる。一方で、失敗した企業の事例では「資金不足」「人材不足」「市場選定の誤り」など、いずれかの条件が欠けている場合がほとんどである。

 こうした構造は、企業活動に限らず、日常生活の場面にも当てはまる。例えばレシピ通りに美味しい料理を作るには、「材料」「火加減」「調味料の分量」「調理時間」など、全ての条件がそろう必要がある。どれか一つでも欠けると、「焦げる」「味が薄い」「硬い」といった失敗につながることが多い。

 同様の構造は、AIや機械学習の分野にも当てはまる。例えば高い性能を発揮するLLM(大規模言語モデル)は、

  • 大量かつ高品質なデータセットを備えている
  • 適切なモデルアーキテクチャ(Transformer、MoEなど)を採用している
  • 大規模な計算資源(GPUやTPUなど)を自由に利用できる
  • 最先端のLLM研究に精通した人材を擁(よう)している
  • LLMの開発と実装を支えるビジネス環境や国の制度が整っている

といった複数の条件を全て満たす必要がある。そのいずれか一つでも欠ければ、十分な成果は得られず、プロジェクトは失敗に終わりかねない。

 また、ブログ記事「アンナ・カレーニナの法則と真理に収束していくモデルたち - ジョイジョイジョイ」では、ヤミニ・バンサル(Yamini Bansal)らによる論文(2021年)を基に、「たとえアーキテクチャや訓練方法が異なっても、良いモデルは自然と似た表現を持つようになる」という現象を紹介し、これを「機械学習におけるアンナ・カレーニナの法則」と表現している。この比喩は、同論文で「“Anna Karenina” scenario」と呼ばれている観察、具体的には「高性能モデルは似たニューラル表現(neural representations)を学習する」という現象と対応している。

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