GPUが足りない、脚光を浴びる「ネオクラウド」とは? McKinseyが解説:クラウドとしての将来性も評価
McKinsey & Companyは、GPUが不足する中で登場し、台頭してきた「ネオクラウド」について、市場における立ち位置や、今後の展開について考察した記事を公開した。
独立系GPUaaS(GPU as a Service)プロバイダーや、GPUクラウドプロバイダーとも呼ばれる「ネオクラウド」は、GPUなどのハイエンドコンピュートリソースの需要が高まる中で登場し、存在感を示すようになった。
コンサルティング会社McKinsey & Companyは2025年11月19日(米国時間)、ネオクラウドについて、台頭してきた背景や、市場におけるその立ち位置、今後の中長期的な展望について考察した記事を公開した。
ネオクラウドの躍進
近年、生成AIモデルの規模と複雑さの拡大に伴い、高性能GPUの需要が急増しているが、ハイパースケーラーが先端チップの大部分を確保した。そのため、多くのAIスタートアップや企業がGPUの調達に苦労するようになり、そのギャップを埋めるためにネオクラウドが登場した。
脚光を浴びる「ネオクラウド」とは
ネオクラウドは、柔軟な契約、迅速なプロビジョニング、特化型インフラ構成、低価格を武器に人気を博している。例えばGPUクラウドサービスを提供するThunder Computeは、同じGPUのインスタンスを利用する場合、ネオクラウドの料金はハイパースケーラーに比べ、総じて2倍から7倍も安いと指摘している。
Amazon Web Services(AWS)のようなハイパースケーラーとは異なり、GPU貸しに特化することで構築の手間もコストも少なく事業を始められる。そのため参入障壁が低く、世界で100以上のネオクラウドが乱立している。AI半導体メーカーも、販売先の分散のためにネオクラウドを後押ししている。だが、BMaaS(Bare-Metal-as-a-Service)モデルに基づいている場合が多く、その経済性は脆弱(ぜいじゃく)だとMcKinsey & Companyは指摘する。
ネオクラウドの長期的な存続の道として、AI活用向けのソフトウェアやサービスを拡充することが投資家から期待されているが、この方向に進めば、ハイパースケーラーと真っ向から競争することになる。ネオクラウドの将来は、ソブリンクラウドや特殊なワークロードといった永続的なニッチ市場で地位を確保することや、AIスタートアップとの二人三脚での成長を目指すことにあると考えられる。
だが、ネオクラウドには、2000年代初頭の「クラウド1.0」時代以降に、ハイパースケーラーに淘汰(とうた)された多くのクラウドスタートアップの二の舞いになるリスクもある。
ネオクラウドの将来性
これまでベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ(未公開株式)ファンド、政府系ファンドなどは、主に以下の4つの認識から、ネオクラウドへの投資を進めてきた。
1.BMaaSモデルは通過点
多くのネオクラウドが立脚しているBMaaSモデルは、差別化の方法が限られており、価格競争にさらされるため、コモディティ化しやすい。だが投資家は、AIモデルの学習管理や分散推論などを支える専用ソフトウェアも提供するようになると考えている。これにより、顧客は他社サービスへ乗り換えにくくなり、安定した収益が見込めるようになる。ネオクラウドもソフトウェア企業のような高い収益構造を実現できる可能性があると期待されているのだ。
2.コンピューティング需要は無視できないほど巨大
ネオクラウドがBMaaSモデルにとどまったとしても、ネオクラウドが顧客を見つけることは難しくないだろう。AI向けのコンピューティング需要は急拡大しており、インフラ供給の不足が続いているからだ。
3.減価償却済みのコンピューティング資産には持続可能な価値がある
ハイパースケーラーとの一次契約終了後も、GPU基盤は企業や中堅市場向けに再利用され、残存価値を維持できる。ネオクラウドは、ハイパースケーラーとのオフテイク(将来の購入)契約を利用してこれらの資産の取得資金を調達し、最新半導体を必要としない企業に、より安価にレンタルすることで、資産の経済寿命を延ばせる。
4.半導体メーカーはリスク低減をもたらす
半導体メーカーは、GPUなどの供給を優先したり、資金を融資したり、一定量の取引を保証する契約を結んだりすることで、ネオクラウドの事業継続を後押ししている。
BMaaSモデルの不確実な経済性
ネオクラウドには将来的な可能性があるものの、現在主流であるBMaaSモデルの経済性は、以下の3つの理由から見通しが芳しくない。
1.価格や稼働率の変動に左右されやすい
BMaaSモデルでは、減価償却費を差し引く前の粗利益率は、通常55〜65%だ。この粗利益率と、GPUやCPUの購入およびサーバ構築の高い資本集約度から、BMaaSモデルは、価格や稼働率の変動に左右されやすい。GPUレンタル価格がわずかでも下落したり、稼働率が80%を下回ると、リターンは横ばいとなる。負債による資金調達(デットファイナンス)を考慮に入れると、経済性はさらに脆弱だ。金利負担が残存マージンをさらに削るからだ。
2.価格下落と資本集約度が投資を圧迫
半導体のリリースサイクルは価格水準に下降圧力を加える。新世代の半導体が登場するたびに、古いGPUの価格は下落し、典型的な5年間の減価償却期間中に、GPUの時間料金は半額以下に落ち込む可能性がある。そのため、プロバイダーは資産の遊休化を避けるため、GPUが稼働開始して4〜5年以内に資本を回収するだけでなく、競争力を維持するために新世代GPUに継続的に再投資する必要がある。
3.大規模契約は見た目ほどもうからない
一部の報告によると、GPUレンタル事業の粗利益率は、人件費、電力コスト、減価償却費を差し引いた後で14〜16%にとどまり、多くのリテール向け非テクノロジー事業よりも低い。
ネオクラウドにとって、大規模契約の魅力は、単体での経済性よりも、ベースラインの稼働率がほぼ保証されることと、信頼性のお墨付きが得られ、投資家へのアピールにつながることにある。
ネオクラウドの今後の道筋
中長期的にネオクラウドが生き残るための道筋として、以下の3つが考えられる。
1.ニッチ市場で防衛可能な地位を築く
ハイパースケーラーが力を発揮しにくい、または歓迎されない市場でネオクラウドは地位を獲得する可能性がある。例えば、政府や地元の有力企業に支援されたソブリンクラウドは、データの機密性を維持するため、ハイパースケーラーからの独立を重視する。超低レイテンシ推論や規制分野に最適化された專門サービスプロバイダーも、有望なパートナーとなりそうだ。
2.スタートアップに焦点を当て、共に成長する
大企業を追いかけるのではなく、コア顧客としてAIスタートアップに注力し続ける。創業当初からコンピューティングサービスを提供して後押しすることで、こうしたスタートアップが大規模なワークロードを処理する年間売上高数十億ドル規模の企業へと成長するまで、信頼関係を築く足がかりになる。
3.再編・統合
再編・統合も、ネオクラウドにとって考えられる道筋だ。クラウド1.0時代のスタートアップと同様に、ネオクラウドの一部はハイパースケーラー、通信会社、または政府系の買い手の傘下に入るだろう。また、供給が追い付けば、姿を消すネオクラウドも出てきそうだ。
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