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BREWは携帯電話のソフトのあり方を変えるか?
〜KDDI Javaが公開されたいま、その今後をにらむ〜

嶋 是一
2001/7/17

BREW SDKが公開された

 2001年5月16日に、BREW SDKが公開された。BREWとは、Qualcomm社製のcdmaOneチップを採用している携帯電話の上で、ソフトウェアを開発する環境である。

 1月にQualcommがBREWを発表したときに、KDDIは「今後、cdmaOne端末にBREWを搭載していく」ことを明言したものの、現時点ではBREWに対応した携帯電話は発表されていない。また、いつから対応携帯電話が出るかも正式にアナウンスされていない。つまり、現時点ではSDKのエミュレータで開発環境を味わえるだけで、試せる携帯電話は国内には存在していない(韓国では、いち早くBREW対応電話機が発売され、サービスが始まっている)。

編集局注
 「BREW」(Binary Runtime Environmentfor Wireless)は、携帯電話向けのアプリケーションをC/C++言語で開発できるプラットフォームで、1月31日に発表された。BREWについての詳細は、「新たな携帯電話向けアプリケーション環境が登場−QUALCOMMが携帯Java対抗の「BREW」を発表−」をご覧ください。

 BREWを利用すれば、パソコンでWin32APIソフトウェアを組むのと同じように、C/C++言語で携帯電話のアプリケーションを作成することができる。興味のある人は、ぜひSDKを手に入れてサンプルソースを見てほしい。Win32 SDKとそっくりであることが分かるだろう。

BREW SDKは、http://brew.qualcomm.com/sdk/からダウンロードできます。

 いままでは携帯電話の内部がブラックボックスになっており、新規の機能を追加するのが難しかったのだが、このBREWが搭載された携帯電話では、それが比較的簡単にできるという点が画期的といえる。

KDDIのJavaサービス「ezplus」の発表

 BREW以外にも、携帯電話内部でプログラムを実行させるものはすでに存在している。それは、NTTドコモがiアプリで採用したJavaだ。そして、このiアプリに続くJavaサービスとして、KDDIが2001年7月4日に「ezplus」を開始し、同日その仕様が公開された(http://info.ezweb.ne.jp/factory/index_04.html)。ezplusは、MIDPをベースとし、KVM上に構築された携帯電話Java実行環境である。対応携帯電話も日立とカシオ計算機から順次発売される。

 ezplusがiアプリの仕様と比べて異なる点としては、

  • アプリサイズが50KBまで
  • ezplusアプリファイルは、JARとJADファイルが一緒になった、KJXファイルとして扱う
  • ネットワーク通信は携帯電話間の1対1(単発)通信(ezplusプラットホーム通信)(HTTP通信は秋から可能になる予定。現在はサーバとの通信はできない)
  • アドレス(電話)帳の読み出し、データフォルダの読み出しとデータ再生、着信バイブレータ、LEDの制御可能
  • 電界強度、電池残量、端末型名の情報取得可能

などが挙げられる。これを見ると分かるように、iアプリと比べると端末内部の多くのリソースにアクセスできる特徴を持っている。

 そのため、携帯電話の機能に近いアプリや、メディアデータを活用したアプリの作成が可能だ。ニュースソースから想像すると、正式ezplusコンテンツには、オブジェクト通信jumonなどや、より大きい移動機の操作権限を持っているように思われる。このようにezplusは、iアプリを意識して、意欲的な実装となっている。アプリ制作者は、今までにない面白いアプリの作成ができるだろう。

BREWとJavaの関係

 iアプリやezplusで採用されたJavaとBREWは、同じ携帯電話内部でプログラムを実行させるものということで、競合関係のように取られがちだが、実際には異なるものだ。ストレージ内容のアクセスのように、どちらでもできることもあるが、BREWならではの特徴も数多くある(ダイナミッククラスローディングなど多数)。Javaと比べると、BREWでは下記に示したように、端末内部深くまでコントロールを行えるという点が違っている。

  • ストレージ内容のアクセス
  • ネットワーク関数(SOCKET)の公開
  • メール、GPS、CMX他の端末機能のコントロール

 しかし、逆にいえば、何でもできる分、セキュリティ上の問題がある。この状況は、MicrosoftがActiveXを公開した当時、何でもできるが故にセキュリティの危なさを指摘された事情とよく似ているように思える。そのため、KDDIのBREWの運用においては、厳しい利用制限がかかる可能性がある。また現状作成したBREWアプリはQualcomm社の認証を有償で受けることが必須となっている。

 このような事情により、誰もが安全に作れる、また勝手サイトでも作れる(現状ではiアプリのみだが)アプリケーションはJava、特別な携帯電話内部の1アプリとして制作するのはBREWというすみ分けができるのではないだろうか。

ネットワークが使える!

 BREWの可能性を語るときに外してならないのは、SOCKET関数が利用できる点である(BREW用にカスタマイズされ、クライアントに制限がある)。つまり、TCP/IP、UDP/IPレベルのアプリケーションの開発が可能なのだ。インターネット標準の(アプリケーション層)プロトコルにとどまらず、独自のプロトコルも作成可能になる。ここに大きな可能性を持つ。

 例えば、PC上でインターネットストリーミングプロトコルを利用したアプリケーションを作成しているベンダがいるとしよう。BREW上で作成することで、携帯電話にて専用プロトコルを受信することができる。つまり、携帯電話上での専用圧縮プロトコルを再生する仕組みが実現可能なのだ。視聴者の数が重要となるインターネット放送局にとって、多くのユーザーのいる携帯電話の画面を利用できる点は大変意義があるだろう。また対戦ゲーム専用プロトコルを開発しているベンダは、それをBREWに搭載すれば、BREW上で対戦ゲームアプリケーションを動作させることができる。ブラウザだって、メーラだって作ろうと思えば実現可能だ。

 もちろん、実現するための環境(事業者側)のハードルは高い。ネットワークを利用するためには、事業者網から一般網にアクセスする必要がある。そのため、昨今うたわれている携帯電話網の一般公開が実現する必要がある。また、ユーザーのパケット課金が高い現在、あまり実用性が高いものでもない。BREWの安全運用のための利用制限も気になる。しかし、これは運用方法と時間が解決するものと信じている。

BREWの安全運用の可能性

 BREWの安全運用の確保であれば、アプリケーションのダウンロードではなくて、プリセット(出荷時から入っているアプリケーション)という形式が考えられる。つまりソフトウェアベンダが、携帯電話メーカーにBREWアプリケーションのプリセット搭載を働きかける図式である。いままでは、仕様公開がされないと参入できなかった分野だが、BREWで作成してから搭載を働きかけたり、売り込んだりといったことができるようになる。

 IBMはメインフレームを作り出し、汎用にすることでSEという職業とその市場を作り出した。またMicrosoftは、パソコンのWindowsを作り出し、Win32という汎用APIによって、Windowsプログラムの新しい市場を作り上げた。BREWは携帯電話組み込みソフトの世界で、新しいソフトウェアと市場を開拓する可能性を含んでいる。これを生かすも殺すも、これからの開発ユーザーの力と、事業者のサービスにかかっているといえる。

 まだBREWは生まれたばかりである。BREWを搭載した携帯電話で新たな携帯電話の世界を作り出すのは、いまではないだろうか?

 



 


 
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